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東京夜光録2022.5.17(川名)

こんばんは、川名です。『悪魔と永遠』を終えてから、シアターコクーン『みんな我が子』の演出助手をしてました。あんまり演出助手やってる時期のことって喋らないですが、東京夜光録を毎月お届けすると決めましたし。そういえば今までだって、助手の時期に得たことが東京夜光の糧になってる気もします。といっても、以下、現場のことというより独り言みたいなものですよ。

https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/wagako2022/

アーサー・ミラーを読み耽ることから始まりました。読んでたのはきっと大学のころ。図書館で借りてたっけ。当時は瞼の重みに耐えながら”読んだ”という称号を得るためだけに読んでました。「俺、こないだアーサー・ミラー読んだぜ」って誰かに言うためだけに。不純だけど、勉強って意外とそういうきっかけで始まったりします。東京夜光始めたての頃に書いた『世界の終わりで目をつむる』は、確かその前年にコクーンの「るつぼ」を観に行って衝撃を受け、戯曲の研究しました。宗教観の中で、究極の二択になっていく様は「るつぼ」からもろに影響受けて書きました。改めて他のアーサー・ミラー作品も読み始めて、今読むと、「よく書いたなぁ」とため息。たまに「あぁ、この作品にもっと若い頃に出会ってれば自分にも違う未来が」なんて思うこともありますが、たぶん大体はそんなことない。僕の場合、大学の頃に読んでたはずですし、今読むからこそ感嘆のため息が出るんでしょうよ。

アーサー・ミラーが1946年に書き上げた『みんな我が子』。30歳前後、、、かぁ。30歳目前で果たしたブロードウェイデビュー作が大コケして、「次がダメなら芝居やめよう」と背水の陣で書いたブロードウェイ2作目。これが1947年に大ヒットして劇作家として地位を確立しました。第二次大戦後すぐ、激動の時代。ウクライナのこともあって、今強烈に響くセリフ。当時きっと、このセリフが持つ響きって相当なものだったでしょう。そういえば、東京が年明けからアーサー・ミラー祭りになってましたね。劇壇ガルバさんの『The Price』(悪魔と永遠で観にいけなかったけど観たかった!)とPARCO劇場『セールスマンの死』(観にいきました!)、そしてシアターコクーン『みんな我が子』。どの作品も、もう50年以上、なんなら70年近く経ってるのに、しかも日本なのに、心をつかみ続けてる。アーサー・ミラー作品の持つ、なんてことない人々の生活を舞台にしつつ、物語の奥底で流れる普遍的で壮大な激流が、未来の異国の人々に刺さってるのでしょうか。

演出家お気に入りのノートA5縦を買うために撮って、日本だとなかなか見つからなくて焦った。

演出はリンゼイ・ポズナーさん。しゃべりたいことが山程あるけど、キリがないのでやめときます。本当に素敵な人です。たくさんのことを学びました。あ、あと、パンフレットに稽古場日誌を寄稿したので、もしご観劇される方よろしければぜひ。今まで、確か3人、イギリスの演出家が日本で何かやる際に関わってきたけど、ひとりは同世代の若手で実験的な公演だったし、二人はワークショップのアシスタントだったし、ガッツリ公演に演出助手で関わるのは初めてでした。そもそも、前々から聞いてたけど、日本における「演出助手」とイギリスにおける「アシスタントディレクター」って職種が全然違う。イギリスの場合、「演出家の卵」が演出の助手として、話し相手になったり調べ物したり、勉強のためにそこにいることが仕事みたいな感じだそう。日本の演出助手がやってる仕事は、ステージマネージャー、日本でいう舞台監督チームの仕事の範囲。だから毎回イギリスの演出家が日本の演出助手の働き方みて「あれ、あんたアシスタントディレクターじゃないの?」ってびっくりするそう。とはいえ、私も演出家の卵ですし、、、なんて話もしつつ、いやいやそれでも日本の演出助手として稚拙ながら一所懸命働きましたし働いています。このあたりのことは、東京夜光「BLACK OUT」をご参考に。(参考にと言っても現在、映像も戯曲も販売してないのですが。。。すみません)

Shakespeare's Globe

話変わって、ロンドンに行ったのは2019年秋。今思えばコロナ直前。運が良かったとしか言えない。あれコロナ前だったんだ。。。5日間でこれでもかと7、8本舞台観ました。よく、ロンドンやニューヨークに行って帰ってきた人が「考え方が変わる」「世界の見え方が変わった」って話すのを聞いて、「またまたー」「話盛ってー」と思ってたけど、「ほんまやっ」ってなったのを覚えてる。日本でもこないだグローブ座でやってたダンカン・マクミラン「Lungs」や、つい最近まで新国立でやってたアニー・ベイカー「The Antipodes」みました。あと「Hamilton」「Matilda」すごかった。ナショナルシアターのバックステージツアーに驚愕したり。観客も含めて、演劇がこの国の文化なんだ、というのがシンプルだけど一番身に染みて感じたことかもしれない。日本と違ってみんな演劇学校で教育を受けてプロになっていく。自然と共通言語も多く豊かな稽古が繰り広げられる。そんなこんなでロンドンの演劇創作に憧れる演劇青年(もういい年だし青年でもないか)。創作の上で豊かな環境(費やされる時間も含めて)や自由な発想、何より、とても単純だけど役の関係性を突き詰めること。あの時の気持ちを心のどこかに置きながら東京夜光でも毎回試行錯誤で取り組んでる。で、今回、リンゼイさんに聞いてみた。「ロンドンでは若手の演出家や劇作家はどうやって一人前になってくの?」。苦い顔して答えてくださった。つまり、僕はなんとなく、ロンドンには若手を育てる革新的な仕組みがあって志せばそれで食べていける、あぁ日本はなんて若手演劇人にとって苦しい国なんだ、なんて勝手にロンドンに楽観的な夢を描いていたけれど、どうやら普通に狭き門らしい。そりゃそうだ。もちろん若手のためのいろんな取り組みはあるけれど、狭き門という点ではおそらく日本と変わらない。ふと、好き勝手な夢を想像してた自分を笑ってしまった。なんだか、頑張ろ。

脱線しまくりですが、『みんな我が子』機会があればぜひご観劇ください。本当に丁寧で綿密な稽古を経た強度のある作品です。今日現在、コロナによる中止公演が出ていますが、再開できるよう祈るばかりです。

そして劇団員、草野先輩ご出演の舞台『キノの旅』が明日初日。無事に公演できますように。頑張ってください!

https://kinonotabi-stage.com/

ではまた来月に、劇団員の誰かがお届けします。
どうぞお楽しみに。

2022.2.17 川名幸宏

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