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なんでも数値化、可視化される時代に、僕はただ磯部焼きを食べたい

誰も悪くないのに、傷ついてしまうことがある。

先日、Twitterのスペースイベントで2回程MCをする機会があった。それぞれゲストの方がとても素晴らしく、業界では有名なクリエイターさんだったので多くの方が参加してくれた。

スタッフ「宇都宮さん、すごいです!リアルタイムで40人こえました!」
とオンエア中も随時視聴者数をメッセージで報告してくれて嬉しかった。そう、2回とも50人近くの方が視聴してくれて反響があったのだ。

そして、今度はまさかの
スタッフ「今度は記念すべき5回目だからこそ、宇都宮さんをMCではなく、ゲストとして登場してもらい、ご自身のキャリアを語ってほしい!」
とスタッフから打診をいただいた。

決してスタッフは悪気があったわけでもないし、
むしろ100%純粋な気持ちであることは伝わったが、
すぐに虫の知らせが走った。

心の声「やばい、絶対、ニーズがない・・・」

知名度のない僕がゲストで、しかも自分のことを話すという内容では、人を集められない逆の自信があった。別にリアルタイム視聴者数など誰も気にしやしないのに、それまでの多くの視聴数記録がフリとなって、今度は逆に、最低視聴記録を叩き出してしまうイメージが湧いた。

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思えば、なんでも数値化され、可視化される時代である。

Twitterスペースは「現在、●人が視聴中」というのをわざわざ可視化し、運営だけでなく、ありがたいことに誰もが見れるようにしてくれている。

僕はこれまでもイベント登壇というのはよくやってきた。
そして、それなりの来場者数、動員数を獲得してきた。
今年の6月に渋谷ヒカリエで盟友の岸田浩和監督とやった、映像クリエイターのための「稼ぎ方入門」講座
ヘッダー画像が示すように多くの立見まで出て賑わいを見せた。

そう、これまでは、そういう人を惹きつけるような、ちゃんと誰かにとって何かお役に立ちたいという気持ちを込めた企画がセットだった。
「クリエイターのためのお見積もり講座」
「クリエイターのための法人化入門」
「クライアントとのトラブル回避術!」
など。

しかし、今回は違う。僕が自分のキャリアについて語るということは、何の武器も持たず、丸裸で土俵に立つことを意味していた。ファンクラブ会員0人なのに、わざわざ大きな会場を借りてサイン会を開こうとする無謀なアイドルになった気持ちだ。しかもサイン会場に来た人数をリアルタイムで可視化し公開します、という無謀の二段重ね。しかし、断る理由などない。最高の仲間であるスタッフたちからの依頼。純粋無垢なる期待。やるしかなかった。前日になって、スタッフが考えてくれたタイトルを教えてもらった。

『僕が映像ディレクターではなく、プロデューサーを目指した理由』

まるで小沢健二の「ぼくらが旅にでる理由」みたいな
エモーショナル爆発のタイトル。「ディレクターも時々やるんだけど・・・」と言いかけたが、タイトルがあまりに秀逸すぎるので、僕は二つ返事でOKした。これがスタジオジブリの鈴木敏夫さんなら何も言うことはなかった。何時間でも聴いていたいタイトルだ。しかし、僕は鈴木敏夫さんではなかった。

そして告知ツイートはこんな感じだった。

文字数制限の関係もあったのかもしれないが、僕に関する補足文はなかった。僕が川村元気さんくらい有名人ならこれで何も問題はなかった。しかし僕は川村元気ではなかった。

僕「あ、もしよければ、せめて僕のことを知らない人のために、“あの【稼ぎ方入門】で好評を博したスピーカー"とか"ついに、Vookキャリアの事業ディレクター登場"とか
"今、勢いのあるナチュパラの代表"とか嘘でもいいので
ガン盛りしてもらって、ちょっと触れ込み添えてもらえませんか?」

と言いかけたが、やはりこれも言えなかった。自分で自分を盛るためのコピーを人にお願いすることほど恥ずかしいことはないように思えた。

スタッフ「うわ、この人、必死で人集めようとしている・・・」

と思われるのも嫌だし、必死で集めようとした結果、スベった時のダメージが余計に大きくなるのも想像できた。僕はあらゆる状況を想定して、これはもう勝ち目がないと諦めて、あるがままに現実を受け入れ、本番に挑んだ。

本番スタート。予想通りのパラパラとした少人数のなかで、僕は恥ずかしげもなく、自らのプロデューサーキャリア論を語った。MCをやってくれた女性スタッフがすごく回しが上手だったので話自体は楽しく進行できたものの、予想していた通り、十数人くらいの視聴者で過去5回のなかでの最少記録を打ち出してしまい、終わった後、穴があったら入りたいの気持ちで僕は布団のなかで丸まった。

数少ない視聴者のなかに、なぜか映像クリエイターではないラッパーの友人Fcrow君がずっと聴いてくれて、彼が何かを察してくれたのか、ラジオの翌日「飲みに行きましょう!」とお誘いのLINEをくれた。僕はこの時、彼が、天使にしか見えず、二つ返事でOKした。

下北にある大好きな居酒屋「さかえ」で普段飲まないビールを浴びるように飲んで、ことの顛末を話したら、Fcrow君は爆笑しながら聴いてくれた。少しだけ憂さが晴れた気がした。この言葉にできない感情を「せつな面白い」と僕は名付けた。そう、誰も悪くないのに、傷ついてしまう悲劇は、他人からみれば滑稽な喜劇でしかなった。

最後に頼んだ磯部焼きを見た時、僕の心はあたたかく包まれた。

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磯部焼きは数字のことを何も言ってこない。
この美味しさは数値化されないし、可視化もされない。
僕は無心で磯部焼きに食らいついた。

✳︎

追伸
リアルタイムでもリアルタイムじゃなくても聴いてくださった方、本当にありがとうございました。感想をくれた皆さん、あなたは僕にとっての天使です。

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