形だけのバンド
文化祭の為に、ほんの数か月間だけバンドを組んでいたことがある。小学校6年間、エレクトーンを習っていたという理由だけでキーボード担当になった。ギター担当になった人も、ドラム担当になった人もみんな初心者だった。
「CDで曲を流すから弾けなくても良いんだ、弾いたふりで良いんだ」
とボーカル。自分が歌えればなんでも良いらしい。
エレクトーンとキーボードは、似ているようで全く違う。鍵盤が上下二段じゃないだけで、ペダルがないだけで全く違う。だって私の知っている限り、エレクトーンを使っているバンドなんていないもの。でもコードを弾くくらいならできる…と思う。
で、練習した。
曲はサザンオールスターズの『真夏の果実』と『涙のキッス』と『勝手にシンドバッド』。サザンといえば原由子のコーラス。で、原由子といえばキーボード。そう、キーボード担当の私は弾きながら自分も歌わなきゃいけない。
「弾かなくていいんだよ、ハモれよ」
と、ボーカル。形になっていればそれで良いらしい。
『真夏の果実』と『涙のキッス』は、エレクトーンで得た知識を使って、なんとか弾くことができた。でも『勝手にシンドバッド』は、早すぎて弾くのは諦め、CDに演奏を任せ歌うことに集中した。きっと、意識しながら指が動いてちゃダメなんだ。無意識に指を動かさなきゃダメなんだよね。ボーカルが適当な人だったのと、CDのおかげで無事に文化祭を終えることができた。
そんな話を思い出したのは、どういう話の流れかすっかり忘れてしまったのだけど夫が
「キーボードでもやってみたら?」
と、私に言ったからだ。
「三日坊主にならないなら買っても良いよ」
って。マジか。
で、キーボードの価格や、好きな歌手の楽譜などを調べていた。もしも本当に購入したら、ちゃんとキーボードの役割をさせてあげたい。私の好きな歌をいっぱい奏でさせてあげたい。
手帳にびっしり書いてある私の欲しいものリストにキーボードが追加された。