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【TOLOPANの真髄に迫るvol.38】忙しい東京の朝にゆとりをもたらす「朝の麦」

「朝の麦」僕はこの響きが好きだ。


修行させてもらった、デュヌラルテ時代。
こういう洒落た名前をフランス語でつけるのは
決まって淺野シェフだった。

「レーヴデュブレ」

豆電球のような形の食パンだった。

これは柴田シェフが考案した、女性が気負いなく手にとれるように考えられた、お客さまに寄り添うメニューだった。

ただこの名前は、のちにフランスに長く住んでいたお客様に「ルヴェデュヴレ」に直させられたのをよく覚えている。フランス語で正確に発音するとこっちが正しいらしいのだ。とはいえ僕自身としては名前は雰囲気でつけるのが好きだったりする。




トロパンでの「朝の麦」は、歯切れのいいベーグルにしたいと思った。ゆでたベーグルではなく、蒸気でツヤを出しモチモチ感があり、歯切れのいいもの。

最初はサイズも定まっていなかった。
生地だけを作ってサイズを探していた時に、たまたまヒガシヤマの生地と朝の麦の生地でそれぞれ余りがでた。自分たちで食べるようにと、2つの生地を混ぜて小さめの形状で焼いてみた。それを嫁さんと半分ずつにして食べてみると、朝の麦単体のモノより香りや甘味がとてもよかったため生地を半々に混ぜることにした。

「kiriのクリームチーズの四角いのを挟みたい」
そう言ったのは嫁さんだった。

それじゃあ、とkiriの四角いクリームチーズのサイズに合わせたパンの大きさにして、さらにベリーのコンフィチュールを乗せて食べてみたらとびっくりするほど相性がよかったのだ。

次は、「これを3つ売りにして欲しい」と。

家族それぞれが、
それぞれの楽しみ方をできるようにと。

生ハム、サーモン、コンフィチュール。クリームチーズに合うものはまだまだたくさんある。こうしたアクセントを一つ加えるだけで、しかも調理なしで楽しめる。

トロパンでは、忙しい東京ならではの
「朝の麦」を提案したいと思った。


ヒガシヤマは前にも紹介した通り、絹豆腐と豆乳、オリーブオイルのヴィーガン食パンだ。朝の麦用に作った生地は塩の比率を少し上げ、ヨーグルトの自然な酸味をプラスした。素朴な甘味や酸味、塩味を感じてもらいたいため、素材を殺さないグレープシードオイルで作っている。

粉はもともと北海道木田製粉の「ほのか」を使っていた。この粉で吸水85%以上にすると独特なモチ感と甘味が生まれる。それに粉の時点でクリーム色で、視覚的にも甘味を感じやすいためとても気に入っていたのだが、残念ながら現在は生産されていない。次にいつ入るかわからなくなってしまったため、工夫してブレンドすることにした。

今の配合は、グルテンネットワークが別格の日清「カメリヤ」95%、府金製粉のアミロペクチン含有量がもち米と同じでモチ感を出せる「もち姫」4%、自然な「ほのか」の甘味に近づけるための栗粉1%にしている。

夏に向かうにつれ、クリームチーズのモタっと感と生地のモチ感が重く感じる季節になる。だからこそ生地には歯切れが重要だし、食べ方のひと工夫が重要になってくる。

コンフィチュールを合わせるなら、パイナップルやパッションマンゴー。ちょっと洒落たアレンジをするなら、セミドライイチジクのラム酒漬けにサラミ、レモンピールにローズマリーとチョリソー、トマトジャムに生ハムなんかもいいだろう。

3つ入りを2袋買って、アミューズ、メイン、デセールを同じパンで楽しめる。

そうして朝から2人で食事を豊かにして欲しい。






「朝の麦」から、ふと思うこと。

職人が本当に欲しいのは、
経済的な優遇でも、評価でもない。

心の自由なのだ。

自由な世界の中で遊び、遊んだらまた熟考する。

それが職人的道義だと僕はそう信じています。

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