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「Imaginary Line」に至るまで

本日、Circus Tokyoで「Imaginary Line」というイベントが開催されます。国際交流基金アジアセンターにおける僕が関わる最後のプロジェクトになるので、この機会にこのイベントに至るまでの過程を書き残しておかねばならないと思いまして、夏休み前日の宿題のように深夜のガストでこの文章を書いてます。

一連のプロジェクトがスタートした3年前の2016年まで振り返ります。STUDIO VOICE vol.413 / Flood of Sounds from Asia に掲載された文章にその当時の思いが書かれていたので、そこから抜粋。

そのころは日本での<Maltine Records>の知名度も着実に上がってきて、アメリカやイギリスなど、海外でもイベントを行なったりもしていた。
そうした活動の手ごたえはあったが、反面、その盛りあがりはソーシャル・ネットワークを発端とした一過性のムーブメントであるということが実証され、明らかになっていく過程でもあった。今後このシーン̶インターネット・カルチャーの一部としての音楽レーベルや、それを取り巻くあらゆる音楽性のあり方はどうなるのだろうという懐疑心が増すばかりで、何か新しいことをやりたかった。

アジアの音楽シーン(特にエレクトロニックミュージックシーン)がどういう状況になっているか当時は全く知らなかったので、実際に現地を訪れてまずはリサーチをしようということになりました。

現地に行く前のWEBでのリサーチが肝心で各種SNSやGoogleを駆使してできる限りの訪問する都市の情報を集めます。僕がこの作業が苦じゃなかったことがこのプロジェクトに適していた理由かもしれないですね。目ぼしいアーティストを見つけたら実際に今度はGoogle翻訳(AIが搭載されていきなり進化したときは感動)を駆使してメールを書いて滞在中のアポを取ります。

そして、現地に行き話を聞いていく中で、点と点を結び付けるようにイメージしながら、その都市の音楽シーンの状況を理解していきました。

Similarobjectsとの出会いがあった。彼はアーティストでありながら、〈Buwan Buwan Collective〉というレーベルも主宰していた。コミュニティとカルチャーをどう都市のなかで育んでいくべきなのかという問題意識を持っていて、僕たちと同じ目線で話せる、とても信頼できる人物だった。さらに、東京とまったく異なるタイムラインのなかで成長する、思春期のようなマニラのエレクトロニック・ミュージック・シーンを垣間見た。その当時は、まだマニラにいたNo Romeの初々しいライブがいまだに脳裏に焼きついている。

2016年、はじめてのフィリピン・マニラの訪問で、今回も来日しているsimilarobjectsと出会ったことで、都市に置いて同じような目線で活動しているアーティストがいるという事がわかりかなり希望が持てました。今後のプロジェクトにおいてもインドネシアやベトナムのツアーに同行してもらうなど重要な役割を果たしていきます。

東南アジアの国々はそもそも音楽業界が整備されていない中で、2015年以後いきなりソーシャルネットワークとサブスクリプションサービスの普及したことによって、小さいけれどポテンシャルのあるシーンが乱立して状況が日々変わっていく液状化した状態になってると感じました。その状況を「Liquid Asian Pop」と名付けてリサーチの中間報告としてトークイベントも行いました。

ここまではリサーチの段階でしたが、ある程度のシーンの見取り図が手に入ったので、ここから先はより実践的な段階に移っていきます。

2017年には、マニラでsimilarobjects主宰のレーベルであるBuwan Buwan CollectiveとMaltineとのダブルネームでイベント「x-pol」を開催しました。

そして、2018年2月9日に東京渋谷WWWXにて「BORDERING PRACTICE」というイベントを行いました。

シーンも活動する場所も違うアーティスト同士が出会うことで、それぞれが周囲に輪郭としての境界を明確に引き直す試みとして「BORDERING PRACTICE=境界実践」というテーマを掲げて、日本、アメリカ、フィリピン、カナダ、台湾、インドネシアのアーティストが揃ったショーケース的な内容になりました。

このイベントが終わった直後に書いたSTUDIO VOICEの文章を引き続き引用します。

同じアジアにいるからといって、一丸になって何かをやろうとするのはナンセンスだという思いが、僕の根底にはある。それぞれの都市環境や文化的位置には違いがあり、お互いが交ざりあうことはまずないだろう。
 
だが、同時代に隣接するアジア各地で、個人や集団がどういう気持ちで音楽活動や文化活動に取り組んでいるのかを知ることは、けっして悪いことではない。文化的な地層が厚く重なっている東京において経験してきたあれこれが、もし彼らの活動のなかで生かせるものだとしたら、それは遠慮なく共有したい。
 
お互いの状況を知ったうえで、個人や集団が独立しながら〝Keep in touch〞でいるべきだ。ほかの場所について想像することによって、いまいる場所に囚われず相対的にものごとを考えることができるようになること。それによって僕らが進むべき方向を見失わないでいられるというのが、今回のプロジェクトにおける一番の成果だと思う。

リサーチからイベントへとアーティストやレーベル同士の関わり合いも密接になっていきます。2016年スタートからのプログラムを図にしたもので改めて振り返ります。

2018年東京での「BORDERING PRACTICE」の後に、ベトナムへのリサーチを経て、2019年にベトナムとジャカルタでのイベント開催に至ります。
下の写真はジャカルタで頑張るパソコン音楽クラブ。

ベトナムではリサーチで出会ったThe Lab(本当に有能なクレイティブエイジェンシー)やTenkitsune(マルチネ好きトラックメイカー)の協力を得てイベントを開催します。特にホーチミンでのイベントは勢い良く成長すつ都市の熱気も相まってかなりの手ごたえがありました。ベトナムはご飯が美味しくて本当に最高でした。また行きたい!

ジャカルタでは「BORDERING PRACTICE」の制作プログラムとして、国とレーベルが違う3者がスタジオで向き合いながら楽曲を作るというイベントから制作へとさらに踏み込んだ交流を行いました。曲は以下の特設サイトから聴けます。


そして、2019年8月24日Circus Tokyoでの最後のイベントに至るプロジェクトが「Imaginary Line」になります。今まで関わってきたアーティストを中心に3本のMVを制作し、1つのイベントを開催します。

2019年中で国際交流基金アジアセンターの一連のプロジェクトが終わるのははじめから決まっていたので、最後は一番に難易度が高い山を登ろうということで、リサーチ→イベント→楽曲制作という順番だったら次にくるのはMV制作という課題設定が適切だろうという考えでこの企画になりました。

とはいえ、企画のさらなるテーマとMVの人選をどうしようかと2018年末ぐらいから考えはじめます。僕の中でもはじめての試みだった事もあり構想が紆余曲折してしまって関わっている人に迷惑をかけてしまう局面もある等、かなり難しい道程でした。

それぞれのシーンの状況を統合するような明確な思想をベースにしたテーマも当初は構想していましたが、アジアという途方もなく大きい場所と向き合った時に、どうしても1本の道筋しか想像しえない内容にはまとまりきらないしそうしたくなかったので、意味よりも構造を示す単語でないと手に負えないという認識がまずありました。

その考えの上で、都市における文化状況やスピードが個別に違う中で、故意に関係性の線を想定することでしかお互いの都市を跨いで何かを制作することはできないという前提条件が、映像を撮影する際にカメラがある事によって恣意的に作られる登場人物たちの「想定線=Imaginary Line」と相似であるような気がしてこのワードを使わせてもらいました。

はじめから意図していた強い主張があるプロジェクトでもないので、外からは凄いフワッして見えるかもしれないですが、その過程でそれぞれが出会ってしまったという偶然性も含めて、僕はこのような形でしか東南アジアという場所をテーマに文化交流的なプロジェクトを実行することの誠実さを表現できなかったです。

▼Music Videoについて
http://imaginary-line.cs8.biz/

PARKGOLF - Leap (feat. Mantra Vutura & similarobjects)

「BORDERING PRACTICE」制作プログラムにて完成したPARKGOLF主導の楽曲をベースにDOUBLE DEERが映像を制作。

まず、この曲が僕は結構好きで、いきなりスタジオにMantra Vuturaが呼んだ縦笛奏者がバイクで登場して颯爽と吹いた音色が特徴的。日本だったら絶対に生まれない曲。

映像に関してはDOUBLE DEERにほぼ任せていて、民族的な仕上がりに少し驚いたけれど、この3つのMVのバランスの中で見ると面白い。イスラム教が大半を占めるインドネシアのなかで、性の価値観を揺さぶることをほんの少し暗喩するようなMVというよりかはショートムービーのような出来になっている。

Tohji - HI-CHEW (prod. MURVSAKI)

他2つが温度の高くないクールな内容になることは予想できていたので、プロジェクトの多様性と意外性を保つためにも匂いの強いストリートカルチャー的な内容の映像を入れておきたかった。

その方向でMVを作るならばリサーチで出会ったベトナム・ハノイを拠点にする映像制作グループ「ANTIANTIART」(NIRVANA STREETWEARという
ストリートブランドも運営している)は絶対に入れたかったのでそこまでは決まっていた。

そこから、彼らに当てるべき日本側のアーティストを探していて、やるからにはラッパーが良いなとぼんやり考えた時に、「ポコラヂ」という定期的に仲間内でやってるネットラジオで、偶然にも遊びに来たTohjiと出会う。なんか絶妙なダサさとカッコよさを紙一重で突き進むイメージが双方にあったので、相性がいいかもと閃き、その場で彼らと何かやらないかと持ち掛けた。


ガンガン興味を持ってたのでとりあえず「ANTIANTIART」に会わせる為にハノイまで連れていって、ついでにイベントでライブをやってもらったりした。クソアウェイだったと思うし、ライブ途中に苦情で音下げられたりしたけれど、日本ではあまり見ることのない状況だったのでより刺さった。

その「ポコラヂ」でてぃーやまさんが触発されて書いたnoteのリンクを貼ったが、さらに彼はこのプロジェクトが進行するのと同時進行で、いつの間にかTohjiをマネージメントする立場になっていたので、驚きました。

アーティスト含めて実写の撮影も多くなるような大掛かりな映像になることは目に見えていたので、誰か日本側でクリエイティブコントロールする人が必要だな~と思っていた矢先で、都合良く彼らとTohjiとのやり取りはてぃーやまさんにお任せしました。撮影のピーク時、疲弊で彼の顔は死んでたけれど、何とか形になって良かったデスネ…!

イベントやリリースを重ねるごとにグイグイにTohjiの人気も高まってきているので、もし声をかけるのが半年遅れたらクルーにキレるぐらい濃密に交流しながら制作する時間もなさそうだし、このタイミングはベストだったかなと。HI-CHEWが収録されているミックステープもかなり好きだったので聴きましょう。

similarobjects - Someone

TAV GALLERY佐藤氏から紹介を受けた彫刻家の菅原玄奨さんの「Someone」という作品を中心に置いて、そこから音楽、映像へとイメージを広げていくという順序で制作を進めていった。匿名性というのが1つのキーワード。

重厚さから遠く離れた音楽データばかりを扱ってきたので、彫刻ってなんなんだ?というのを今まで考えたことがないテーマが新鮮だった。

両者会わずにスカイプ通話などで進行したが双方の感性が近くて互いのアウトプットを気に入っていたようでそこは良かった。けれど、映像面は僕が進行段取りを整えられていたらもっと精度を上げれたと思うので悔しさが残る。

■最後にイベント情報はこちら

日本側のメンバーはこのMVに関連するPARKGOLFとTohji、ホーチミンとハノイのイベントに参加したTomggg、そしてベトナムに実は行く予定だったけれど体調不良でいけなかったTORIENAをリベンジでラインナップ。

ジャカルタでサポートしてくれたDOUBLE DEERからは若手のホープ2人組ユニット「Mantra Vutura」、ベトナムからはホーチミンのイベントに出演してくれた兄弟デュオ「Astronormous」、マニラからはお馴染みの「Similarobjects」が参加。

そして、「BORDERING PRACTICE」制作プログラムでコラボレーションした「Mantra Vutura × PARKGOLF × Similarobjects」3者が今回限りの特別なライブを披露します。

この機会でしか相まみえないような濃厚なラインナップを揃えたので興味持った方は是非今夜Circus Tokyoへどうぞ!

2019/08/24
Imaginary Line @Circus Tokyo
http://circus-tokyo.jp/event/imaginary-line/

OPEN 17:00 CLOSE 23:00
ADV: 3,000yen
DOOR: 3,400yen
U20 DISCOUNT(20歳未満) : 1,800 yen
*別途1ドリンク代金(600yen)必要

Line up:
Astronormous from Vietnam
Mantra Vutura from Indonesia
Mantra Vutura × PARKGOLF × Similarobjects
PARKGOLF
Similarobjects from Philippines
Tohji
Tomggg
TORIENA

Lighting/VJ:
huez

主催:国際交流基金アジアセンター
プログラムディレクター: tomad (Maltine Records)

国際交流基金アジアセンターでは、近年アジアにおけるアーティスト同士の協働が活性化しているエレクトロニックミュージックの分野に焦点を当てた活動を続けてきました。
今プロジェクト「Imaginary Line」ではアジア各都市の音楽家、映像作家、美術作家が参加し、国際協働制作した3作品のミュージックビデオを発表します。
また、それに伴うライブパフォーマンスプログラムとして本公演を開催します。アジアにおけるエレクトロニックミュージックの多様な広がりを体感できる一夜になることでしょう。

*挿入されている素敵な写真は Photo by Jun Yokoyama さんです

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