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犬のコマンド

私は犬を飼っています。体重36kgの大型犬です。存在感があって、ぐっと抱きしめることができる可愛い奴です。大型犬は、見てくれが大きく「襲われたり、咬まれたりしたら怖い」ので避ける人もいるようですが、人の脅威となったり人に危害を加えたりする犬種は基本的に淘汰され、現在まで生き残っていないはずです。戦うことを目的として作出された一部の闘犬種を除き、概して大型犬は人懐こく優しい性格で飼いやすいと言えます。

因みに、アメリカでは登録犬種(純血種)の上位は大型犬で占められているのに対して、日本ではジャパン ケネル クラブ(JKC)の登録上位10位までが柴犬を除いてすべて小型犬で、その比率は全登録数の7割を超えます。住宅事情もあるのでしょうが、日本では小型犬が好まれているようです。

小型犬の飼い主は犬を力で制御できるので、あまりしつけや服従訓練に興味がないように思います。いざとなれば力任せにリードを引く、あるいは抱きかかえることが可能ですから、そんな必要を感じない、あるいは見た目が小さくて可愛いので、ついつい過保護に育ててしまうのかもしれません。

しかし、大型犬の飼い主はそうはいきません。子犬のうちならまだしも、成長してからでは力で制御することはほぼ不可能となります。飛びつきや咬み癖、あるいは引っ張り癖などしっかり矯正しておかないと、思わぬ事故やケガにつながります。(突然、興味を引くものに向かって突進した飼い犬によって、転倒したり骨折したりする大型犬の飼い主の例は枚挙にいとまがありません)

さて、前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのは犬のコマンドです。コマンドとは英語の”Command”のことで、「(権限や力のある者が)命令する」と言う意味です。犬の服従訓練の文脈では、犬に動作をさせるときに使う命令・指示のことで二種類あります。犬の聴覚に訴える言葉による命令・指示は「声符」と言い、手や身体でサインを送り犬の視覚に訴える指示・命令を「視符」(英語では”Hand Signal”[ハンドシグナル])と言います。飼い犬に声符のみならず視符も仕込んでおくと、声が届かない距離や静粛が必要な環境でも使えるので便利です(まるでリモコンのようです)。

コマンドの基本となるのは次の四つでしょうか。一応、一般的な視符も書いておきますが、視符は決め事なので飼い犬が理解できるものであれば何でも良いと思います。

「スワレ(座れ)」「オスワリ」→「スィット」”Sit”

単に犬を座らせるだけではなく、興奮を和らげ落ち着かせることができます。人に飛びつくことも抑制できます。(「シット」”Shit”と言うのは「大便」という意味になるので避けます) 

視符は「人差し指を立てる(立てて左右に振る)」「手のひらを上に向けて、そのまま上げる」などです。

「フセ(伏せ)」→「ダウン」”Down”

「フセ」とは、犬が胸と腹を地面に着け、その腹這いの状態を維持することを言います。英語の「ダウン」”Down”は”Lie down”(ライ・ダウン)あるいは”Go down”(ゴー・ダウン)の省略形です。単に犬を伏せさせるだけではなく休む姿勢を取らせることにより「フセ」も「スワレ」同様、興奮を鎮め犬を落ち着かせることができます。違いは「スワレ」より時間軸が長くなることです。 

視符は「人差し指で下を指しながら手を下げる」か、「手のひらを下に向けて、そのまま下げる」のがよく使われます。

「マテ(待て)」→「ステイ」”Stay”または「ウエイト」”Wait“

飼い主が「ヨシ(良し)」、”OK”(オーケー)や”Go”(ゴー)などの解除の声符(+視符)をかけるまで、犬が同じ場所、同じ体勢で動かず待ち続ける、犬の動きを制止し勝手に歩き回ることを防止するコマンドです。その際、「マテ」をかけたら解除のコマンドを出すことを忘れないでください。さもないと犬がどうしてよいか分からなくなり混乱します。ウチでは立ったまま待たせるときを「ステイ」、座ったまま、あるいは伏せたまま待たせるときを「ウエイト」として使い分けています。

視符では「手のひらを犬に向けて広げ、犬を制止するように突き出して保持する」が一般的です。

なお、食事の際に「マテ」をかける飼い主がいるようですが、これは「マテ」ではなく「おあずけ」です。「おあずけ」は、その間、犬がフードを凝視したり逆にそっぽを向いたりして、アイコンタクトができなくなりがちです。加えて、犬のフードに対する執着心を高めてしまい、「おあずけ」させればさせるほど食べたい気持ちが高まり、解除のコマンドとともに犬は一気に食べるようになります。この過剰な一気食いは消化に悪く、特に大型犬の場合、胃捻転のリスクを高めることにもなりかねません。前述のとおり、正しい「マテ」は、犬がアイコンタクトを取りながら、飼い主が解除の声符(+視符)を掛けるまで待ち続けることです。食事の「おあずけ」を本当の「マテ」と混同すると、飼い犬が食事以外で「マテ」ができなくなるかもしれませんので、食事に際に「マテ」を使うのは避けた方が賢明です。

「コイ(来い)」「オイデ」→「カム」”Come”

いわゆる呼び戻しのコマンドです。「コイ」と言われれば、犬は何時でも何処にいても何をしていても、必ずすぐに飼い主の元へ戻ってこなければなりません。この「コイ」は、ある意味、最も重要なコマンドと言えます。犬にこのコマンドが入っていれば、リードや首輪が外れて道路に飛び出したり、他の人や犬・猫に突進して行ったりしても、「コイ」の一言で犬が戻り危険を未然に防止することができます。

視符は「手のひらを外に向けて体の外側へ腕を広げたのち、呼び込むように腕を大きく振って、手のひらを胸(あるいは反対側の肩)に向かって引き戻す」が一例です (何のことはない、手をヒラヒラさせる「おいでおいで」の動作を切り取って誇張しただけのような感じですが…)。ウチでは後述する「ツケ」の応用で「左手で左の腰を叩く」ことにしています。

この他にも、飼い主の左側について、飼い主に合わせて歩いたり止まったりする「ツケ(付け)」「ヨコ(横)」/「ヒール」”Heel”とか、物品を犬に回収させる「モッテコイ(持って来い)」/「フェッチ」”Fetch”とかあるのですが、家庭犬ではあまり使うこともないので割愛します。

最後にとっておきのコマンドを一つ。それは「ジェントル」”Gentle”です。これは「優しく」とか「穏やかに」という意味で、飼い犬が他の犬と出会って興奮したり、猫を見つけて追いかけようとしたりしたときに使います。「ジェントル」と声をかけて犬を抑えて、静まったところで褒めてやれば完璧です。(飼い犬が他の犬と出会って吠えかかったりしたとき、よく見かけるのは飼い主が「お友達」「お友達」と連呼する光景です。飼い主にしてみれば、「あの犬は、お友達なのだから吠えないで」ということなのでしょうが、見知らぬ人から自分の犬を「お友達」呼ばわりされても、「うーん」という感じです)

"Gentle!  Good girl."
「優しく。そう、良い子だ。」

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