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待ち受け画像の文化

2000年頃から、コツコツと携帯電話の待ち受け画像をつくっていた。一番最初につくったのは、白黒2諧調の5KB以下の画像。動作確認をしたくても、当時僕は携帯電話を持っていなかった。

初めて買った携帯電話は、三菱電機製のNTTドコモmova端末、D502i。ダイアルボタンの部分にカバーがあって、それがカパカパ開閉するデザイン。それまで白黒画面しかなかった携帯電話に、なんとカラー液晶が搭載されたのが発売当時は革新的だった。画面サイズは、96×120ピクセル。というわけで、このサイズの待ち受け画像をたくさんつくって、自分のサイトにコツコツと公開し始めた。

なぜかこの、小さな画像をつくるのがとても楽しくて。日本の伝統文化である盆栽とか、根付けとかをつくる感覚に似ているかもしれない。時に、ドット絵の手法で点をひとつひとつ打ち込みながら、デザインをつくった。

やがて、携帯電話の普及とともに、待ち受け画像やデコメのニーズが高まる。好みの待ち受け画像をダウンロードしたいが、当時はまだ携帯電話のデータ通信料は高かった。画像を一枚ダウンロードするだけで、数十円かかってしまうから、気軽にたくさんゲットできない。端末の容量も限られている。

というわけで、待ち受け画像を紹介する専門の情報誌やムックなどが売れるようになる。まず、好みの画像を雑誌で見つけてから、それをダウンロードしにいくのだ。今から考えると、とても不思議な文化だ。

僕の待ち受け画像作品が初めてそういった雑誌に紹介されたのは、2002年のこと。ダイアプレス社の『iパラダイス』というドコモのi-modeユーザーをターゲットにした雑誌だ。ここに、携帯電話に関する情報やサイトの紹介とともに、おすすめの待ち受け画像が紹介されている。そのうちのひとつとして選んでもらった。

ひとつの雑誌に紹介されると、それを読んだ他の出版社の類似雑誌からもどんどん掲載依頼が来るようになる。竹書房の『待ち画マニア』、学習研究社の『iモードNavi』、KKベストセラーズ社の『iモードBEST』、インフォレスト社の『ケータイSuper着うた&待ち画BOOk』、ソフトバンク社の『iモード情報サイト』、ダイアプレス社の『iパラダイス』、徳間書店の『ケータイmagazine』などなど。たくさんの出版社が携帯電話コンテンツの雑誌を出していたのだ。最盛期は、近所のコンビニに行って雑誌コーナーを覗くとこういった雑誌が複数置いてあって、どこかに必ず僕のサイトが掲載されているということもあった。

こうなってくると、待ち受け画像をつくるのがどんどん楽しくなり、ガシガシとつくってはサイトを立ち上げてアップし続けた。改めて数えてみたら、80を超えるモバイルサイトを制作していた。同じ雑誌に僕がつくった複数のサイトが掲載されるようになり、コンビニでそういった雑誌を見つけるとついつい買って帰っていた。そうやって、雑誌に紹介されるたびにコンビニや本屋で買って帰り、自分のサイトに「雑誌掲載歴」として情報を追記していった。

中でも、ぶんか社さんや、桃園書房さんなどはほぼ毎号のようにサイトを紹介いただいて、自分の方からも新しいサイトを公開したらいち早くお伝えしていた。2003年7月25日に発売された『i待っちぃ Vol.4』には、僕がつくった待ち受け画像のサイトが、なんと8個も掲載されている。

こういった携帯電話のコンテンツに特化した雑誌も、データ通信料が定額化されると急速に需要が減っていった。さらに、スマートフォンが登場し、それまでの携帯電話が「ガラケー」と呼ばれるようになると、待ち受け画像をダウンロードするという文化自体もデコメ、着メロと同様に消えていった。

自分がケータイサイトに記録していた雑誌掲載履歴も、2008年で更新がストップしている。2002年から2008年の間で、自分が把握しているだけでも150誌以上の雑誌やムックなどに掲載された。

面白い時代だったなと思う。こうして作り続けた待ち受け画像デザインは1万点を超えた。制作の依頼をいただいて、あちこちのサイトに作品を提供したりなどもした。あるいは、キャラクターの素材をもらって、それを待ち受け画像化する仕事など。

やがて、自分自身もウェブ制作の会社から、モバイルコンテンツプロバイダーの会社へ転職し、さらに携帯電話に関連するサービスやサイトの開発に関わるようになっていく。携帯電話メーカーさんや、通信キャリアの公式サイトなども手掛け、サービスの立ち上げに関わったりもした。

こうやって、コツコツと小さな携帯電話画面の画像をつくっていたら、たくさんの雑誌に取り上げられるようになり、いつか仕事も転職して、自分の作品がいろんな人のところに届くようになった。いつしか当時最先端だった携帯電話も今では時代遅れの「ガラケー」と呼ばれるようになってしまったが、1万点の作品をつくり続けたのはとても楽しかったし、その経験は今でも自分の財産である。

楽天トラベルさんの依頼で、東北楽天ゴールデンイーグルスの待ち受け画像をつくったことがある。その作品が、楽天イーグルスの試合中に球場の巨大なバックスクリーンに映し出されたことがあった。携帯電話の小さな画面に向けた画像を作り続けていたら、そんな巨大なスクリーンに映し出されて、それを野球場にいるたくさんの観客たちが見てくれたのが嬉しかった。

ケータイサイトの掘り起こしと復刻

ここ数週間ほど、データを大量にバックアップしているハードディスクを掘り起こして、過去に自分が制作した作品データを見返して、まとめるという作業をしている。

2005年から2010年ごろのバックアップデータの中からガラケー向けのモバイルサイトのデータをピックアップしていったら、サイト数が80以上あった。現役のサイトもいくつかあるが、ほとんどがドメイン解約とともに消えていったものばかり。

今回、そのデータを拾い集めて、新しく4つのサブドメインを切ったサーバーに放り込んでいって、十数年ぶりに復活させた。フォルダ数だけでも2,000を超えている。アップロードしたファイル数は3万4千超。それでも、ファイルサイズは300MBくらいしかないって、さすがガラケーサイト。

ドメインが変わっちゃってるのでリンク切れが結構あると思うけど。とりあえず見られる状態になっていればOKとする。携帯電話の機種判別と画像出し分けのスクリプトの一部はきちんと設定して動くようにした。ウェブリングや、掲示板などは取り外した。通常のブラウザではFlashの待ち受けはもう見られないが、なんとドコモのi-modeシミュレータがまだ現役で生きていて、公式サイトからダウンロードできるのでさっそくインストール。これで、スクリーンキャプチャが撮れる。

この後、主な作品の解説などをまとめたいと思っている。最終的に、それを本にまとめるか、あるいはミニサイトにするか、進めながら考える。

いろいろと、懐かしい。

掲載誌一覧

2002年5月8日掲載:
『iパラダイス 5月号』(株式会社ダイアプレス)
→ TOMAKI.info (p.25)

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アメリカで陶芸彫刻を中心にアートを学び、ロサンゼルスでホームレスになりかけつつもフォトグラファーとして仕事を得て、その後日本でウェブデザイナーからデジタルマーケケターへ。

日曜アーティストとして、今まで展示した作品や、開催したワークショップなどをまとめていきます。

「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。