私的偏愛録 其の九 茨木のり子『歳月』

年齢的に、数年前まではよく言われていた。「結婚しないの?」と。

相手がいれば速攻したいし、なんなら貴女がわたしの結婚相手見繕って下さいよ!…なんて言い返せるわけもなく、へらへらしながら「いやぁ、まだですねぇ。えへへ」なんて答えたりしていた。

そういうことを無遠慮に言ってくる人に限って、結婚生活における素晴らしさをプレゼンするわけでもなく、夫や姑、子どもへの愚痴を一通り述べて、「…でも、はやくしたほうがいいわよ、結婚」という、意味のつながりが不明瞭な接続詞をつけながら、結婚の必要性について語ったりする。

そんなもやもやする気持ちでいた頃、一冊の詩集に出会った。

そこには、自分より先に亡くなってしまった夫への想いがことばから溢れていた。溢れすぎて溢れすぎて、わたしは読み終わったあとにはじめて強く思った。「結婚したいな」、と。

残念ながら結婚する予定も相手も未定だし、この先べつな作品に感化されて考え方も変わるかもしれないが、茨木のり子が残した愛に溢れたことばたちは、わたしのこの先の人生の糧になるだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?