見出し画像

3杯目のワイン


2019年7月の、梅雨も明けた暑い日でした。

私は妊娠7ヶ月で、はたから見ても「あぁ、妊婦だな」と分かる程度に、すっかりとお腹は大きくなっていました。
冷え性でワイン好きの私が、これほど暑くて過ごしづらく、こんなにも冷たいシャンパーニュを恋しく思う夏は今までにありませんでした。

この日わたしは夫とともに、結婚記念日と私の誕生日祝いを兼ねて、しばらくぶりにフレンチレストランへと足を運んだのでした。

外食が憂鬱だった4ヶ月

私はとにかく食いしんぼうで、ちょっぴり(?)大酒飲み。
しかし、つわりとは恐ろしいもので、そんな私から一切の食欲と酒欲を奪っていました。

携帯の画面越しに食べ物や飲み物を見るだけで吐いてしまう…という生活は2ヶ月続きました。

つわりが落ち着いたあとも、食事にはとても悩まされました。
妊娠中はお酒が飲めないのはもちろんのこと、生肉(生ハムやパテ、ローストビーフなども含む)や生卵、ナチュラルチーズ、(人によっては気にしないこともありますが)刺し身等を避けなければいけません。
イタリアンやフレンチに行けば、それらを避けると意外に食べられるものが多くないことにとても驚きました。

「お肉やお魚はよく火を通していただけますか?」と、慎重な私に対して、「(この料理はレアが美味しいのにな…)…わかりました」という返事をするお店の方の、なんともいえない表情。

そんなことが度々あり、どうしても外食が楽しめずにいました


3杯目のワイン

そんな中で訪れた、西麻布のこじんまりとしたフレンチレストラン。事前に妊娠中であることと、避けてほしい料理をお伝えしておきました。
妊娠中で食べられないものの他にいくつか苦手な食べ物も伝え添えており、とても面倒な客だと自覚していたので、申し訳なさからいつも以上にドアをくぐる際に緊張していたのをよく覚えています

私たちを笑顔で出迎えてくれたのは、ソムリエールでした。

席につき、飲み物をオーダーし、食事をはじめました。
1杯目、夫はシャンパーニュを、私はジンジャーエールをいただきました。

美味しいお料理を楽しみながら、2杯目。夫はおまかせでグラスの白ワインを、私はオレンジジュースをいただきました。

私が驚いたのは、3杯目の赤ワインでした。
ディナーは鴨肉のローストにいちじくのソースがかかったお料理に進んでいて、ソムリエールが勧めてくれたワインのうち、夫はソノマのピノ・ノワールを選びました。

ソムリエールは丁寧に夫のグラスにワインを注ぐと、ワインのラベルを私に向けて、ワインの紹介を始めたのです

「奥様が、とてもワインがお好きなように思いましたので…」

画像1

この日のディナーは私の誕生日も兼ねていましたが、お店で祝われるのが苦手な私たちはそんなことも伝えていませんでしたし、夫がホストで私がゲスト、というような素振りもありませんでした。
けれどもソムリエールは、お酒を飲まない私が夫のグラスの香りを楽しんでいたり、夫へのワインの説明を熱心に聞いたりしていたのを、きちんと見逃さずにいてくれたのでした。

食べられないものがたくさんあって面倒くさい上にお酒が飲めない私は、お店にとって「良いお客さん」ではないだろうなあ、と後ろめたく思っていましたし、
友人たちとワインを飲みに行っても、飲めない私にワインを紹介してくれる方はもちろんいませんでした。

そんなふうに、レストランでお食事をいただく楽しみをすっかりなくしてしまった私に、最高のサプライズとともにおもてなしをくださったのでした。

トツキトオカの妊娠中、後にも先にもこんなにも幸せにお食事させていただいたことはありません。


たったこれだけの、小さなこと…でしょうか?
私にとっては涙が出るほど嬉しいサービスで、そんな私を見て夫も大変に喜んでいたように思います。

西麻布のエゴジーヌさん、お酒が飲めるようになったら是非またお伺いしたいと思います。

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはワインの勉強のための参考資料の購入等に使わせていただきます。