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友達が実家に戻ったときのこと

2005年8月。
昼下がりの地下鉄に揺られていた。暇を持て余して、友達にメールを送った。

「最近、どう?」

友達からの返事は思いもつかないものだった。

「実家に戻ることになった」

たまたま送ったメールへの返事ではない。いきなり始まった展開に動揺しつつ、メールのやり取り続けた。

友達から聞けたことは、体の調子が悪いので実家に戻ること、次週には引越すこと、送別会はしなくていいこと(放っておいてほしい)であった。

友達の実家は遠い。
このまま会わずに別れたら、次に会えるのはいつになるかわからない。だから、なんとか会う約束をしようと食い下がり、二人で会う約束を取り付けた。

金曜日。友達は指定されたファミレスに徒歩で現れた。いささか疲れたように見える友達は、体の調子が悪くなり電車やバスに乗れないと説明してくれた。

それから仕事のこと、体調のこと、学生時代のこと…とりとめなく話し込み、夜中になった。
ついに別れの時、蒸し返す暑さの駐車場で別れを惜しみながら、車に乗り込みエンジンをかけたとき、ハッと思いついた。

MDを渡そう。MDを餞別にしよう。

「Best of Izumi Tachibana」と手書きしたラベルが貼られたMDを車の窓越しに友達に渡した。「ベスト オブ イズミ タチバナ」と友達はつぶやき「聴いてみるよ」と言った。

車の窓越しに何度目かわからない別れの握手、友達に見送られながら車を発進させた。

2005年8月27日。

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