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ガブリエル・夏 19 「ウィンク」

「あ。 お急ぎのところ、はぁ、誠にごめん。はぁ。 あの、ゲルドを はぁ、ネマしたい。ここに、はぁ、ちょっと寄り道、いい? はぁ はぁ。」

「え? なにを、なにしたい?」

「ゲルダウトマト(geldautomat =ATM)で、ゲルド(geld=money)を、ネム(??? )したいの。ネムはオランダ語か? ノミしたい。 ニム(nimm=take)だったかな。 すぐ終わる、から。来て。」

「む〜〜〜ん。カードで払えるよー、なんでもー。」

オタマジャクシのしっぽの村で、半袖に手袋でスキーをする案に、レイはテンションが上がっている。1秒でも多く楽しめるよう、2人は駅までの道をすごい速さで歩いてきた。まみもは息が切れて、頭が鈍い。でも今、町1番ながらとても小さいショッピングモールを通り過ぎるところで、ここを過ぎたら、次にどこにATMがあるのか、まだ知らない。電車に乗ってから、どこかへ行ってからでは遅いのだ。駅に着くまでのどこかで、現金をおろしたい。

「あのね、ここの駅の電車、1時間に1本か2本しか来ないの。ほぉ。見逃したら、はぁ、だいぶ待つことになって、時間が飛んで逃げる。ふぅ。私がマネーをテイクしてる間に、ヒィ、次の電車が何時何分発か調べて。はぁ。 Will you, young man? Thank you! 」

まみもは現金を引き出し、レイは携帯で電車の時間を調べる。今、300ユーロではなく、引き出せる全部のお金を引き出して、フランクフルト中央駅ではなく空港へ向かい、どこか、南アメリカ大陸とかアフリカとか遠くへ行ったら、このまま2人でおもしろくいられる? いや、いやいや。いやいやいやいや。

「ご利用の電車は、8時3分発でございます。あと6分でございます。」
レイが、JRの券売機の声みたいなのを真似して言う。

「きれいな声。間に合いそう。行こう!」


ドイツ鉄道の駅には、改札がない。乗客は、切符を乗車前に買うことになっている。時々、インスペクターのグループが乗り込んできて、乗客がちゃんとした切符を持っているかどうかをチェックする。持っていないと、元の切符より、だいぶ高額の罰金を支払うことになる。全国どこでもそうなのか、まみもはまだ知らないが、こういうシステムで効率よくやっているらしい。ブンダハイム駅にも、改札はなく、駅のホームに、自動券売機が1つあった。券売機では、おじいさんとおばあさんが、目的地までの切符を買おうとがんばっている。とても時間がかかっているが、レイとまみもはドイツ語は話せないので、手助けできない。2人が終わるのを待ってたら、電車は行ってしまいそう。2人が間に合って、正しく切符を買えるかどうかもわからない。電車出発まであと2分。

「よし、ガブくん、私たちのはオンラインで買おう。おたまじゃくしの駅まで全部いっぺんに買うんだったら、オンラインのでもいけるかも。頼むよ、若い人。ドイチュバーン(ドイツ鉄道)のサイトを開いて。待って。グーグルマップの方がいいかな。ザルツブルグとインスブルックのちょうど間で、電車の駅があるのは……、これだ、Gufstein ! 」

まみもも自分の携帯で、グーグルマップと鉄道マップを見ながら言う。急いでいて必死なためか、老眼が始まってるのか、まみもの顔と携帯との距離は、異常に近い。

「ブンダハイム、グフスタインで、チケット買える? G、u、f、s……」

「うん、買えそう。チケットの会社のサイトみたいだけど。線路はドイチュバーンみたい。1 Adult、1 Youth で、スタンダードクラスでしょう……、あ、ちょうど今の時間のが1番お得ですよ。2枚でなんと、今なら47.80ユーロ。買っていい?」

8時3分発の電車が、ホームに入ってきた。ブワーっと風がくる。券売機のおじいさんとおばあさんは、切符を手にしている。今、マシンからレシートが出てきてるところだ。よかった。間に合った。おばあさんと目が合う。ウィンクしてくれた。

「ガブくん、乗ってから続きをやろう。大丈夫。ガブくんのホリデーの続き、始まりです。さっきのおばあさんが、ウィンクしてくれたよ。多分、いいホリデーになりますようにって。」




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