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【Edge Rank 903】夏の夢は儚いけれど【TOMAKI】

■2021年9月5日

9月5日。東京ビエンナーレの最終日、僕は優美堂にいた。築80年の元額縁屋さんを再生して、コミュニティ アート スペースを構築するという、中村政人さんのプロジェクトに参加していたのだ。3階の、富士山の看板が裏から見えるその部屋で、「富士山」のハンコで富士山を描いていた。

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この壁画のために、業者さんにハンコをつくってもらいました。

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ハンコだけで描いた富士山。

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優美堂のハンコで、優美堂のロゴを描いた。これはトリックアートになっていて、部屋の隅でしゃがむと、ちょうどぴったり正確なロゴに見えるようになっている。

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来場したお客さんが、ペタペタとハンコを押して完成する作品。約60人の方に、このハンコアートに参加していただいた。

さかのぼること二十数年前、学生時代に私はアートを学んでいた。アメリカにあるリノという街の大学で陶芸彫刻を専攻しつつ、絵画や写真、版画、彫刻など、片っ端からいろんなクラスを受講した。大学を卒業した後も、夏休みの短い期間だけ大学に残り「Wall Works」という壁画制作&インスタレーションのクラスを受講しながら、ギャラリースペースの壁に絵を描いたり作品を展示したりなどした。

卒業から23年が経ち、また再びこうしてアートイベントの片隅で、ささやかな創作活動ができるのがとてもうれしい。

■1999年3月31日

1999年3月31日。アメリカで映画『マトリックス』が全米公開された日。僕は5年間のアメリカ生活を終えて日本に帰国した。その日のことが今でもよく夢に出てくる。

高校三年の秋に、突然「留学するぞ」と思い立った。海外旅行に行ったことなど一度もなく、外国人とまともに会話をしたことがないどころか、学校の英語の授業が嫌いだったのに。

留学のために渡米したのが、自分にとっての初めての海外渡航であった。行きの飛行機で、あまりにも緊張していたので、道中10時間以上のフライトはずっと座席で固まったままトイレに立つこともできなかったのを覚えている。

大学では、最初は人類学部に籍を置いていた。ヒューマンエコロジーという、人間について学ぶ予定だったが、たまたま受講したアートのクラスがとても面白くて、ひたすらアートのクラスを取り続けた結果、途中からアート学部に転部することになった。

かくして僕は、髪を伸ばし、ピアスを開け、中古のワーゲンバスを乗り回す日本人アート学生となった。大学から奨学金をもらって、そのお金で個展を開き、そこで作品を売ったお金とカジノホテルがスポンサーのアート賞を受賞してもらった賞金を資金にして、大学卒業と同時に「アメリカ西海岸職探しの旅」を始めた。1年間だけ有効の就労ビザと、作品を詰めたポートフォリオを持って。

職探しの旅と言えば聞こえが良いが、実質は家を失くして仕事もない、ホームレス生活。基本的に安宿を利用していたが、時々車中泊もした。約1か月弱の放浪の後、ロサンゼルスで写真とデジタル広告の仕事に就いた時は、所持金はたったの200ドル。日本に帰国するための飛行機代すら残っていなかった。

イスラエル人が経営する、宝石アクセサリーを扱う会社に就職。キュービックジルコニウムの指輪やピアス、ネックレス、ペンダントなどをひたすら撮影し、パソコンでリタッチをする仕事。給料は安かったけど、メキシコ系移民の老夫婦の家に下宿していたので、なんとか生活はできた。なによりも、働きながら新しいことを学べるのが嬉しかった。そこで1年間仕事をしている間に、Photoshopを使った画像編集と、Web制作の基礎を身につけた。

1年間のビザが満了となり、日本に帰国することになった。当時ロサンゼルスに住んでいたのだが、荷物の一部は大学のあったネバダ州のリノにある。貸倉庫に突っ込んでいた分と、知人に預かってもらっていた分。大学で専攻していた陶芸彫刻の作品や、写真の現像機、古いタイプライターやカメラ、スケッチブックやノートなど、5年間のアメリカ暮らしでため込んだ「思い出の品」がたくさんあった。もちろん、全部を日本に持ち帰ることはできない。特に、大きくて壊れやすい陶芸作品などは、ほとんど全部壊して捨てた。いくつかの作品は、緩衝材をつめて船便で日本に送ったのだが、残念ながら途中でほとんど割れてしまった。

1999年3月30日、日本に帰国する前日に、僕はリノの郊外にあるピラミッドレイクにいた。砂漠の真ん中に突然現れる湖。名前の由来である、大きなピラミッド型の岩山が湖から突き出していて、このエリア一帯がネイティブアメリカンたちの居留地になっている。その湖のほとりで、僕はその日、自分の陶芸作品を片っ端から叩き壊した。

壊れた作品の欠片のひとつを、近くに一本だけ生えていた木の根元に埋めた。

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■今でもよく見る夢

日本に帰国する時の夢を、20年以上たった今でもよく見る。場所は、学生時代に住んでいたリビングシェアのアパートであったり、あるいはホテルだったりするのだけど、どれも共通しているのが、「パッキングが終わらない」っていうこと。所持品や家財道具、作品などを箱詰めして、日本に向けて送らなければならないのだけど、その箱詰めが間に合わない。そんな感じの夢。

この夢を見ると、いつも目が覚めてから、自分の一部がまだアメリカに残されているかのように感じる。

今月の共通テーマは「定番の夢」です。寝るときに見る夢で、なぜか定番のもの、共通のテーマのものってありませんか?
そんな夢を教えてください。
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■編集後記

22日の夜、優美堂のメンバーに向けたオンラインの勉強会を開催しました。マーケティングについて学びつつ、優美堂グッズをつくるためのアイデア出し。いろいろ面白いアイデアが出たので、実際に作れたらよいな。

今回も、お読みいただきありがとうございました。
次号は9月28日(火)の配信。「東京散歩ぽ」の中川マナブさんです!

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「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。