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セミナーレポート:島悠里さんのシャンパーニュセミナー@オンラインに参加しました。


新型コロナウイルスの影響でワイン業界も様々なイベントが中止される中、新たな試みとしてオンラインでのワイン会やセミナー、ワイナリーツアーが盛り上がってきていることをひしひし感じています。

育児中の私は決まった時間に集合したりワインを飲んだりするのはなかなか難しいものですが、それをなんとかやりくりして、どうしても参加したい!と思ったのが、今回参加したイルドコリンヌ主催の島悠里さんのシャンパーニュセミナーでした。

何を隠そう、私は島さんの大ファンなのです。


国際弁護士とWSET L4、二足のわらじを実現する女性

日本にもワインに関して優れた知識や多くの経験を持つ方はたくさんいらっしゃいますが、私が島さんに憧れる理由のひとつとして、ニューヨーク州で弁護士として活躍しながら、WSET L4を成績優秀者として合格し、現地のワイナリー(特にシャンパーニュ)に足を運びながら最新の知識をアップデートし続けているという点です。
私自身、本業はまったくワインと関係ない広告代理店勤めの会社員です。本業をこなしながらこのようにワインと深く素晴らしい関係を育むことができるのだと知り、大変希望に満ちあふれています。

一般人ではとうてい訪問できないようなメゾンに赴いて話を聞いたり、収穫を手伝ったりしているというから驚きです。私は収穫の時期にワイナリーを訪ねたことはありませんが、さながら戦場のようであると聞いていますし、そんな時期に訪ねさせてくださいとお願いする勇気も全くありません。(そして当然、受け入れてもらえないでしょう)
今回のセミナーは、島さんが実際に現地に足を運んだからこそ得られている生の空気感や情報を共有していただけたことが大変ためになりました。


このセミナーレポートでその内容をすべて書いてしまうわけにはいかないのですが、いくつか印象に残った部分をトピックごとに記しておきたいと思います。

※尚、この記事はセミナー講師の島悠里さんおよびイルドコリンヌのオーナー山本香奈さんのご許可を得て公開しております。


シャンパーニュの魅力とは

セミナーの主題はルイ・ロデレールのブリュット・プルミエについてですが、冒頭でシャンパーニュに関する基礎知識のインプットがありました。
その中で、島さんはシャンパーニュの魅力について

・シャンパーニュの長い歴史の叡智の結晶であること
・非常に冷涼な地域かつ海が近いので雨が降る地域のため、毎年のぶどうの出来が大きく異なる→醸造長の高度な技術がワインに現れること

と語られていました。

歴史や気候条件についてはもちろん私も勉強してある程度は知っていましたが、"醸造長の腕の見せどころ"という観点は私は今まで持ったことがありませんでした。実際にその"腕"をたくさん見ていらした島さんだからこそ出てきたキーワードのような気がします。


想像を絶するルイ・ロデレールの試行錯誤

大手メゾンというと、長い歴史の中で培った知識や経験を元に作り上げた型を守り続けているというイメージでした。しかし、ルイ・ロデレールのワイン造りのプロセスを知り、むしろありえない規模での創造と破壊が行われていると感じました。

彼らは自分たちのワイン造りに関して"No recipe"と言っているそうです。レシピ(=決まった型)を造らず、毎年の個性を出すことを目指しているそう。
それを実現するために、収穫したブドウは品種や区画ごとに細かくサンプリングされ、それらを組み合わせて約500種類(!)のワインのサンプルができるそうです。同じ区画の中でもbio, biobynamicsなどの多様な手法で試行するため、このように膨大なバリエーションができるのです。

特に近年では毎年の個性を出すことに加え、ブリュット・プルミエではルイ・ロデレールのスタンダードキュヴェとしてより飲みやすい(島さんの言葉を借りると"アクセスしやすい")ようにMLFのブレンド比率を増やしたり、調合するリザーブワインのビンテージも1〜3年程度と若いものを使用し、はつらつとした方向性を目指しているそうです。

さらに、通常のメゾンでは区画ごとなどでこのリザーブワインを保存していますが、ルイ・ロデレールでは15%ほどブレンド後のワインを保存し、翌年以降に使用するのだそう。これにより、過去のブリュット・プルミエとの連続性・一貫性を生み出すことができるのです。

他にも、世界的な辛口志向や温暖化の影響を受けて、ドザージュの量も変化しているそう。ルイ・ロデレールではMLFの影響で、ドザージュを0.5g/L下げたとのことです。

ドザージュについてはこちらの記事を読むと、より理解が深まると思います。


ブリュット・プルミエ="リトル・クリスタル"

このセミナーで初めて知ったことは多々ありますが、特に驚いたのはブリュット・プルミエが"リトル・クリスタル"と言われていることです。クリスタルとはルイ・ロデレール社のトップレンジのキュヴェ。ロシア皇帝アレクサンドル2世の要望により誕生した特別なシャンパーニュで、納得のいく品質に達した年のみ生み出される希少性の高いフラッグシップキュヴェ(=プレスティージュ・キュヴェ)です。

さて、ブリュット・プルミエが"リトル・クリスタル"たる所以とはどこにあるかというと、

クリスタルの原料となるぶどうの木は樹齢60〜70年の古木。20〜25年はクリスタルには使われないため、それまでの間その木から収穫されたぶどうはブリュット・プルミエに使われる。
クリスタル の品質に満たないと判断された年には、クリスタル用の区画から収穫されたぶどうをすべてブリュット・プルミエに使用する。

このように、ブリュット・プルミエはルイ・ロデレール社のスタンダード・キュヴェでありながら、その延長線上にプレスティージュ・キュヴェのクリスタルが存在していて、ふたつは非常に近い存在であるとも言えるのです。

さらに、ドザージュには通常、同じワインのリキュール(ブリュット・プルミエならブリュット・プルミエのリキュール)を使いますが、ブリュット・プルミエにはクリスタルのリザーブワインをリキュールとして入れているそうです(これについては先述のドザージュに関する記事でも触れられています)。


ブリュット・プルミエ、どう飲む?

ルイ・ロデレール社のブリュット・プルミエへのコミットメントの高さを知ると、今までただのスタンダード・キュヴェだと思っていたブリュット・プルミエが大変気難しいものにも思えてきます。確かにその要素は複雑性を帯びていますが、彼らが目指す"アクセスしやすさ"がきちんと実現されたフレッシュな印象を強く感じました。
島さんいわく、買ってから2年ほど熟成させるのがおすすめとのこと。さらにリッチで重厚感が出るため、食事を通して楽しめるそうです。(メイラード反応により、キャラメルやコーフィー、トフィのニュアンスが増す。)

また、シャンパーニュを楽しむ時のグラスはフルートグラスではなく普通のグラスで飲むのが良いそうです。フルートグラスは泡が立ち昇る様子が非常に美しいですが、香りが感じづらいのが難点。

島さんはセミナーでレーマングラスのJAMESSEモデルラルマンモデルをおすすめされていました。ジェラール・バッセが開発に携わったグラスで、香りが広がりすぎないのが良いのだそう。
第二回セミナーのロゼの回ではジャンシス・ロビンソングラスで飲むつもりだとおっしゃっていました。(私は今回のセミナーでジャンシス・ロビンソングラスを使っていたので、嬉しかった!)


次回セミナーは6月28日(土) 16:30〜

他にも、ルイ・ロデレールの最高醸造責任者ジャン・バティストさんからセミナー参加者にビデオメッセージがあったり、島さんが現地で撮影した収穫や醸造の様子ができる写真を見せてくださったり、私のアカデミー・デュ・ヴァンの先生だった松木リエ先生がブリュット・プルミエとカルテットのテイスティングコメントを披露してくださったりと、とにかく盛りだくさんの一時間半でした。

実はこの島さんのセミナーは2回シリーズで、もう一回あります。

2020年6月28日(土) 16:30〜
「みんな憧れ、ロゼの奥深い世界」
~今をときめく若手RM・JM Sélèqueの精巧なロゼ~

詳細・申込みはイルドコリンヌのホームページからどうぞ。
https://www.ile-de-colline.com/200601-champagne-seminar

非常に濃密で素晴らしいセミナーでしたので、お時間のある方は是非参加してみてください。


今回のセミナーで飲んだワインはこちら。


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