［幻聴ラヂヲ］鬼の時代

　最初に聞こえてきたのは数日前のことだったが、火災の話だったので聞き流していた。よその星の火事にまで関心を持っていたら、ただでさえ足りないこのオツム、日常生活もままならなくなる。

　ところが、その規模は桁違いに大きく、また不穏な話も出てきた。
　そこはその星でも有数のリゾート地だそうだが、そうなると当然、そこにあるのは一般住宅地だけではない。特区がある。そこがどうなったかという話が少しも報道されないのだそうだ。特区の者たちも沈黙しているという。
　セレブに関わることなら、地球であればママラッチが執拗に追いかけると思うのだが、その星にはそういう好奇心旺盛な者たちはいないのだろうか。まだ現地には立ち入れないのか、それとも本当に無傷なのか……。

　「鬼火」という言葉が頭に過った。
　まさかその星に「鬼」などいないだろうが。

　今回も、つくづく今の地球は平和で良かったと思ったわけだが、しかし、「鬼火」という言葉がある以上、この星にもかつてはそういう悲惨な過去があったわけだ。もし今「鬼火」が出たらどうすれば良いのか？　少しは心の準備をしておいたほうがいいかもしれない。

　さわらぬ神に祟りなし　という諺はあるが
　それはあくまで「神」の場合だ。
「鬼」が暴れた時にはどうすればいいのか？

　ちなみにその星にも賢者はいる。しかし、その星の賢者は今は黙って耐えなさいと呼びかけている。今が大変なのに、騒ぎ立てるなというのはどういうことか？　大きな大きな運命が暗黒の時期に入ったらしい。事態がそこに至った以上、抵抗しても悪の餌食になるだけだというのだ。
　やられっぱなしでいいのかと思うが、暗黒時代も永遠には続かないから時期を待てと。そう云いたいようだ。それではまるで今は「鬼」を「神」のように畏れよ、ということではないか。
　道理も何もあったものではないが、賢者によるとそういう大きな大きな運命というのは昔から預言されてきたことだそうだ。台風が来た以上、表に出るなと、そういうリクツか。

「鬼火」に襲われたら、ひたすら逃げる。相手を詮索したり、ましてや復讐など考えず、逃げた場所で新たな気持ちでやり直せ……　それが暗黒時代を生き抜く知恵なのか。ミザル、キカザル、イワザル……　

合掌