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夜はいつでも回転している

86夜 壁


アールデコだかアールヌーボーだかの模様を施された大きな額縁に入った絵がある。シミのある壁のような抽象的なものを描いた大きな絵だった。壁にはシミや落書きが描いてあった。作者不明のその絵は資産家の屋敷に飾られていた。

パーティーを抜け出して広い屋敷の中を探索している時に見つけた。どこかで見たような気がする。しかしこの屋敷に来たのは初めてなのでここで見たわけじゃないだろう。

しばらく眺めていると違和感があった。それがなんなのかすぐにはわからなかった。更にじっくり見ていると気がついた。

壁のシミが増えている。

ゆっくりした変化なのでパッと見ただけではわからない。壁はどんどん劣化していく。少しずつ剥がれ始めている。

絵に見えるが映像なのか、それともそういう仕掛けがされているアート作品なのかはわからなかった。
 

気がつくとパーティーで伴奏されていたピアノの音は止んでいる。

どのくらい見ていたのか。腕時計を見たが止まっていた。会場に戻ると誰もいない。
それどころか屋敷はいつの間にか荒廃し廃墟と化していた。


何がどうなっているのかわからない。外はずっと太陽が照り付けていた。屋敷は海辺にあったはずだが砂漠になっていた。いつまで経っても陽が落ちない。時間がどこかへいってしまったみたいだった。

大きな絵があった部屋に戻る。額縁の中の絵の壁は剥がれきって暗闇になっていた。暗闇に触れると中へ入れる。額縁の中に身を入れると少し涼しくて心地いい。

そのまま暗闇に入って奥へと歩いていった。

歩く度に靴音が響く。その響きが心地よくて思わずタップを踏んだ。タップダンスをしながら最初に見た絵の壁のシミや落書きを子供の頃に見たことを思い出した。小さい頃に住んでいた故国を囲っていた壁に落書きした壁だった。



End

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