営業の未来を想像してみた
リモート商談、電子契約、AI活用など、営業職の働き方を進化させるテクノロジーやサービスが次々に登場している。営業メインのキャリアを歩んできた身としては、これから何がスタンダードになっていくかが楽しみでもあり、不安でもある。
ここ数日、営業の未来がどうなっていくのかをいろいろと想像したり、調べたりしてみた。未来を言い当てることは難しいけれど、せっかくの機会なので記事にまとめておく。10テーマ4500字。よろしければご査収ください。
1.リモートセールス
すでにベルフェイスをはじめとしたビデオ通話システムが浸透し、インサイドセールスという概念も定着した。スタートアップから大企業まで、多くの企業がリモートセールスに注目しているのは間違いない。
リモートセールスの効果は、主として移動コスト削減による投資効率の向上にある。移動に費やしていた時間と費用(移動中の見込人件費+交通費)を商談に投資することで、受注数の向上が見込まれる。
単純な商談数の増加以外にも、営業資料の整備や提案シナリオの作成、営業組織のマネジメントなど、これまで訪問を優先することで後手に回っていた領域への注力も期待できる。訪問しないことで受注率が低下する特殊な業界以外では、今後急速に広まっていくだろう。
顧客にとってのメリットも大きい。商談と商談の間隔が短くなり、購買活動のスピードアップが期待できるためだ。取引先がリモートセールスを取り入れれば、営業マンの頭数が変わらなくても、彼らが商談できる回数は大幅に増える。提案作成の時間も確保しやすくなるので、例えば初回商談から見積・提案までの時間が大幅に短くなるなどの恩恵を得られる。
また、ビデオ通話システムを用いた営業活動のデータ化も注目ポイントだ。商談内容、商談時間、商談回数など、各営業担当者の活動をデータにして分析することで、より効果的な営業のオペレーション設計が期待できる。この領域はまだ発展途上だが、人材紹介業などテレワークがすでに浸透している業界からデータ革新が始まるのではないか。
リモートセールスの文脈では、ベルフェイス社の目的意識やテーマが読み取れるこちらの記事が興味深いので掲載しておく。
2.動画セールス
リモートセールスに近いが、動画セールスの可能性も大きいと考えている。すでにtoC領域ではYoutubeやInstagramなどを用いた動画広告が一般化している。toB領域でもプロダクト説明をYoutubeに掲載する企業が増えているが、今後は個別商談の提案を録画してデータ共有するような仕組みが出てくるかもしれない。
例えば、営業担当がプレゼンテーションを録画して、その動画を顧客に見てもらう。撮り直しができるので、顧客に完成度の高いプレゼンテーションを届けることができる。また、顧客側も商談の場にいなかった関係者に動画を共有するだけで、その概要を伝えることが可能になり、効率的だ。
ただし、動画ですべてが完結することは不可能なので、訪問商談やリモート商談時に、事前に用意した完成度の高いプレゼン動画を見てもらい、その後で質疑応答や交渉を始めるといったスタイルが予測される。
すでにtoB領域で活用されている動画の利用方法はこちらの記事にわかりやすくまとめられている。
3.AIセールス
流行りのAIも一営業マンとして機能する時代がやってくるかもしれない。すでにAIをベースにした商談前の事前ヒアリングや商材に関する質問の自動回答などが一部で実装されはじめている。
ITmediaの記事にも記載があるように、営業の仕事は業務のパターン化が比較的容易とされている。営業担当が通常ヒアリングしている内容を、顧客の回答パターン別に解析しておけば、AIが自ら質問を選択して顧客から必要情報をヒアリングしてくれるなど、営業プロセスの一部をAIに任せるのは現実的と言える。
toB領域においてもカスタマイズの必要性が低い分野では導入ハードルが低い。価格交渉など人間的なやりとりが課題として残るが、値引基準などは意外と各社ごとに決定ロジックが決まっているので、AIが頑張って社内調整した風に見積提出する光景がいつか見られるかもしれない。
4.セールストーク解析
1でも触れたが、営業活動はリモート化が進むに連れて活動の数値化・データ化が進むと予測される。
録音された商談はテキストマイニングなどの技術を使って解析され、どんな言葉を多く使った商談の受注率が高いか、営業と顧客の会話量の比率はどの程度がベストかなど、これまで営業担当に属人化していた商談ノウハウが数値化され可視化されるようになる。営業は文字通り科学されるようになり、より型化による効率化が進むだろう。
一方で営業が担ってきた、顧客の最新課題をキャッチアップする機能や、それらをサービス開発に反映して提供価値を高めるというマーケティング機能が失われてしまうかもしれない。また、型から外れる提案を思考する機会が減り、営業担当の介在価値が減少していくことも懸念される。
営業を科学することと、営業担当の思考余地のバランスを取ることが肝になってくるのではないだろうか。
5.フリーランスセールス・複業セールス
営業が一社の商材だけを売る時代も終わりを迎え、営業のフリーランス化が進むかもしれない。Googleに「営業 フリーランス」と打ち込めば、すでにいくつかの事例を見ることができる。実際に僕の周りでもフリーランス化・複業化した人たちを目にする。
顧客に対してメーカーに拘らず様々なサービスを提案する、いわば、顧客と複数メーカーのハブのような職種が今後広がっていくだろう。Saleshubなど、こうした仕事を支えるプラットフォームも出てきている。
企業の課題は複雑化し、顧客は様々な部署に横断的にまたがる問題を抱えている。営業の介在価値は、企業のビジネスプロセスを網羅的に理解して、一領域に限らず各所に必要な解決策を探してくる点に、より比重が置かれていくだろう。
フリーランスとして独立しないまでも、例えば採用管理システムを売るついでに効果の高い人事研修を紹介できたり、ニッチ領域に強い人材紹介企業を推薦できるような営業が求められていくのではないだろうか。
6.キーマンアポ取得代行
チラCEO。このサービス名に衝撃を受けたことを覚えている。簡単に言うとチラシで決済者(CEOなど)とのアポ取得を代行してくれるサービスだ。
似たようなサービスにカタセルがある。こちらは最近、知人に教えてもらったのだが、チラシよりも手紙を主な手段にしているようだ。
以前、YappliのCEO庵原さんがこんなツイートをしていた。
キーマン攻略の本質は手紙作戦にあるのかもしれない。サービスの拡張に期待したい。
7.営業専用コワーキングスペース
外回り時に営業を悩ませるのは、アポとアポの間をどこで過ごすか、という問題である。
営業車がある場合は車の中で過ごす人が多く、電車移動の場合はカフェなどでやり過ごす人が多いだろう。僕の場合、ほとんど電車移動だったのでカフェを使っていたが、業務効率は意外と悪い。周囲が騒がしいので作業に集中しにくく、顧客との通話もいちいち店外に出なければならない。
最近増えているコワーキングスペースも使ってみたが、今度は静かすぎて電話できる雰囲気にない。結局、PCを持って外に飛び出して電話するしかなかった。
防音機能が整った小個室をレンタルする営業専用のコワーキングスペースの需要はかなり高いのではないか。法人契約で各社の営業効率を高める提案が刺さると思う。
知人が所属するメガベンチャーではすでにこのような個室を山手線内の主要駅で確保しているらしい。こうした動きが一般化していくかもしれない。
8.ワーキングルーム完備の個人向け不動産
これは営業に限った話ではないけれど、リモート設備が整備され在宅ワークが進むと、家のどこで仕事をするか?という問題が出てくる。
家族がいる中で仕事モードに入ることは難易度が高い。特に営業の場合、アポ取り架電や商談、クレーム対応など家族に見られたくないシチュエーションも少なくない。
このようなポイントに注目して、防音性が高く非常時以外は外から開錠できない一室をマンションなどに用意する不動産も出てくるかもしれない。自宅に仕事専用のワーキングルームがあることが一般化すると、働き方の多様化は一気に推進されるだろう。
9.電子契約
年度末の寒空の下、顧客のオフィスビル前で契約書押印を待つという経験をしたことがあるだろうか。僕はある。受注で合意していても、契約書の内容が固まっていても、あの紙と判子がなければ契約は成立しない。多くの営業が契約書郵送のリードタイムを恨めしく思ってきたことだろう。
そんな経験も思い出話になるかもしれない。契約領域では電子契約が一般化してきたためだ。クラウドサインが有名だが、AdobeやGMOなども力を入れてきている。
電子契約の論点はそのセキュリティにある。電子ということはどこかのサーバーに両者の契約が保管されており、不正アクセス等で改ざんされる可能性がある。この点を懸念して電子契約に二の足を踏んでいる企業も多いのではないか。
セキュリティ問題の解決策としてはブロックチェーン技術が注目されているようだ。暗号化と分散化によって、改ざん可能性を最小限にとどめることができるらしい。仕組みは何となくわかるが、詳しい領域ではないのでブロックチェーンを実装した電子契約サービスのプレスリリースを掲載しておく。
また、「電子契約って法律的にどういう位置づけ?」という点も気になった。この点については情報資産管理の老舗ワンビシアーカイブス(日本通運傘下)の自社メディアにわかりやすくまとめられている。
10.つながらない権利
2017年1月にフランスで「つながらない権利」を認める法律が施行した。「業務時間外はビジネスメールに対応しなくても良い」ということが法律で規定されたのだ。
これまで書いてきた通り、営業の未来にはリモートワークが基盤にある。移動時間が減り、業務が効率化する一方で、公私の境がなくなり労働時間のコントロールが難しくなっていく可能性が指摘されている。在宅で働く環境が常に整っていれば、一度仕事を終えてもPCを開けばすぐに働き出すことができる。こうした環境はワーカホリックの温床にもなるということだ。
特に営業の場合、顧客からの突発的な要求やクレームなど、社内ルールが適用されない領域から仕事が発生する。いつでもどこでも仕事ができる状態になれば、業務時間はより守られにくい。実際にPCの自宅持ち帰りが常態化している企業は多く、残業務を自宅でこなしている営業は数多く存在する。リモートワークが一般化すれば、こうした時間外業務がよりエスカレートするかもしれない。
夢のある働き方を実現するために最も重要なのはルールであり、働く人たちのリテラシーだ。いつでもどこでも仕事ができる便利な働き方を、生産性と幸福度の向上につなげるには「つながらない権利」などの法律や概念が一般化される必要がある。
「何が適正か」はこれから議論が始まるフェーズだが、営業を進化させるテクノロジーやサービスだけではなく、ルールづくりにも注目していきたい。
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