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君に贈る火星の

 いよいよ火星に到着する。
 自社の名前を広めるため、オリンポス山の頂上に会社の旗を立てに来たのだが、トラブルで予定よりかなり離れた場所に不時着した。不運にもその際、帰り分の燃料がどこかへ飛ばされた。
 会社からはロケットを送るからそれで帰って来るよう言われたが、それが到着するのは半年後。あぁ、こりゃ来年の結婚式は中止だな。恋人は「仕方ない」と言ってくれたが、彼女に最高のお土産を持って帰ろうと、山の頂上を目指すことにした。
 山は比較的緩やかだが距離がある。何しろオリンポス山は標高21kmの太陽系で最も高い山だ。しかし、俺は何としても頂上に行かねばならない。会社、そして、「頂上からの景色が知りたい」と言っていた彼女のために。
 半年後、ついに俺は頂上へ辿り着いた。その景色は今まで見たことがない美しさだ。
 俺は頂上に着いた証を写真に残した。そして、この景色をしっかりと頭に焼き付けた。盲目の彼女にこの絶景を伝えるために。

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