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【Edge Rank 1128】深夜の創作活動【TOMAKI】

1994年から98年までの4年間、私はアメリカのリノという街でアートを学んでいました。その州立大学に入学した当初は、わりと真面目に「人類学」などを学ぼうと思ってヒューマンエコロジー学科というところに在籍していたのですが、たまたま受講したアートのクラスが面白すぎて、ひたすらいろんなアートのクラスを受講した結果、途中から「アート学部」に転部しました。結局、人類学のクラスはほぼ取らず。気づいたら学部を変えないと卒業が危うくなるくらいにアートのクラスを取り続けてました。

正直、アートでは食っていけないかもしれないというのは分かってましたけど、人生の間で大学生活の4年間、思いっきり自分の学びたいことを学ぶことができたら、たとえそれが仕事に結びつかなかったとしても残りの人生を幸せに過ごせると思ったので。とはいえ、やっぱり卒業して路頭に迷うのは困るので、保険でスペイン語も学ぶことに。日本語英語、そしてスペイン語の三か国語を身に付けたら、多少就職に有利になるのではないかと思ったのですよね。まぁ、結局その考えが甘かったというのは、卒業した後に気づくことになるのですが。

留学中の夕食当番

留学して1年生の時は大学の敷地内にある寮で生活。2年生からは大学から道1つ隔てたところにあるアパートの部屋を借りて、リビングシェアという形で3人のルームメイトと住むことになりました。入口のドアがひとつ。リビングとキッチンは共有。トイレが二つあり、ベッドルームがそれぞれひとりずつ個別にあるというつくり。大学から近いということもあって、夕方頃になるとルームメイトと友人たちがリビングに集まってくるんです。そんなわけで、みんなで夕食を食べるのが恒例に。ルームメイトと輪番制で夕飯当番を決め、その日の夕食をつくります。食費用の財布がキッチンの引き出しに入っていて、料理を作る人はそこから食材を買ってくるルール。確か、ルームメイトは全員ひとり60ドルずつを毎月その財布にお金を入れてました。それプラス、夕食時にふらりと現れる友人たちは、毎回1ドルか2ドルくらいを食材費としてその財布に入れていくという仕組み。いつも、にぎやかな夕食でした。

深夜のアート学部棟

夕飯後は、大学の宿題をこなす時間。教科書を読んだり、パソコンの前に向かってレポートを書くこともありましたが、ほとんどの日はアート学部棟に行って、課題の作品制作をして過ごしました。なにを制作するかは、その時に取っているクラスによって変わります。専攻である陶芸彫刻(Ceramics)の他にも、いつも何かしら自分の専攻とは異なる制作系のスタジオアートのクラスを受講していたので、その都度作業をする教室も変わります。写真であったり、彫刻であったり、油絵デッサン版画など。アート学部のほとんどの制作系のクラスを受講したので、どの教室にいればどこにどんな画材や道具、材料があるかまで把握していました。なので、油画の教室で絵を描きながらも額縁が欲しくなったら彫刻スタジオの木工用具を使いに行ったり、写真の暗室で現像した後、図書館でそのコピーをとってから、版画の教室でプレス機を使ったり。アート学部棟が自分の居場所でした。

アートの面白いのは、授業でいろいろな課題が出るのだけど、それを言われたとおりにやらなくても良いということ。その課題を自分なりに考え、咀嚼して、全然違う作品を仕上げて提出しても、その作品自体が良ければ良い評価がもらえるのです。作品として優れていれば、別に課題とずれていても許容されるし、むしろそれが奨励される。「自分の作品」をつくるということ。私がアート学部を選んだのは、この自由さも理由のひとつです。

そもそも僕は、「外国から来た留学生」なわけなので、他の人と異なるバックグラウンドや考え方を持っていて、それ自体が個性となります。なので、他の人と違う作品をつくっても受け入れられる。むしろ、異なる文化や考え方を先生やクラスメイトは面白がってくれるんです。それが心地よかった。

アート学部棟で夜中に制作作業をしていると、夜中の2時か3時頃になると掃除用具一式を専用のカートに積んだ用務員(janitor)の人がやってきます。この時間帯に、大学構内で作品の制作をしているのはほぼ僕しかいない。大学から歩いて帰れる距離に住んでいるので、もちろん終電などを気にすることもなく、ずっと深夜過ぎまで作業に没頭できるので、気づけば外が明るくなっているなんてこともよくありました。

「今日はこっちのクラスかい?」と用務員のおじさんが声をかけてくる。よく会うので、なんとなく顔馴染みに。「まだもう少しやってくー」と僕が返事をすると「遅くなりすぎないように。電気消して帰れよー」と短い会話を交わして、おじさんは掃除を続け、僕はまた制作に没頭してました。

卒業後、ホームレスに

在学中に僕が心配していた「アートは仕事に結びつかない」というのはまさにその通りで、かつ計算外だったのは「3か国語ができたところでそれだけでは仕事は見つからない」ということ。しかも、スペイン語ができる人なんて、アメリカにはめちゃめちゃたくさんいる。語学ができるからと言って、それだけでは就職には結びつきませんでした。そして僕は、大学卒業後にホームレスとなりました。実際には、家がなくなり住所不定無職にはなりましたが、車はあったので最悪そこで寝泊まりすることはできました。アパートを引き払い、家財道具はあらかた譲ったり売ったりなどした後は、余った所持品や在学中などの作品を倉庫を借りてそこに突っ込み、必要最小限の荷物と作品をまとめたポートフォリオを携え、85年式の日産MAXIMAに乗って「職探しの旅」をすることに。アメリカ西海岸をサンディエゴから北上しつつ、仕事を探しました。

約一か月弱の車中泊や安ホテル暮らしの後、なんとかロサンゼルスで写真の仕事に就くことができたのは幸運でした。ダウンタウンにある宝石をデザインしたり卸売販売をするユダヤ人社長の会社で、イギリス人の総務やフランス人の内装デザイナーに交じって、日本人のいる広告デザインチームに配属され、宝飾アクセサリーの写真をひたすら撮影し続けるというのが私の大学卒業後初めての仕事となりました。そこで、導入されたばかりのデジタルカメラなどの撮影機材の使い方などをほぼ独学で身に付けつつ、毎日毎日自分の給料の何倍か分からないけど高価そうな宝飾アクセサリー商品をひたすら撮影し続けました。最初の給料をもらった時、僕の所持金は200ドルしか残ってませんでした。つまり、日本に帰るための航空チケットも買えない状態。あともう少し無職の状態が続いていたら、僕は車を手放して、路上生活をしなければならなかったかもしれない。本当に、ギリギリでした。

日曜アーティスト

大学を卒業して四半世紀が過ぎ、現在私は平日は会社員として仕事をしつつ、週末は「日曜アーティスト」として、趣味の創作活動を続けています。あえて、アートを仕事にすることはせずに、あくまで趣味として楽しもう、と。「作品をつくる」というのと、「作品を売る」というのは、異なるマインドとスキルが必要になるのですよね。私が好きなのは作品をつくることであって、それで儲けるということではない。まぁもちろん、時々は作品を売って材料費にしたりもしますけど。ほとんどのプロジェクトはだいたい赤字です。

2年程前に、北千住にある「BUoY」というアートとカフェを融合したお店で、『恩送りアートカフェ』という滞在制作と展示販売をやりました。約3週間ほど、そのカフェの一角で小さな名刺サイズの版画作品をつくって、販売。作品の値段は1点500円にしました。そして、作品が売れると、売り上げの500円をそのまま次にくるお客さんのコーヒー代としてプレゼントするという「Pay it forward(恩送り)」のプロジェクトです。もともと、「恩送りカフェ」という活動は日本だけでなく世界のいろんなところでやっている企画ですが、そこにアート作品の販売も加えてみたという感じです。せっせと作品をつくり、500円で売って、見知らぬ人にコーヒーをおごる。つまり、私の手元にお金は残らないんですね。それどころか、つくればつくるほど、材料費分が赤字になってしまう。でもね、これで良いんです。お金を稼ぐ必要のない、趣味の「日曜アート」だから。こういう遊びのアートプロジェクトをやってる時が、一番楽しいのです。

3週間のプロジェクト期間中、滞在制作と販売は週末だけだったにも関わらず、60人もの方々がこの企画に参加してくれました。この企画を知って、友人たちが遊びに来てくれたりもしました。というわけで、60人のお客さんたちが私の作品を購入してくださり、そして私は60人の見知らぬお客さんにコーヒーをおごりました。作品制作に関わる画材や道具、額縁などすべて自腹でしたが、プロジェクト終了後にカフェのオーナーさんが販売した作品の額縁代を負担してくださいました。まさに、恩送りが繋ぐ、温かいプロジェクトとなりました。

このプロジェクトもそうですが、グループ展に参加をしたり、あるいは個展や勉強会を開くときも、だいたい前日の深夜に集中して制作作業を行うことが多いです。そこは、学生時代と変わっていないですね。ある程度準備期間を設けていろいろ作業をするのですが、やっぱり仕上げは前日の夜に一気にやります。夏休みの宿題を最後の日にやるような。

平日は会社員、そして週末や夜は趣味の「日曜アーティスト」という生活は、これからも続けていきます。

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今月のEdge Rank共通テーマは 「夜を過ごす」 です。夏至に近づいている今、短い夜の過ごし方をどうしたらいいか、気になりませんか?明るいうちから「夜モード」に入って何かするもよし、明るい時間帯を可能な限りアクティブに過ごし、暗い時間帯はゆったりと休息に充てる、なんてのも良し。短い夜の過ごし方を教えてください。
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編集後記

昨年から趣味で「エキストラ」をやっています。先月、初めて時代劇の撮影現場に参加しました。都内に集合してバスで福島の撮影現場に向かい、夕方から深夜過ぎまでアクションシーンの撮影。かと思えば、今月は海外の飛行機事故を再現する映像にエキストラとして参加したり、地元の商店街で外国人スタッフさんたちに囲まれつつCMを撮影したり。スクリーンや画面の向こう側に飛び込むみたいで、楽しいですよ。この夏は、自分がエキストラとして参加した映画がいくつか劇場公開になるので、観に行くのが楽しみです。

今回もお読みいただきありがとうございました。
次号は、「東京散歩ぽ」の中川マナブさんです!

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「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。