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【#13サイエンスコラム】実験の被験対象が"オス"に偏る理由

一週間休刊させていただきましたサイエンスコラム
現在、私自身が動物実験を行う中で、「論文のデータが雄に偏っている」という記事を目にしました。
そこで、今回は、「実験の被験対象がオスに偏る理由」についての論文の内容について書いていきたいと思います

Topic💡:実験の被験対象がオスに偏るのはなぜ?

1.簡単に今日の参考論文のご紹介

【タイトル】
Inclusion of females does not increase variability in rodent research studies(2017)

「雌を加えても、ネズミの研究のばらつきは大きくならない」(直訳)

書かれている内容をポイントでまとめると、

「動物実験では、女性被験者の割合が少ない」
「最近の研究では、メスのげっ歯類はオスに比べて変化がないことが示されている」
✅「設計により、サンプルの数を増やすことなく、両性を含めた分析が可能である」
✅性差は効果の大きさの情報とともに提示すべきである


2.どうしてオス(雄)のみが使われてきたのか?(現状も含む)

これまで研究の中で、10分野中8分野(一般生物学、神経科学、生理学、薬理学、内分泌学、行動生理学、行動学、動物学(生殖学と免疫学は例外))で男性偏重の研究がされていたそうです。

痛み,心血管疾患,糖尿病,手術法に関する前臨床動物研究の調査でも,同様に男性を対象とした研究に偏りが見られた。

外科系の文献では,性別を明記した研究の80%が男性被験者のみを使用していました.

神経科学分野では,女性を対象とした研究1件に対して男性を対象とした研究が5件以上あり,両性具有の研究は約20%にすぎず,25%は研究対象者の性別を明記していませんでした
*両性具有の研究=男女両性のサンプルを同等量用いること

この理由として、

✅雌(メス)は、性周期があり薬物に対する反応や脳スキャンの結果に影響を与える、ホルモンバランスが変動性が高い、エストロゲンのようなホルモン実験結果を歪め、安定した実験結果を取得しにくいのではないか?
オスとメスの両方を使用すると、データの広がりが大きくなり、男女それぞれのサンプル数が必要となる。統計的検出力が低下するという懸念

あると言われています。

ここには、昔からの ”人間の精神に関する最も根深い誤解のひとつに、男性は単純で女性は複雑” という古典的概念も含まれていると言われています。

ですが、実際のところ、男性と女性を含む研究であっても、被験者の性別による分析は一般的に行われていないそうです。

動物を対象とした外科研究の調査では,結果を性別で分析した論文はわずか1%でした。神経科学の例では,人と動物の両方を対象とし,結果を性別で分析した論文は5.5%であったが,他の分野ではさらに低い割合であったそうです

つまり、ほとんどの論文では、オスとメスの間に性差があるかないか分析はすることなく、被験対象に偏りがある実験をしているという現状があります

3.実際は、差があるのか?

論文に書かれていた検証を端的にまとめます

ー仮定1:メスはオスよりも周期や個体間で変化が大きい

検証結果 ☛ヒトのマイクロアレイデータセットの解析でも,男性の方がわずかに変動幅が大きいことが分かった

つまり、オスも変化が大きいということ

ー仮定2:雌は発情周期を超えて検査しなければならない

検証結果☛ 雌はいくつかの形質で一貫した発情周期依存性の変動を示すのに対し、雄は異なる時間スケールの変動を示す、あるいは個体間でより大きな変動を示す、ということが考えられます

つまり、メスもオスも変動する周期があるということ


ー仮定3:オスとメスを結果に混ぜると、統計力を低下させ、進歩を遅らせる

検証結果☛ 治療法と性別の間に相互作用がある場合以外、変わらない

つまり、特定の条件下以外は、統計や進歩に関する要因には性差はならない

*内容を簡素にまとめているため、詳しくみたい人は論文をどうぞ

4.結論

現在、NIH(米国国立衛生研究所)は、研究にメスの動物を含めることを義務付けました。また、前臨床研究者に対して、被験者の性別を報告し、性別を生物学的変数として考慮することを指示していますが、性差の分析は行わなくてもよいとしています。

一部では、男女の代謝の違いなどで、男性には効くが女性には効かなかった傾向の薬の事例もあります。

また、男と女の間のいくつかの違いは、生物学的な性別よりも文化やジェンダーに関連する要因に基づいているかもしれないという研究結果もあります

もちろん性差はたくさんあります。ですが、生物学的な観点で、

女性=男性を複雑にしたもの

としてオスのみを使用するのは、事実ベースで考えても不足のある結論と言えるのではないでしょうか?

<参考資料>

ハエの観点から性差を調べる研究者👇

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*まだ、科学分野の者として日が浅いため、誤りが出てくる可能性があります。もし、内容が事実と異なる場合は、教えていただけると嬉しいです。

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