［暮らしっ句］雪 女［鑑賞とコント］
雪女を捜せ！
刑事ドラマ仕立て
老刑事「どうだ、証言してくれる者はいたか？」
新米A「は、これという情報はなかったんですが、証言してくれた人は何人かいました」
老刑事「云って見ろ」
新米A「雪女 橋の上にて すれ違ふ 久保田由布
雪女 他人の空似とも 違ふ 朱間繭生
すれ逢ふ 風かも知れぬ 雪女 稲畑汀子」
老刑事「ふむ。橋の上ですれ違ったかもしれない……
他人の空似ではない……
でも、あれは風だったかもしれない……」
新米A「すいません。手がかりゼロですね」
老刑事「B、お前はどうだ？ なんでもいいから云って見ろ」
新米B「オレも似たりよったりなんっすが、
海をわたる 琵琶の音 雪女 中野京子
香聞くと 遠く鈴おと 雪女 柳川大亀」
老刑事「二つに共通するのは、音か……」
新米A「琵琶の音って怪しいですね。平家物語のイメージですもんね。あれ死者を弔っているんでしょ？」
新米B「けど、『遠く鈴おと』やし、音は遠くで、近くに感じるのは『香』のほうやで」
新米A「雪に匂いなんてあったか？」
新米B「そやから、やっぱ雪女は人間なんやて。狐が化けてるのかもしれんけど、動物なんは間違いないと思うわ」
新米A「過去の記録はどうなんです？ もう何年も捜査は続いてるんでしょ？ もう少し具体的な手がかりはなかったんですか？」
老刑事「ないこともないが……」
新米A「教えて下さいよ」
老刑事「雪女 すれちがふとき 笑ひけり 堀内一郎
病室を覗きてゆけり 雪女 宮原みさを」
新米A「笑ったんですか？」
新米B「病室を覗くとか、やっぱり人ですやん！」
老刑事「幽霊の可能性だってあるぞ」
新米B「幽霊には、匂いはしませんて」
老刑事「いや、それは違うな。幽霊は一種の幻覚だから、音が聞こえたり、匂いがしたり、錯覚させることが出来るんだ」
新米B「主任は、幽霊説なんっすか？」
老刑事「いや、先入観は禁物だ。判断は最後に下す」
新米A「ほかの証言もあるんでしょ？ 続きを聞かせて下さい」
老刑事「赤い嬰 産んでしまつた 雪女 西村葉子
レクイエム 声なく唱ふ 雪女 奥田弦鬼」
新米B「子どもか……。そういうたら、昔話の雪女っちゅうたら赤ん坊抱いとったな」
新米A「旅人に赤ん坊抱かせる！」
新米B「そや、うっかり抱くとその赤ん坊が石に変わって動けへんようになる」
新米A「子どもを遺したから成仏できないんでしょうか？」
新米B「おいおい、それは昔話や。オレらの捜査対象は現実やで」
新米A「それがわからないから、いろいろ考えてるんだろ！」
老刑事「こらこら、ケンカをするな。今すぐに答えが出るとは、上も思っていないよ。じっくり考えてくれればいい」
新米B「しかし、これやと、お手上げでっせ」
新米A「張り込んでみますか？」
新米B「よし！ A、オマエ、今夜から雪山の巡回な」
新米A「なんで、ボクだけなんだよ」
新米B「オレはネットで情報を洗う」
新米A「雪女がネットに出没すると思ってるのか？」
新米B「じゃあ、訊くが、雪山を巡回して雪女を見つけられるとでも？」
新米A「やってみなくちゃわからないだろ！」
新米B「そやったら、やったらええやんか。オマエは雪山担当。オレはネット担当や。競争しょうや」
新米A「あのなっ！」
老刑事「こら、いい加減にせんか！ もっと頭を柔らかくしろ。そうだな、一つ謎かけを出してやる。
『雪女』と掛けて『難問』と解く。そのココロは？」
新米A「…………」
新米B「オマエそのくらいのこともわからんのか。関西人やったら、子どもでも答えるで。いつか必ず、トケル、や」
老刑事「そういうことだ」
新米A「お言葉を返すようですが、それを云うなら、
『雪』と掛けて『女』と解く、そのココロは？
とやるべきじゃないでしょうか？」
老刑事「わたしに考えさせてどうする」
新米B「ほんまや。自分で答えてみい」
新米A「フラれると、冷たい……」
新米B「オマエ、またフラれたんかいな？」
新米A「『お前また』と云うな！ オレは被害者だ」
新米B「それはちゃうで。ちゃんと反省せえへんさかいに、なんべんでも失敗するんや」
新米A「オレのことなんかどうでもいいんだよ。問題は『雪』と『女』の関係だろ？ それについて何か云ってみろよ！ この自称モテ男め！」
新米B「おうさ、女のことやったら、まかせといてもらおか。
『雪』と掛けて『女』と解く、そのココロは……」
新米A「そのココロは？」
新米B「そのココロは……」
新米A「どうした？ 答えられないのかい？ 色男さん」
新米B「ど、どっちも溶かすまで、アイスっ！」
出典 俳誌のサロン 歳時記 雪女
雪女 1
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