「ハッピー・オブ・ジ・エンド」 ep.14 感想
ep.14
引き続き、物語は重く暗い空気に包まれている。
マヤが千紘を拉致して暴力をふるうこと、そのために浩然が苦しむことは予想していたが、14話の最後のページを目にした時、私は驚いて息を飲んだ。
まさか、こんなことになるなんて…。
ここからはネタバレを含みます。コミックス派の方は閲覧にご注意ください。
13話以降、表紙の記載がep.13、14ではなく、No.13、14となっていますが、この記事では2巻までと同様にep.を使用しています。
千紘の退院後、二人はマヤに見つからないよう引っ越して、ひっそりと暮らしている。
浩然の表情は暗く、目の下にはクマができていて美貌が翳っている。
コンロもない台所では、オムライスも作れないだろう。
マヤに暴行されて左腕を怪我した千紘を、浩然は甲斐甲斐しく世話してくれる。
千紘のために、冷蔵庫からペットボトルの水まで取り出してくれる過保護ぶりだ。
浩然は、バイトをやめた千紘とずっと一緒にいてくれるようになった。
千紘に優しく接する浩然はかっこいいけれど、過剰な心配は罪悪感の表れだから、私は浩然が心配になる。
途中、×ギブス→〇ギプス(独:Gips)の誤植が気になってしまった。
千紘の右頬に落ちたまつ毛を浩然が取ってあげようとすると、千紘はびくっとしてしまう。
マヤとのことの後遺症なのだろう。
不意に身体に触れられると過敏に反応してしまう千紘を見て、つらそうに目を伏せる浩然…。
マヤに見つかることを恐れて外に出られない二人の代わりに、加治が1週間分の水や食料を買って届けてくれる。なんだかんだ言って面倒見のいいお兄さんだ。
真っ黒な瞳のまま、冷たく答える浩然。
弱音を吐いたら、張りつめている緊張の糸が切れてしまうから、「大丈夫」と強がっているように見える。
加治から受け取った重そうなビニール袋を両手に提げて、一人エレベーターに乗り込む浩然の耳に、どこからか千紘の泣き声が聞こえる。
病院で浩然の腕に抱かれて泣き出した時の千紘の声だ。
また千紘が泣いているのではないかと不安に駆られた浩然は、血相を変え慌てて部屋に戻る。
そんな浩然の姿を見て千紘は驚く。
千紘は泣いてなどいない。浩然の幻聴だったのだ。
安心したのも束の間、
浩然には再び、千紘の声が聞こえる。
浩然は自分のせいで千紘を傷つけてしまったという自責の念と罪悪感に追い詰められている。
もちろん、千紘はそんなことを言ったりはしない。また幻聴だったのだ。
「お前のせいだ」と浩然を責めているのは自分自身だ。
育てているパンジーの芽が出ないので、千紘は残念そうにしている。
パンジーの花は二人の幸せの隠喩だから、今が苦しい時であることを示している。
夜、千紘の寝顔を眺める浩然は、再び幻聴に悩まされる。
千紘がこんなこと言うはずないのに…。
浩然は増大していく不安や苦しみを千紘に言うことができないから、ますますつらくなっていく。
頬を赤らめて「ほんとはイブ、一緒にいたかった」と言った時(ep.11)のように胸の内を素直に曝け出して、千紘と気持ちを共有することができれば、少しは楽になれるのに…。
千紘に負担をかけたくないから、何も言わないでいる浩然の気持ちもわかる。
この先の展開が怖くなるような浩然のモノローグが始まる。
浩然のスマホにマヤから動画が届く。
マヤが千紘に(後藤に対して)フェラをするよう強要し、その様子を録画していた時から、こうなることはわかっていた。
動画を見た後の浩然の表情は描かれない。
千紘にも読者にも背を向けたままだ。
でも、煙草を切らした千紘に「あとで買ってきてあげる」と静かに答える後姿を見ただけで、浩然がどれほどショックを受けているかが痛いほど伝わった。
料理なんかしたことないと言っていた浩然が、珍しく台所に立って洗い物をしていると思ったら、スマホの側には包丁が…。
どうかそんな悲しいこと考えないで、浩然!
浩然はマヤに
「昔のこと(浩然がマヤを警察に売ったこと)会って謝りたい」
とメッセージを送る。
ラインではなく、メッセージを使っているところがポイントだ。
きっと、浩然がマヤの下で働いていた頃は、スマホやラインが今ほど普及していなかったからなのだろう。
さすがおげれつ先生、細かい描写も隙がない。
マヤと路地裏で待ち合わせた浩然は、マスクを着けている。
現在も新型コロナ流行の真っ只中にいる私たちもまた、日常的にマスクをしているのであまり不思議に思わないが、何年かして読み返したら「マスクをしている」ことにもっと違和感を覚えるようになるのだろう。
浩然の前に現れたマヤは、鼻の上にガーゼを当てて、右小指に包帯を巻いている。
どうやら誰かにボコボコにされたようだ。
マヤが手下にしていた間宮はすでにパクられたらしい。
マヤは誰を恐れているのだろう。おそらく裏社会の人間には違いないが。
浩然はマヤに尋ねる。
浩然は、千紘ではなく自分が暴行されたり、フェラを強要されたりした方がよっぽど楽だったろう。
決定的な一言だった。
光を失った浩然の黒い瞳が、大きく見開かれる。
その頃、千紘はパンジーの種を小さな鉢からプランターに植え替えて、浩然が帰って来るのを待っている。
今は芽が出る気配がなくても、パンジーの花は必ず咲く。
この花が咲いた時、千紘と浩然には幸せが訪れるはずだ。
二人の幸せは我々読者の幸せでもあり、心から待ち望んでいるものだけれど、パンジーの花が咲くことはこの物語の終わりが近いことを意味するから、その時ができるだけ先になることを私は願っている。
そして…
最後のページを見た瞬間、私はあまりの衝撃に息を飲んだ。
浩然は家から持ってきた包丁でマヤの左腹部を刺したのだった。
心臓の位置からは外れているし、致命傷にはならないのだろうが、浩然がこんな暴力的なことをするなんて…。
浩然は罪を犯す覚悟だったから、顔を隠すためにマスクをしていたのだ。
この後、浩然はどうするのだろう。
約束通り、煙草を買って千紘のもとに戻ってくれるのだろうか。
千紘はたとえ浩然が人を殺したとしても(たぶんマヤはこの傷では死なないだろうけど)、浩然を受け入れ愛してくれる。
一緒に逃げるのだろうか。
ここまでしなければならないほど、浩然は追い詰められていた。
千紘を愛しているからこそ…。
そして、浩然を救えるのは千紘だけだ。
最後のページは全く予想外だったので、今後の展開が読めなくなってしまった。
この先、千紘と浩然がどうなろうとも、私は二人とともに悩み、苦しみ、悲しみながら、どこまでもおげれつ先生についていく。
必ず、幸せな春が待っていると信じて。
追記:2022年8月26日
発売日に14話を読んだ直後は、最後のページの衝撃があまりに大きく、頭が真っ白になってしまって、この先の展開がまるでわらなくなってしまったのだが、2日経って少し落ち着いてきたので、改めて今後について考えてみようと思う。
次回、約束通り千紘のために煙草を買って、浩然は部屋に戻って来るだろう。
千紘を傷つけたことに対してマヤに報復した達成感などは微塵もなく、おそらく出て行った時よりもさらに憔悴した表情で…。
千紘は戸惑いながらも、疲れた様子の浩然をきっと優しく抱きしめてくれる。
そして、久しぶりにセックスをしてお互いの痛みを慰め合うのではないだろうか。
2巻ではep.09以外毎回セックスしていたのに、ep.13、14ではキスすらしていないから、そろそろ二人がイチャイチャする場面が見たいという希望もある。
「じゃあ、セックスしよう。何も考えなくていいだろ」(ep.2、私はこのセリフが大好き)と初めてセックスした時のように、何も考えずに抱き合って気持ちを落ち着けた方がいいと思う。
マヤを刺したことを、浩然は千紘に言えるだろうか。
自分からは言い出せなくても、浩然の様子がおかしいことに千紘が気づいて問い詰めるのかもしれない。
そろそろ、以前浩然がマツキにお願いした頼み事(ep.12)の内容が判明して、事態が好転するといいのだけれど。
14話はおげれつ先生のさすがの「引き」で、漫画としては面白い展開になっているのだが、浩然が心配で仕方ない。
ドキドキしながら、15話を待っている。
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