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「囀る鳥は羽ばたかない」 第54話 感想 誰にでも秘密がある

第54話

 
 今回矢代と百目鬼は別々に行動し、二人を取り巻くヤクザの抗争がじわじわと進行していく。
 ハイライトは、読者お待ちかねの百目鬼と井波の対決だった。

 桜一家がケツ持ちしているクラブで神谷が黒服を詰めている。
 以前、この店では客と黒服が小競り合いになった後、店の金庫から三百万円が消え、奥山組の関与が疑われていた。(第50話)

 事件後ママに事情を聞いた百目鬼は、クラブの女の中に犯人を手引きした内通者がいるのではないかと言っていたが、黒服の仕業だったことが判明したのだ。
 黒服がなかなか口を割らないので、神谷は同行した組の上司から拳銃を渡される。
 銃で脅された黒服が「何でも喋ります!!」と観念したその時、神谷たちのもとに産廃処理所の隠し金庫からも桜一家の金が盗まれたと連絡が入る。

 神谷が黒服(ハルトくん)を連れて店を出ると、ママが追いかけてくる。

ママ「ハルトのこと許してやって。脅されてやったことだろうから」
黒服「…泉さん。すいません…」(ママの名前が泉であることが判明)
神谷「俺より彼氏に頼んだらどうすか?」
ママ「え?」
神谷「百目鬼さん、アンタの家に通ってるらしいじゃないスか」

 この場面のママ(泉さん)の浮かない表情を見て、私は百目鬼とママが男女の仲ではないことを確信した。

ママ「…見られてたなんて」
神谷「そういう仲ならいいじゃないスか。堂々としてれば」
ママ「…そういう訳にもね。あまり広げないでね。迷惑かかるから」

 ママは困惑している様子だ。とても自分の男の話をしている女の顔には見えない。
 百目鬼との関係はママにとって人に知られたくないことだとわかる。

 去り際に、神谷はママに

「たださ、アンタあんま向いてねーよ。優しすぎ」

と言い残す。

 神谷は、ママが何に向いてないと言っているのだろう?

 ヤクザがケツもちするクラブのママに? 百目鬼の女に?
 それとも、第50話で私が直感したように、奥山組の内通者(スパイ)に?
 このママにも何か隠し事があるようだ。
 誰かに脅されるような弱みでもあるのだろうか。
 
 百目鬼には女はいない、ママとはできていないと、私は繰り返し述べてきたが、今回その予想が正しかったと確信した。

 一方、前回から引き続き、矢代は七原とともに山川が潜伏している渋谷Kビルの出入りを見張っている。
 動きがないため一旦店を出ることにした矢代だったが、第53話で怪しい目つきをしていたウェイターが自分たちのことを誰かに連絡している姿を見逃さなかった。さすが私たちの矢代だ。

矢代「元ボクサーの体はなまってねーよな」
七原「いやー、だいぶもうなまりまくってますね。腹も出てきたし」(えー…、七原、鍛えろよ)
矢代「腹の出たお前に用ないんだけど」

 矢代が七原に「ちゃあんとタテになれよー」と言った直後、エレベーターからいかにもな風貌の輩二人組が降りてきて、矢代たちに突っかかる。
 さっきの店のウェイターから連絡を受けた奴らだと、矢代は見抜いていた。

 因縁をつけられても、矢代は相手にせず立ち去ろうとする。
 「待てよ」と矢代の肩に手をかけた輩の腹に、七原がすかさず蹴りを入れる。

 ナイフを取り出した相手にも七原は怯むことなく、「社長!行って下さい。ここは俺が」とかっこつけて矢代をかばう。
 すると、「わかった、じゃ」と拍子抜けするほどあっさり矢代が出て行ってしまったので、「早ぁ!!」と逆に七原が驚くのだった。

 ビルを出た矢代の姿を、Kビルの窓から甲斐が見ている。
 甲斐に矢代がこの件に絡んでいることを知られてしまった。
 今後、矢代に致命的な危害を加えるのはきっと甲斐だろうと私は予想しているので、矢代が心配になる…。

 七原が啞然とするほどの素早さで現場を立ち去った矢代だったが、その後車をボッコボコにしながらも運転して、七原を助けに来てくれた。
 矢代は部下を見捨てない。そういう優しさがあることはわかっている。
 もともと運転が下手な矢代だが、右目が見えなくなっていることを考えると、できるだけ危ないことはしてほしくない。

七原「せっかくの情報だったのに山川にまた逃げられますね。俺らが何者かはすぐにバレそうですし」
矢代「いや、そうとも限らねぇ。俺と道心会のことがつながれば、うちの枝とモメた件だと思うだろ」

 いずれにしても、矢代はヤクザの抗争の真っただ中に巻き込まれていく。

矢代「面が割れてる百目鬼があの場にいなくてよかったな」
七原「あいつどこで油売ってんすか」
矢代「油じゃねえ別のモン売りに行ってんだろ」


 百目鬼は井波に喧嘩を売りに行っていた。
 
 どこかのビルの地下駐車場で百目鬼は井波と向かい合っている。
 矢代が井波に調べろと命じた奥山組の甲斐の情報を、矢代の代わりに取りに来たのだ。

 ヤクザになった百目鬼を貶めたいのかヒマつぶしに無駄口を叩く井波に対して、百目鬼がさっさと情報を渡すよう迫ると、井波は「そういわず、一緒に鑑賞会でもしようぜ」とスマホをかざし、自分と矢代のセックス動画を見せつける。

 百目鬼は井波を殴り、落ちたスマホを踏みつけて「そっちのデータも寄越せ」と脅す。
「クラウド知らねーのか!? 意味ねえだろ」と井波は答えるのだが、この男が自分のセックス動画をクラウドに保存しているところを想像すると滑稽でしかない。

百目鬼「二度と会うな。ヒマつぶしにあの人を使うのはやめろ」
井波「お前が決めることじゃねえだろ。それにあれはヒマつぶしよりは楽しめる。勃たねえ奴とヤルなんてレイプだろ。たまんねーな」

 レイプするのが好きだと自らの性癖を晒す井波。
 このセリフを聞いた百目鬼は顔色を変える。

百目鬼「…なにを言ってる」
井波「お前とヤッた後、物足りなくて俺のとこ来たんだぜ? 可哀想にちゃんと満足させてやれよ(無駄に自慢げだけど、矢代を満足させてないのは井波、お前の方だぞ)。もう使いモンにならねえんだからよ」


 予想通り、矢代がインポであることを井波が百目鬼にバラした。
 百目鬼は矢代の秘密を知って驚いている。

 百目鬼はこの後どうするだろう。
 今の百目鬼なら、矢代に「井波はあなたが勃たないと言っていました」と直球を投げて矢代を追い詰めそうだけど、果たしてどうだろうか。

 なぜ、矢代は井波相手だと勃たないのに自分とする時は勃つのか、百目鬼は理解するだろうか。
 
 矢代と百目鬼の関係性が大きく変化するターニングポイントが迫っている予感がする。
 期待に胸を膨らませて、第55話を待つ。


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