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【雑感】久しぶりに国土交通白書を読んで

建設コンサルタントとして働いていた2001年から10年程は、所管官庁である国土交通省の政策動向を把握するため、国土交通白書を読んでいた。
それから10年以上が過ぎ、現在の国土交通省の動向のキャッチアップと、時代の変化が施策にどのような変化を与えているかを確認したく、国土交通白書(令和4年版)を読んだ。その感想等を記載する。

やはり気候変動

第I部として冒頭に掲げられているのは、「気候変動とわたしたちの暮らし」だ。人間活動による地球温暖化については、夏の酷暑や、ゲリラ豪雨の多発、大型の台風や猛烈な降雨の増加など、実際に私たちの生活を通して実感しているところである。

白書では、気象災害の激甚化・頻発化について、現状を俯瞰した上で、このまま温暖化が進行した場合の、気象災害の将来予測についても述べている。

その中で、気象災害リスクは「ハザード」「脆弱性」「曝露」の3要素が相互作用して決定するという、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で紹介されている考え方を引用している。

ハザードとは、豪雨や熱波などの災害そのものを指す。ハザードは温暖化の影響で強大化の傾向にある。
脆弱性とは、堤防や防波堤の整備、またそこに暮らす住民の災害リテラシーやいざという時の避難活動など、災害への対応力(の脆弱さ)である。
曝露とは、気象災害の曝露対象の人口や資産である。河川の氾濫や高潮の影響を受ける低地や河口などの人口が集中するエリアは、曝露対象といえる。

従来の災害対策は、堤防やダムなどを整備するハード対策と、住民に防災教育や避難行動を促すなどのソフト対策を両輪で進める施策であったが、これらはいずれも「脆弱性」に対する対策であった。

これらの対策に加えて、土砂災害リスクの高いエリア、氾濫リスクの高いエリアなど、ハザードマップの整備と周知を引き続き進め、都市計画等の中で、リスクの少ないエリアへの居住を促しているなど、「曝露」リスクを下げる視点が加えられていたのが、近年での新たな視点と理解した。

「ハザード」が強くなる中で、従来の「脆弱性」対策に加えて、「曝露」リスクを低減する方針。10年前の白書には無く、ここ数年で加えられた新たな変化の一つであろう。

DXも気になる

独立した章立てでは無かったが、DX(デジタルトランスフォーメーション)やビッグデータの活用についての記載も気になった。
現在私が取り組んでいるヘルスケア・保険業界でもDX及びビッグデータの利活用は旬なトピックで、各所で取り組みが進んでいる。
国土交通行政において、これらの取り組みが進んでいるのか遅れているのは実感として持っていないが、白書の中では、いくつか関連する記載が確認できた。

例えば、物流DXやこれを通じた物流の効率化については、伝票、データ、外装サイズ、パレットなど物流を構成するソフト・ハード両面の標準化が重要となる。現状、個社での部分最適にとどまっている所を、国土交通省が経産省・農水省・物流団体等と連携し、全体最適へ向けた議論を進めているとのこと。

また、個別技術で印象的なのは、ドローンを活用した離島や山間部への輸送技術の実証実験を進めているとのこと。過疎の進む地方では、道路や水道などのインフラ面を含めて、社会基盤の維持が課題となっている。そうした課題解決の一手段として、ドローンの活用は興味深い。

国家戦略特区、最近耳にしなくなったが…

国家戦略特区についての記載は数行にとどまったが、気になったので補記する。
国家戦略特区は、平成25年第2期安倍内閣の時代に、岩盤規制を突破し、地域振興と国際競争力向上を目指して規定された経済特区である。成長戦略の柱の一つとして掲げられ、全国10区域408事業が認定されている。

兵庫県養父市では、過疎化等によって放置された農地の企業による有効活用を促進する施策が導入されている。特区の特例措置前は、農地を取得できる法人は農地所有適格法人に限定されていたが、特区では養父市に所有権を移転し、民間企業が農業に参入しやすくし遊休農地の解消や6次産業の促進を進めている。

ちなみに6次産業とは、農林業者(1次産業)が農産物の価値をさらに高め、所得向上していく産業とのこと。農産物の価値を上げるために、生産(1次)だけでなく、食品加工(2次)、流通・販売(3次)にも取り組むため、1×2×3=6次産業とのこと。

国際貢献と戦略的国際展開の視点

インフラシステムを新興国を中心とした海外に展開することは、途上国や新興国の経済発展への貢献という側面と、日本企業の海外進出に伴う日本自身の経済成長、また相手国との政治的関係性強化という複合的な役割がある。第2次大戦後の戦後賠償やその後の初期ODAでは、相手国への賠償や支援という趣旨が中心で、政治的・経済的メリットは語れる文脈に無かったと思う。
現在では、中国のアジア地域での影響力の拡大、アメリカと中国の対立構造の中、日本のODAも官民連携のもと、戦略的に日本の利益に叶うよう活用していくべきと思う。
その意味で、国土交通省がインフラシステム等の海外展開において、政府方針の下、戦略的に施策を推進していくことを今後も注視したい。

今回、国土交通白書を全体的に俯瞰して読んでみたが、気候変動への対応、DXやICT技術の活用、地域振興、観光資源と産業の強化、国際展開など、とても広範な事業領域を管轄していることを改めて感じた。引き続き、国土交通行政に注目していきたい。

(参考文献)国土交通白書
 https://www.mlit.go.jp/statistics/file000004.html


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