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『雨と花束』を終えて。そしてこれから。

こんばんは。泊まれる演劇の花岡です。

これまで作品が終了したらそのまま次の作品に向かって走っていたのですが、2020年からスタートした泊まれる演劇全体を振り返っても、このタイミングが何か大きなピリオドになる気がして、文章を書いています。
内容はかなり制作の裏側に突っ込んだ話をしてますし、良かったことだけではなく、現状の悩みや課題についても赤裸々に書いています。ご了承の上で読み進めて頂けますと幸いです。


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『雨と花束』は公演期間も2ヶ月半のロングラン公演だったのですが、同時にプロジェクトの企画立ち上げから終演までが1年半と、制作期間としても史上最長でした。
先日、2020年にオンライン上演していた「泊まれる演劇 In Your Room『ROOM 101』」に出演頂いていた西郷豊さん(懐かしのパーフェクトなホテル探偵さん!)と久しぶりに再会するタイミングがあり、当時は企画から上演まで僅か4週間で制作していたことや1日4公演上演していたことも振り返り、この3年でお互い随分と変わりましたね〜なんて昔話のように話していました。

チーム規模やお迎えするお客様の人数、公演期間や作品に投じる予算も有難いことに年々増えているのだけれど、僕個人の中で一番大きな変化は、良くも悪くも「過去の蓄積」が生まれているということ。「過去」というのは過去の作品群のことでもあるし、3年という純粋な時間も意味します。
蓄積が貯まることはメリットの方が多いように思えますし、以前は自分もそう思っていました。でも実際は、その裏に潜んでいたものもありました。

まず良い点について。それは、HOTEL SHE, OSAKA / HOTEL SHE, KYOTOで上演するにあたって過去作で得た経験や学び、お客様からの声も随分ナレッジとして溜まり、企画や構成、組織体制など着実にレベルアップしているということです。
例えば『雨と花束』は初めて三幕構成にして、ステージ上演が全5シーンあったり、途中で複数回の幕間を挟んだりしました。これは「ゲスト間での物語の理解度を平均化する」という目指すべき体験のイメージが先にあって、全員で鑑賞するシーンを相対的に増やしたり、お客様同士での情報の補填が生まれやすい構造を目指しました。企画段階においても先に構成・タイムラインを決めて、その後にストーリーラインを考えていました。

また翌朝にラジオが流れる演出がありましたが、こちらも過去作のアンケートで「朝にも何か演出があると嬉しい」といったご要望をたくさん頂いており、ただキャストさんの体調管理やホテル運営の都合上、俳優さんに毎朝稼働してもらうことは難しく、人的リソースを投じずに物語体験を生むアイデアとして「30分に一回、後日譚のラジオが流れる」という演出を考えました。

このように公演を重ねることで生まれた企画やアイデアは他にも沢山あって、これらは定期的に作品を上演し、そのフィードバックを多く頂ける環境があるからこそだと感じています。アンケートだけでなく、SNSでのお声やブログでの感想もほぼ網羅的に拝見し、本番期間中はその作品の感想を熟読しながら次回公演の企画書を書き上げるというのが自分の中でも定常化しています。(この業務スタイルは、僕自身の仕事へのポリシーともとっても相性が良いので、当分はこのスタイルが続きそうです。)

ですがその一方で、課題や悩みも生まれました。
『雨と花束』が泊まれる演劇のオンライン・オフラインを含めて11作目となったのですが、これまでの3年間はただ前(未来)を見て、新しさや興奮を探すことでプロジェクトを維持してきました。少し語弊があるかもしれませんが、面白い企画アイデアと、ブランドの成長にワクワクしていれば、それがそのままモチベーションや仕事に繋がっていた感覚です。(もちろんまだ作りたい企画や試したいアイデアは沢山あります。来年2024年の企画も過去一の自信作ですのでお楽しみに!)

ですが立ち上げから3年が経って、外的なもの・内的なものを含めて、泊まれる演劇を取り巻く環境は大きく変化しました。外的なものではアフターコロナによるリアルイベントの急増や観光業の復興(ホテルを長期間利用しての上演なので、収益目標の観点でも観光業との関係は非常に密です)、そして不況によるあらゆるコストの上昇など。内的なものではチームメンバーのライフステージの変化や、体調やモチベーションの変化、慣れや経験によるセクショナリズムなど。

ただ純粋にクリエイションを高めていくだけでは前に進めないフェーズに来ていて、もっと大きな仕組み作りやアップデートが必要になります。それは再演やシリーズ化など長期的な展開を見越した上での企画制作かもしれないし、常設ホテルなどの新たなビジネスモデルやモチベーションの創出かもしれないし、究極的にはチームを再構築するために自分が泊まれる演劇から一時的にでも離れることで新しい風を取り入れられる可能性もあると思っています。

次の3年は、しっかりと泊まれる演劇を持続可能な共同体にすることを念頭に置いて、作品の企画・制作をおこなっていきます。

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どうしてこのような内部の話を、このタイミングでnoteに残そうと思ったのか。それは冒頭にもある通り、『雨と花束』という作品が泊まれる演劇の中でも大きなピリオドとなったからです。そしてSNSやアンケートを拝見していても、体験してくださったお客様の中でも同じように感じてくださった方が多いように思えたからです。

舞台芸術に限らず、モノづくりの世界では、制作者が創作の裏側や個人の想いについて語ることは野暮だと思われる風潮があるかもしれません。ですが今回の作品を通して、僕たち制作者とお客様の想いがすごく近く・深いところでシンクロしてるような気がして、上辺の良いことだけを語るnoteではなく、リアルな課題や悩みも打ち明けてしまおう、
その上でこれからの泊まれる演劇がどう進んでいくのか見守って頂けると嬉しいなと思って文章にしました。

まだまだ未熟者の私たちですが、宜しければこれからも応援いただけると嬉しいです。


2023年8月1日
泊まれる演劇 花岡直弥





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