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【Edge Rank 845】旅する小さなアート作品【TOMAKI】

1996年から97年に変わる年越しの瞬間、僕はシカゴへと向かう長距離列車の座席でウトウトと眠りかけていました。ラウンジカーの方から歓声が上がり、そこで目が覚めて「あぁ、新年を迎えたんだな」と気づきました。何度かタイムゾーンを越えていたので、現在時刻がいまいち分からなくなってたんですよね。列車に乗りっぱなしで2泊3日の移動。アメリカは広い!

1994年からアメリカの大学に留学していた僕は、3年目の冬休みに15日間かけてアメリカを長距離列車で巡る一人旅を実行しました。当時住んでいたのは、ネバダ州のリノという街。砂漠の真ん中にある小さなカジノタウンで、“The Biggest Little City In The World”っていうのが街のスローガン。「世界で一番でっかい小都市だぜ!」っていうのが、なんともアメリカっぽくて面白い。

留学のためにこの街に来たのが、僕にとっての初めての海外経験だったのですね。高校では英語が苦手だったし、外国人とまともに会話をしたこともなかったけど、なんとなく「留学って面白そうだな」と思ったので、アメリカに来てみました。留学してからは、周辺の街を訪れたりもしましたが、がっつりとアメリカの広さを体感できる旅はしていなかったので、この機会に長距離列車でリノから、シカゴ、ニューオーリンズ、サンディエゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコを巡ることにしたのでした。

映画に出てきそうなシカゴの安ホテル

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シカゴでは、『地球の歩き方』に載ってるホテルのリストの中から、駅から近くて安い「Tokyo Hotel」に泊まりました。一泊およそ30ドル。1927年に開業したホテルなので、僕が泊まった時点ですでに築70年。壁紙はボロボロと剥がれそうになってて、バスルームのタイルの床にも大きなヒビが入り、扉という扉がきしんだりガタついていたり。絵に描いたような「安宿」といった風情で、「あー、この感じ。アメリカ映画でよく見るやつだ」と思って嬉しくなりました。

ガイドブックによると、フロントに「日本人の奥さん」がいるとのことでしたが、僕がチェックインをした時にはそれらしい人はいませんでした。夕食は、一階の日本食レストランで不思議な味のするエビチャーハンを食べました。エレベーターには、恰幅の良い老人が椅子を持ち込んで常駐していて、その人が扉の開閉やボタン操作を全部行っていました。折り畳み式の鉄柵の扉は、うまく閉まらないらしく、毎回隙間に段ボールを挟んで、それで固定していました。リアルに、ディズニーシーのアトラクション「タワー・オブ・テラー」みたいなスリルがありましたよ。

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夜中に「あれ?今のって、銃声じゃなかった?」みたいな音がした以外は、特に何もなく無事に朝を迎えました。ちょっとした思い付きで、洗面台の鏡の裏、キャビネットになっている棚のところに「綺麗な石」を置きました。このホテルに泊まった記念に、「お土産」を買うのではなく、ちょっとした「置き土産」をする、と。

これが発展して、この後20年以上続く僕の「個人的なプロジェクト」になったんです。

豆粒のように小さな陶芸彫刻作品

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まず、小さな小さな豆粒サイズの作品を陶芸粘土でつくります。小さな粘土の粒に尖ったニードルで「」を造形。これを陶芸用の電気窯で素焼きします。手作りなので、サイズも表情もいろいろ。ひとつひとつ個性のある、豆粒作品の出来上がりです。

で、これを近所の散歩や、ちょっとした旅に持参します。「なんか良いな」と思った風景や、あるいは「これはいつまでも覚えておきたい」という場面に出会ったら、そっとこの小さな豆粒作品をそこに置きます。

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シカゴのホテルで石を置いてきたように、陶芸作品を「置き土産」するという、僕の個人的なアートプロジェクトです。2000年代前半頃は、置いた場所のGPSをガラケーで取得してちょっとしたデータベースをつくるみたいなことをやっていましたが、今はもっとカジュアルに、ただなんとなく気が向いたら置く、みたいな使い方になっています。何かしら心の琴線に触れた時、そのお礼とお返しに、作品を置いてくるといった形。道端とか、川の土手とか、砂場の端っことか、植え込みの木の根元など。素材が陶芸粘土なので、基本的に柔らかい小石と同じようなもの。しばらくはそこに残りますが、いつかは砕けたり、風化して自然と同化します。あるいは、そこを通った誰かに見つけてもらえるかも。

もしかしたら、これを読んでいるあなたに拾ってもらえるかもしれませんね。

今月の共通テーマ

今月の共同noteマガジン『Edge Rank』の共通テーマは、 #お気に入りの小物 です。というわけで、「小物」とはちょっと違うかもしれないですが、僕の「小さな作品」を使ったプロジェクトについて書いてみました。

ちょうど今月に、バーチャルハーフマラソンの大会に参加した際にも、この小さな作品をそっと「置き土産」しました。隅田川のあたり、道端の石をよーく見てみると、もしかしたら僕の作品が見つかるかもしれません。

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今月のテーマは #お気に入りの小物 です。常に手元に置いていたり、机やテーブルに飾っていたり、お財布に入れていたり……。そんな好きな小物をご紹介しています。
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内容によってはEdge Rankで取り上げさせていただくこともあります

あとがき

「歩く」と「書く」というテーマで、勉強会を企画しています。旅をしたり、散歩をしたり、街歩きなどをしながら、その体験や学んだことをどうやって書くか、と。参加者の皆さんには、自分なりの「散歩をプロデュース」してもらおうと思っています。月末に、オンラインで開催。楽しみです。

今回も、お読みいただきありがとうございました。
次号は3月26日(金)の配信。「東京散歩ぽ」の中川マナブさん、「お気に入りの小物」は何ですか?

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「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。