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ガブリエル・夏 11 「神さまより」

「終わった?」
「はい!出し切りました。何点?」

今、レイの顔は、まみもから見えるところにあり、まみもの腕はレイの胴体の下の方で一周している。レイの背中側に、まみもの右手と左手のつなぎ目がきている。
「そうですねー。歌に合っているちょうどいい声でしたよ。ちょっと音痴だったところもあったけど、だいたい上手に歌えましたね。7点!」

レイは、プラスマイナスプラスのサンドイッチ法で、具体的に評価を言った。まみもは感心した。ビジネス書や社交術の本を読んで学ばなくても、この年でもうこういうことが身についていて、日頃から自然に使えるのかと。教育とか、自分の考えを言うということについての捉えられ方が、日本とは違うからこうなるのか。 7点は何点満点中だったんだろう。君のため、好きだったかな。

「神様より好きって、どのくらいかなあ。」
レイが言う。聴いていたんだ。
「むぅむ。どのくらいかなぁ。地球が砕けても、離さないんだって。お金がなくても。」

まみもは、地球が砕けていく大惨事に、離れない2人を想像してみた。お金がない、厳しい状況下の2人も想像してみた。そんな時でも、この歌と同じ気持ちでいられたら、余裕があるなぁと思った。怖いものは何もない、他にいるものもない、大丈夫。平気。そんな感じだろう。ヒロトは他の歌で、『恋をする時素敵なことは、何もいらないと本気で思えること』と言ってた。いいなぁ。次ももしまた人間に生まれてきたら、そういうのをやってみたい。その時だけ盛り上がるんじゃなくて、ずっと続くやつ。でも2人のうち、歌ってるんじゃない方も、歌ってる方とちょうど同じくらいの気持ちじゃないと嫌だ。片方だけが1人で張り切ってるのでは全然だめ。残念で、気持ち悪いことになる。ちょうど同じくらいの気持ちって、持ち続けられるようにならないのかな。どっちかが減っちゃったら、もう1人の方から自動的に補充されるようにして、いつも2人が同じ量を保ち、全体の量が増えたらラッキー、減少が続いたら、それではと対策を考えるか、別の道を行きましょう、ばいばいまたね、と。そういう風には行かないかな。佐代さんとジェイムズさんでは、どうなってるんだろう。レイの顔を見る。眉毛と目と、ぐるんぐるんしてる髪は、ジェイムズさんと似てる。口は、佐代さんのと同じ形だ。

レイの向こう側に、シロツメクサが咲いている。四つ葉があったように見えた。まみもはレイから手を離して、葉っぱを確認する。四つ葉ではなかった。そのまま、腹這い姿勢で頬杖をついた。もう少し四つ葉を探す。

「私、ガブくんをだいぶ好きだけど、ガブくんのお父さんお母さんは、もっともっと何倍もガブくんを大好きだよ。多分ね。どの親もっていうわけじゃないけど、ガブくんちのお父さんお母さんは、そういう風だと思う。」
「なんでわかる?」
「ん〜。なんでわかるかわかんない。独り言みたいに、ガブくんのことを話したりするからかなあ。」
レイも四つ葉探しに加わった。
「ふうん。僕が好きなら、なんでもっと僕と喋ったり、僕が何してるか知ろうとしないんだろうね。」
「ほんとね。追われてるのかな。何をしたいか、何が大事か、思い出す暇もないくらい。」
「忙しい、忙しいってねえ!」
「ねー。大人は色々あるみたいですからね。」

レイはもう、いつものレイのようで、ちゃんと動いて話してる。なんとかしないと、水分が抜けて砂のようになって、風で飛ばされてなくなってしまいそうではなくなった。

「帰ろう。」
まみもが言った。
「帰って、クッキー焼かなきゃ。ぅオイラに、ィ焼いてくれって頼まれてるの。」

 まみもが手提げ袋を持って立った。レイは、まみもの手を引っ張って、もう一度座らせた。He gave her a hug. フレンズとかのコメディや、あらゆるドラマでも、学校でも街中でも、誰かが嬉しい時も、誰かが落ち込んでいる時も、誰かがどこかへ行く時も、誰かがどこかから帰ってきた時も、人々がいつでもやるやつ。Then he kissed her on the cheek. 友達に会った時、友達が帰る時、プレゼントをもらった時、誰かがどこかを打った時、おやすみと言う時、人々がいつでもやるやつ。それでもまみもは少し硬くなる。

「まみもちゃん、夕ごはんも作ってね。」
レイがにやっと笑う。
「夕ごはん、なに?」

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