ボヘミアン・ラプソディを金ローで初めて見てものすごく良かったんだけど、これ2018年の公開当初に映画館で観とけば良かったと思った話。

金曜ロードショーの『ボヘミアン・ラプソディ』、最高でしたね!!

2018年のNo.1大ヒット映画、ってことで自分も概要だけは知ってたんですが(フレディ・マーキュリーをメインにしてクイーンの栄光への道のりを描いた半ノンフィクション映画、くらいの認識で)公開当初はクイーンっつっても超有名楽曲くらいしか知らないし自分には無縁の映画だわ、って感じで、流行りもんにはあんまり乗りたくない的な生来の変な意地も有って観に行きませんでした。が、流行るもんには流行るだけの理由が有るとも常々思ってるので、いつかちゃんと見ようとは思ってた。で、金ローでやってくださったんで、せっかくだから見た。

すごかった。いや、素晴らしかった。これを公開当時に観なかった自分は馬鹿だった。

理由は色々有るんですが、1つは最後のライブエイドのシーンとか、これ大画面で思いきり没入して観るべきだったな! というのが有る。だってもうあそこに、あの最後のライブシーンにこの映画の全てが詰まってるじゃないですか…「ウィー・アー・ザ・チャンピオンズ」の歌詞とか、もうあれこそがフレディとクイーンの描いてきた軌跡じゃないですか……

まぁあの映画の素晴らしさはご覧になった方は皆様わかってらっしゃると思うんで、自分が「惜しかった…これ公開当時に観とくべきだった…」と思ったのは主に他の点について。
それは、同性愛に対する差別の描写(※以下ちょっと映画のネタバレを含むんでご了承ください)

映画の中盤でクイーンズが記者会見で、記者達から音楽のことじゃなく「フレディの性嗜好について」責め立てるように突っ込んで質問されまくる場面が有るんですね。これが、観ていてなかなかピンと来なかった。
イヤだって人の性嗜好なんてどうでもいいだろ? とか、何でそこばっか突っ込むんだろ他メンバーだって結婚も恋愛もしてるだろ? とか、観ていて非常にもどかしかったんですが、最後まで見終わってからピンと来た。この映画,2018年公開か! と。
つまり私の感覚がおかしいっつーか、「2018年の私」と「2021年現在の私」だと、「同性愛者に対する世間一般からの風当たり」ってものが(当事者の方にとっては変わってないのかもしれないが、第三者でしかない私の勝手な感覚だと)大分変わってしまってるんですよ。
だから「同性愛者かもしれないリードボーカルを執拗に質問攻めする記者」とか「それが面白おかしく売り出せる記事だと思ってる記者」だとか、ゆえに「その質問をされることで追いつめられているように感じるフレディ・マーキュリー」ってのが、すぐにはピンと来なかった。

以下、なんでこんな現象が(私の中で)起こってるのかっていう、ざっくり説明↓

同性婚についての歴史を簡単すぎるほど簡単に振り返るなら、まず世界で初めて同性カップルの結婚を認めたのがオランダ。これが2001年4月。実はそれに先駆けてノルウェーでは1993年に登録パートナーシップ法は成立してたんだけど、それが同性結婚法として成立されたのは2008年(実際に施行されたのは2009年から)。
以降、欧米各国では2000年代に次々と同性婚やパートナーシップ制度を認める法律が成立し、日本では2015年に東京都の渋谷区と世田谷区、兵庫県宝塚市と三重県伊賀市でパートナーシップ制度を導入したのが最初かな?(※ただしパートナーシップ制度は正式な婚姻とは別物なので、厳密には同性婚とはいえない)
それよか日本では、2019年に北海道でカップル3組が「同性婚を認めないのは憲法違反では?」として国を訴えたことの方が印象が強いんじゃないでしょうか。そして、それに対する判決は札幌地裁より「原告の請求を棄却」(=同性婚を認めないことに対する慰謝料の請求は却下)という形で下されている(※但し「同性婚を禁止するのは違憲」との判断も同時に出している)なので現状、同性カップルの出した婚姻届は日本ではまだ『受理』されていないというのが実状。

とはいえサブカルチャーの面では、昨今の日本では元来「気持ち悪い」と見られがちだった「同性愛を描いた作品(いわゆるBL、ボーイズラブ)」を発表することに対する敷居がここ数年で下がってきたのも事実で、その大きなターニングポイントとなったのが個人的には『おっさんずラブ』の大ヒットなんじゃないかと思ってるんですが。知らない人ほぼいないと思うほどの超有名作ですが一応サクッと説明しておくと、これはごく普通のサラリーマンである春田創一くんが職場の上司・黒澤武蔵さん&部下・牧凌太くんの2人から想いを寄せられ、自分はゲイじゃなかったはずなのに2人の間で揺れ動く心…みたいなそんなお話だったかと思います(※実は私はこの作品を視聴していないので、Wikipediaさん等を駆使した又聞き情報であることをここにお詫び申し上げます)
この『おっさんずラブ』が連続ドラマとして大ヒットしたのが2018年(放送は4〜6月の1クール)。以降、『きのう何食べた?(2019年4〜6月放送)』、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(2020年10〜12月放送)』のように、ゲイカップルに焦点を当てた、あるいは当たり前のように登場するヒットドラマがどんどん出てきてます。映画だと『窮鼠はチーズの夢を見る(2020年9月公開)』なんかも話題になりましたかね。レズビアン作品で話題になったものは、申し訳ない、ちょっと思い浮かばなかった。

何が言いたいのかっていうと、日本で話題になった北海道での同性婚に対する国への訴訟も、『おっさんずラブ』を含めた数々のBL(要素を含む)作品の大ヒットも、ぜんぶ2018年〜2020年辺りの間に起こってるんですよ。
ぶっちゃけて私は2018年より前からBL作品を嗜んでいる民だったので、『おっさんずラブ』の予告をテレビで見た時には驚いた。え、それ、民放でやっちゃう!? しかも完全深夜枠(1時とか2時とか)じゃなくて!? と。
だけど結果は皆様も御存知のとおりで、「おっさんずラブ」は流行語大賞にまで選出されました。その後、劇場版まで作られましたし、当時のTwitterとかすごかったですよね。放送されるたびにトレンド入りみたいな事態になってたの、ドラマ見てなかった私ですら覚えてる。

かつては「同性愛は(当事者も、それを扱った作品を第三者的な視線から嗜む者も含めて)おかしいもの、気持ち悪いもの」みたいに見られていた風潮が、「同性愛をおかしいっていう方がおかしいんじゃないの?」に少しずつシフトしてきたのがここ数年なんです。2018年の『おっさんずラブ』ブームは、言葉を選ばずに言うならそれを大衆の前に明示化させた、ひとつの大きな装置として機能したんじゃないかと思ってるんですけど。

この「同性愛をおかしいっていう方がおかしいんじゃないの?」感が広まってきてるのが正に2018年〜今で、先日放送された『ボヘミアン・ラプソディ』って映画は、その過渡期にがっつり入る前に公開されてるんですね(日本での公開は2018年の11月なので一応『おっさんずラブ』ブームの開始後とはなってますが、個人的には『おっさんずラブ』は「BL作品を一般大衆向けのものとして出す」先駆けになった作品で、その後にもBL作品のヒットが続いたことが重要だと思ってるので)
なので、私が2018年秋の公開当初に『ボヘミアン・ラプソディ』を観ていたなら、フレディの性嗜好について執拗に追求する記者達とそれに追いつめられるフレディのシーンを、もっと臨場感有る生々しいものとして認識できたと思う。

いや本当、この映画、公開された時に飛びついて見とけば良かった……。

でもお陰様で自分の中で「同性愛をおかしいっていう方がおかしんじゃないの?」の感覚が、まぁ私は元々その考え方だったんですけどそれでも世間でもそう言える人が以前よりは増えてきたんじゃないのかな? ってのを改めて認知できたのが収穫と言うか。いや当事者の方々にしてみたらまだまだ全然って部分は沢山有るんでしょうけど(そこは本当に私には第三者から見た立場でしかものを言えないので誠に申し訳ない)

でも、数年後、あるいは十数年後に、この映画を観た人が、クイーンズの記者会見のシーンを見て「なにこれ?」って全く飲み込めなくなるくらい、そのくらい「同性愛も異性愛と一緒で当たり前のもの」って感覚が今よりもっと広がってたら良いよね、って思う。

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