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よしこさん①/❾

 ロックダウンのスケジュールガラガラの日々も、これだけ長く続くと、自然にレギュラーパターンができてくる。
 朝、5時か6時かその間のどこかで起きて、家族の朝ごはんまでの時間に何かしてやると張り切るが、まずはコーヒーをゆっくり飲んでからとかやってるうちに残り時間3分とかになっていることが多い。早起きに失敗するとこの時間はなくなる。
 朝ごはんを出して片付けて、弁当を用意して、子供たちを見送って、洗濯機を回すと、次が私の走る時間。1時間ぐらい、空や朝露で濡れた草や運河の水鳥や、たまに羊や山羊や牛を見ながら走ってるうちに、頭の中のものがぐるぐる出たり入ったりして、配置も入れ替わり、帰ってシャワーする頃には、自分のうちの何割かが浄化されたようななんともいい気分になっている。
 洗濯物を干してたたんで、掃除して、在宅勤務の夫と昼ごはんを食べて、ついでにワインも一杯ぐらい飲むと、もう今日はずいぶんがんばったなぁという気になる。残りの家事といくつか用事を済ませると、そろそろティーンエイジャーたちが帰ってきて、時間の枠が、半分くらいは私のものだった”昼間”から、そうではない”夕方”に切り替わる。大抵、今日も行くのか行かねばならぬのかと、だいぶもたもたしてから近所の店まで買い物に出かけ、戻ってきてから夕飯を作り始めるまでの間が、1日の中で一番おろおろする時間になっている。
 景気付けにコップに今日2杯目のワインを注いで、Spotify で   The Shocking Blue か、The Beautiful South か何かご機嫌な音楽を聴きながら夕飯を用意し、家族の評価を聞きながら食べる。食器を片付けたあとは、ニュースとSNSとストレッチなどの項目が続いて、最後は大体本を読んでいる体勢のまま寝てしまって、翌朝表紙がめくれて折れた本が枕のそばで見つかる。大体そんなふうに毎日が巡っていく。
 夕方おろおろするのは、また、またほとんど何もしてないのに1日が過ぎ去って行ってしまうと、夏の終わりのようなセンチメンタルな気分になるから。でも考えてみると、この時間帯に気分が下へ下へ落ちていくのは、朝走ったりシャワーしたりしてる時に、高揚感マックスがきてるからかもしれない。上がりきった気持ちはどこかで下げて帳尻を合わせないと、バランスがおかしくなってくるということもあるだろう。そうは言っても、寂しい気持ちが大き過ぎてもだえにもだえて、ワインをフライングして早めにガブガブやり始めても、ミュージックをブルーハーツに変えても、どうにも気持ちを立て直せない時は、よしこさんにメッセージを送る、というのも、最近パターン化しつつある。
 よしこさんは、とても律儀で丁寧で早起きなので、日本時間の早朝が来ると必ず返事をくれる。時差の分、返事が届くまで少々待つことになるけど、今送れば明日の朝よしこさんからの返信が届いていると思うと、それだけで、気持ちの土台部分をしっかり支えてもらっているような安心感に満たされる。優しいよしこさんが好き。

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