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藤井総太王位がやって来た ~将棋について話そう

実は自分は将棋が好きだ。「観る将」といって自分ではやらないが観るのが好きな人たちの一人である。なぜかというと、将棋が持つゲームとしての面白さに加え、個性的なプロ棋士の魅力ある人間性に惹かれているからである。今回は一ファンから見た将棋の魅力について書こうと思う。


▶藤井総太が豊田市にやって来た

2023年の忘れられない出来事、それは7月7日と8日の2日間、我がホームタウン豊田市で将棋のタイトル戦「伊藤園お~いお茶杯 第64期 王位戦」の第1局が地元豊田市で開催された事だ。対局者は今や知らない人はいない将棋界のスーパースターであり「将棋星人」の藤井聡太王位と新進気鋭の実力者であり、あの「地球代表」深浦康市九段の愛弟子である佐々木大地七段という豪華な顔触れである。

今回、藤井聡太王位の地元愛知県での対局とあって、メディア含めてかなり盛り上がっていたのだが、それに加えて自分が所属する会社がこの王位戦第1局に協賛したことで様々なイベントに参加させて頂いた。その結果、自分にとってこの週は「将棋ウィーク」となったのである。どんな内容だったかと言うと。

  • 7月6日(前夜祭)に参加して両対局者のトークショーを聞く

  • 7月7日(王位戦初日)対局場で「初手立ち合い」に参加、3メートルの至近距離から藤井王位の「初手、お茶」を拝むことに成功

  • 7月8日(王位戦2日目)杉本八段、室田女流二段らの大盤解説会に参加

この中で自分は、実際の対局に立ち合いと言う一生に一度経験できるかできないかの貴重な体験をさせて頂いたのである。

↑↑↑初手立ち合いでは高見七段の後方でしれっとテレビと新聞に映り込む…

将棋のタイトル戦では、初手立ち会いと言われる試合開始の儀式が行われる。初手立ち会いには、将棋連盟から指名された現役棋士数名が立会人と副立会人が参加するが、その他にごく少数の関係者(主催者の新聞社の偉い人や豊田市長、スポンサー企業の代表者)も副立会人として参加することができる。そして今回は、幸運にもスポンサー企業枠の一人として自分が参加させていただくことになったのだ(実際は自分の上司の計らいで実現。感謝!!)。

初手立ち合い。対局開始前の様子。

私は7日の朝、対局場である豊田能楽堂に行き、対局開始の1時間ほど前から現場入りして控室でその時を待っていた。対局の30分前になると対戦場である能楽堂の舞台に移動して、両対局者の入場を待つ。

20分ほど待つと、佐々木大地七段と藤井聡太王位が会場に姿を現した(自分のすぐ横を通って席に座るのです)。そして振り駒を行い先手後手が決まると立会人が開始の合図、決戦の火ぶたが切って落とされる。

静まり返る能楽堂。

駒の音だけが広い会場に響き渡った。

4手ほど手が進んだ頃に自分も含め副立会人が会場を後にした。こうして初手立ち合いの儀式が終わったのだ。声にならない独特の緊張感に包まれた時間であり、貴重な体験だった。

前夜祭@コンサートホール
前夜祭@コンサートホール
大盤解説会(高見七段と杉本八段)
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▼杉本昌隆八段の魅力

王位戦の大盤解説会にも登場した、藤井総太八冠の師匠である杉本昌隆八段をご存じだろうか?

杉本八段は名古屋出身、名古屋を拠点として藤井総太八冠や室田伊緒女流二段などを育て、東海地方の将棋の普及に力を注いでいる棋士である。

この杉本八段、ここ数年の藤井フィーバーでマスコミへの露出も多くなり、かなり有名にはなったのだが、実は7月の王位戦の直前に本を出している。週刊文春で連載したエッセイをまとめた「師匠はつらいよ」だ。

早速自分も購入したので、この本で描かれている杉本八段について書いてみる。

本書には、藤井八冠の育ての親としての「師匠 杉本昌隆」、将棋指しとしての「棋士 杉本昌隆」、将棋界の普及活動に勤しむ「ビジネスマン 杉本昌隆」、友人との交流を通じて豊かな人生を歩まれる「人間 杉本昌隆」が描かれている。杉本八段は昭和43年生まれで自分とほぼ同じ年齢ということもあり、親近感を持っていたが、この本を読んで杉本八段の人間的な魅力を知ってますます好きになったのだ。

自分が特に好きなのは、弟子を伸び伸びと育てる「師匠:杉本昌隆」と、将棋の普及に奔走する「ビジネスマン:杉本昌隆」の姿である。

将棋の世界は上下関係が厳しく、師匠のいう事は絶対だ。弟子は三歩下がって師匠の影を踏まず、なんて感じ。ところがこの杉本八段、そんな雰囲気が一切ない。礼儀作法や所作は厳しく教えるが、それ以外はとにかく温かく見守り、藤井翔太の将棋スタイルには一切口出しをしないで成長を後押しするのだと言う。「藤井総太君は小さい頃から実力があり天才だからでしょ?」と言う声もあるが、能力だけでなくその人間性や礼儀作法も重要視される将棋界において、天才を生かすも殺すも師匠の腕次第なのである。そういう意味で杉本八段は「名将」であり「人材育成の名手」なんだろう。

小学4年生の藤井総太少年を弟子にした9年前、私は7段だった。そして今藤井総太少年は二冠、私は八段である。「段位で追い抜かれましたが?」の問いに思わず「ずるいですねえ」

師匠はつらいよ より

近年、将棋のプロ棋士は総じて多忙である。
王位戦の時の杉本八段の予定をみるとその一端がうかがえる。

  • 7月6日(前夜祭)豊田市コンサートホールで前夜祭のトークショー

  • 7月7日(王位戦初日)東京でAbema将棋チャンネルの解説

  • 7月8日(王位戦2日目)再び豊田市。豊田市文化会館で大盤解説会。

杉本八段は、本業である棋士として対局するだけでなく、タイトル戦やネットテレビの中継の解説などイベントへの出演や週刊誌へのコラムの執筆、そして普及のための将棋教室の開催など、様々な顔を持って多方面で活躍しているのがわかる。

まるで多忙なビジネスマンのようだ。

それだけではない。棋士には対戦に向けた練習対局や研究と呼ばれる作戦を立てる時間が必要なのである。最近の将棋は、この研究をどれだけ充実させるかが勝率に関係するので、最近どの棋士もパソコンを駆使してAIで研究をしている。

勿論「研究会」と言うリアルな研究の場で生身の人間と対局を重ねることもあるが、パソコンに向かてネットワーク越しに他の棋士と対戦したり、将棋ゲームでアマチュアと対戦したり、さらに相手がいない時はパソコンの将棋ソフト(AI)相手に研究を積んでいるのである。

要するに、パソコンやAIを使いこなせない棋士は、良い成績を残せなくなってきているのである。実績がありベテランの域に入った杉本八段でも、このような新しいやり方を取り入れていかないといけない厳しい時代になっていることも事実なのだ。

ベテランのビジネスマンが新しい仕事の仕方にアップデートしたり、リスキリングで学び直しをしなければいけないのと同じように。


▼将棋を楽しもう

いかがでしたか?少しでも将棋に興味を持ってもらえましたか?

将棋のルールが分からなくても、ネットの将棋中継を楽しみながら見ていると自然とルールや知識がついてくるもの。将棋の面白さと共に奥深さを是非みんなにも味わって欲しいものである。

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