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私が息子に出逢うまで(5)

駆け引き

デスクに戻りメールチェックを終えると、私は課長に声を掛け、ミーティングルームへ移動を促した。

先程のことを気にしているのか、課長は何の抵抗もせずに立ち上がった。
席につき、私は出血してしまったこと、医師から絶対安静と言われたため1ヶ月間休ませて欲しいことを伝えた。
正直、すぐ治るのか時間が掛かるのか分からなかったが、人事課には一先ず1ヶ月と伝えていた。

「そんなに休めるの?手続きは?」

-人事課には話を通してあります。手続きは後日、診断書を郵送すればいいと聞いています。

「そうか。仕事はどうするつもりだ?」

-絶対安静なので、出来ません。

「やれることはあるだろ?メールも見れないのか?電話も出来ないのか?」

-食事とトイレ以外、起き上がったらダメなんです。

「出来る限り自分で対応する。それが休む条件だ。いいか?お前は病気じゃない。」

"妊娠は病気じゃない"
私の大嫌いな台詞だ。病人が守っている命は1つ、妊婦が守っている命は2つ。命に重いも軽いもないが、デリケートな状態だと分かって欲しい。

だが今は口論している場合ではない。休むことが先決だ。私は出来る範囲で対応します、と答えた。

不和

私の長期休養が決定したため、課の全員で急遽ミーティングを行うことになった。
そこで皆に今の状況を説明し、安静にしなければならないことも伝えた。皆、心配そうな顔をしていた。

しかし、状況は一変する。

「要は会社に来ないだけで、在宅で営業するってことだ。引継ぎもしないし、お客さんにも休んでることは言わなくていい。こいつが自分で対応するから。
そうだよな?出来る限り、自分で対応するって言ったんだから、しっかり責任取れよ。病気じゃないのに休むんだから。」

この言葉で課員の表情が心配から疑いの色に変わった。この人なんで休むの?と言われてる気分だった。

-皆さん、ご迷惑をお掛けしますが宜しくお願い致します。

闘う気力を失った私はただただ皆に頭を下げて回るしか出来なかった。

課長の最後の一言で、その後の数ヶ月、私は地獄のような日々を過ごすことになる。

つづく…

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