高詰とまと

趣味で書いたショートショートやエッセイなどの置き場所。

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最近の記事

エッセイ#5「我が家の味噌汁」

 夫は外食で出される味噌汁が飲めなくなった。味が濃く感じるらしい。これは私が作った味噌汁を飲み続けた結果だ。  夫は埼玉県出身の関東人で、私は兵庫県出身の関西人だ。本日に至るまで我々二人は、いくつもの関西vs関東を繰り広げてきた。言葉の壁に始まり、風習、金銭感覚まで。同じ日本人なのに、ここまで違うのか。反発したり妥協したりを繰り返し、トイレットペーパーはシングル、食事の配膳位置は関東式、お雑煮は丸餅と白味噌、肉じゃがは牛肉と、お互いの意見を擦り合わせつつ生活を共にしてきた。

    • エッセイ#4「母からの便り」

       携帯電話が鳴った。スマホの画面を見ると、地元に住む母からだった。母との電話のやり取りは、年に一度あるかないかである。だからといって別に仲が悪い訳ではない。とにかく母は忙しい人なのだ。色々なボランティア活動に参加し、一年中走り回っている。だから、私から電話を掛けても、中々母は捕まらない。しかし、ひとたび電話が繋がると、母の話は止まらない。しかも内容はどうでもいい話ばかり。二時間以上は軽く超えてしまう一方的な母との会話は、私にとって少しハードルが高い。結局、私から電話を掛けるこ

      • エッセイ#3「レアポケモン」

         ポケモンGOにハマっている。いや、ハマっているのを通り越して沼ってしまった。今の若者言葉『沼った』とはこういう時に使うのだなと実感する今日この頃である。『ポケモンGO』はスマートフォンのゲームアプリで、位置情報を活用した、マップ上に現れたポケモンを捕まえるゲームだ。  最初は軽い気持ちだった。気分転換をしたい時などに、近くの公園を散歩しながら、ポケモンを捕まえるぐらいの楽しみ方をしていた。しかし、今まで最寄りの駅までバスを使っていた私が、いつの間にかバスに乗るのを辞め、2

        • エッセイ#2「水の神様に守られて」

           二十数年前の八月。私は次女を出産した。 この日は朝から晴天だった。青く透き通った空に真っ白い綿雲が浮かび、眩しく輝く日差しが暑さを増す。まるで絵に描いたような夏空が広がっていた。ところが、娘がこの世に生み落とされると天候が一転。遠くでゴロゴロ鳴り響いたかと思うと、空一面に暗雲が垂れ込めて、天を切り裂くように稲妻が走り、あっという間に雷雨に変わった。  病室の窓から見える景色は激しい雨に包まれていた。窓ガラスに強く打ち付ける雨音を聞きながら、ふとカレンダーに目をやると今日は

        エッセイ#5「我が家の味噌汁」

          ショートショート#1「ストレス発散できるCD」

           仕事から疲れて帰ってきて、「今日も一日頑張ったよ、私」と自分を労いながら、一枚のCDを戸棚から取り出す。  ここに一枚のCDがある。サブスクの時代に今どきCDだなんて……と思うかもしれないが、このCDは普通のモノとは違う、現代人には有り難い機能が隠されているのだ。  まず機能の一つに、フリスビーのように投げると、収録された曲が流れる仕組みになっている。音楽を再生するのにCDプレイヤーは必要ない。CDのみで再生可能だ。 「いやいや、スマホでよくない?」とごもっともなご意

          ショートショート#1「ストレス発散できるCD」

          エッセイ#1「我が家のナイトルーティン」

          「やめてくれ」 今夜も夫が私に言い放つ。私だけが楽しんでいる夫婦の日課である。  私の好きな匂いのひとつが夫である。と言っても、テレビCMみたいに、風になびく髪から、ほのかに漂うフローラルなシャンプーの香りがするわけではない。むしろ夫は面倒くさがりで、二日に一回しか頭を洗わないし、隙あらば風呂に入らずベッドにもぐり込もうとする、とんでもない男である。キレイ好きな私にとって、永遠の敵のはずなのに、なぜか夫の匂いが大好きと言っても過言ではないのだ。  夫の匂いを嗅いでみると、

          エッセイ#1「我が家のナイトルーティン」