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「ハッピー・オブ・ジ・エンド 2」 感想 その6

ep.12

 
 冒頭はマヤのモノローグ。

普通に生きてる奴みんな死ねばいい
みんな俺くらい不幸になればいいのに
そうしたら生きるのってどんなに難しいか分かる

 マヤは自分が「不幸だ」と感じている。

なぁそうだろ?

 マヤは浩然に語りかける。
「殺したくならねえ?」

 マヤの期待に反して、浩然は同意しない。
「俺がほしいもの、殺しても奪えないから」(ep.10)

怒ってないんだ?
なんで?

 マヤは自分と「一緒」だと思っていた浩然に、本当は「違う」ところを見せられて納得できない。

優しくしてもらったことないくせに
誰からも必要とされてないくせに
死にたいくせに生きてる
お前ズルいよ

 浩然が千紘と暮らし始めたアパートの階段に、マヤはカエルの写真を撮ったインスタントカメラを置いていく。

 そのカメラを見つけた浩然は、千紘に「プレゼント」と言って渡したのだった。(ep.02)

 この場面を読んで私は

「同じ思いをしてるからこそ、同じ地獄に落とさなきゃ気が済まないのさ」

安野モヨコ「さくらん」

というセリフを思い出した。

 浩然はもう、マヤの知っている隼人でもケイトでもない。
 千紘に優しくしてもらったし、必要とされている。
 しかし、だからこそ、マヤは自分を置き去りにして変わっていく浩然を許せない。
 自分と同じ地獄に落としたがっている。


 千紘は買ってきた植木鉢にパンジーの種を植えた。
 春になったら花が咲くのだろう。二人の幸せの予告だと思った。

「俺水やりとかできなけいど」と浩然はあまり興味がなさそうだ。

「俺がします」と言う千紘に「そうして」とクールに返す浩然が可愛い。

 浩然は引っ越しの便宜を図ってくれたマツキとご飯を食べるために出かける。

「エロいことすんなよ!?」と心配する千紘だったが、

「今の俺にエロいことできんの、お前だけだよ」

 去り際に流し目でこう言われて、動けなくなってしまう。

 千紘はプルプル震えながら「く~っ、ズリィ~」と悔しがるほど、浩然に心を奪われている。(私も)


 浩然はマツキとおそらく六本木か麻布あたりのレストランで食事をする。

「だから、頼んだよ。マツキさん」と浩然は新たにお願い事をしている。
 浩然はマツキに何を頼んだのだろうか。

「マツキさんありがとうの会」なのにマツキが奢るという食事会が成り立つことを、私は大人になってから知った。

 お金がある人にとっては、自分が気になる相手と楽しく食事ができるのであれば、相手の分も支払うことなど何でもないことなのだ。例えばそれが自分の誕生日会であっても。

「近頃の隼人は人っぽいわよ」と、未成年の頃から浩然を知っているマツキが言うからには、浩然は今までよほどいろんなことに無関心、無感動で醒めていたのだろうと思う。
 千紘と出会って浩然は≪人っぽく≫なったのだ。

 マツキが気乗りのしない浩然の頼み事…。気になる。これは3巻の展開の鍵となるのだろう。

マツキ「こんなに綺麗に生まれてきたのに…どうしてかな」

 マツキは憐れむように浩然の頬に触れる。

浩然「ちょっといじってるけどね」

 浩然はどこをいじったのか。
 いじるところなどないほど美しいのに?
 幼い頃から今までそんなに顔が変わっていないから、「森さん」に虐待されて入院した時に鼻骨が折れたのを直したのかなと思っていたが、おげれつ先生がスペースで正解を教えてくれた。

(浩然は)もともと綺麗だから、綺麗にしたいとかじゃなくて、ケガで曲がった鼻を直した。

2022年4月26日 スペース

 予想通りだった。


 大晦日、千紘の作ったオムライスを食べた二人は、部屋でテレビを見ている。
 このためにテレビを買うほど見るのを楽しみにしていたライジンの試合が始まり、千紘は嬉々としている。

 でも、浩然が邪魔をし始めて、千紘は試合を見続けることができなくなってしまう。

 浩然はこういうちょっと意地悪なところがあって、そこがまた彼の魅力だと思う。

 浩然に舐められ、指を入れられて、快感に蕩けた千紘はもうテレビなんてどうでもよくなる。

 ep.08で「もっとしてほしい」と千紘がねだってから、浩然はより積極的にフェラするようになった気がする。

 二人はセックスしながら年を越す。
 クリスマスも大晦日も結局同じように過ごしている。
 純粋なイチャイチャぶりが羨ましいくらいだ。


 年が明け、千紘と浩然は初詣に出かける。
 浩然の言動から、生まれて初めての初詣なのだとわかる。
 屋台でいっぱい買っていっぱい食べる二人のほのぼのした姿が可愛い。

 神社でお参りをしたことがない浩然に千紘が作法を教える。

浩然「お祈りって?」
千紘「神様に願い事すんだよ」
浩然「願いごと…」

 浩然の瞳が真っ黒になる。

 仲良く並んでお参りする二人。

「千紘は何を願ったんですか?」という質問に、おげれつ先生は「普通に『来年も来たい』とか」とおっしゃっていたけれど、私は「ずっと浩然と一緒にいたい」だと思っていた。

 千紘の隣で浩然は突然、涙を流す。

「浩然? どうした?」

 千紘は驚いているけれど、涙の理由は聞かない。

 千紘は浩然がボート場で「死にたい」と言った時も、その後線路に横になった時も、「なんで」と聞かず、ありふれた慰めの言葉もかけなかった。

 浩然の苦しみと悲しみをそのまま受け止めて、黙って傍に寄り添っている。
 私はいつも、そんな千紘の姿に感動する。

普通に生きるってなんなんだろう
こんな風に二人で寝て起きて食って笑って
時々出かけて
こんな生活が普通なのか
一瞬一瞬 過ぎていくので恐ろしいくらい
これ以上 何を願えっていうのか


 浩然は何も願うことがない自分に気づいて泣いたのだった。

 千紘と一緒に暮らす今が幸せ、と満足しているから願い事がないわけではないと思う。

 浩然は自分の中にぽっかり空いた虚無と向き合ったのではないだろうか。

 私たちが通常初詣で願うのは、「今年はこうしたい」とか「こうなりますように」とか、大まかに言うと≪夢や希望が叶いますように≫ということだ。

 浩然には願うべき夢や希望がない。
 そのことに気づいて涙を流したのではないかと私は考えている。


 千紘と抱き合って眠る浩然の頬には、涙の痕がくっきり残っている。
 神社で浩然が流した涙のラインそのままに痕が付いている。

 千紘が浩然を起こしながら尋ねる。

「春んなったら、旅行とか行きたくね? 休みとってさ。どっか行きたいとこある?」

 寝起きの浩然はぼんやりしながら答える。

「行きたい所……そうだな……今は…無いかも。でも、考えておく…」

 春になって二人がどこに旅行するのか、私は予想がついている。(そのことについては次回)
 3巻では旅行のシーンが描かれることになるだろう。楽しみだ。


 カラオケのバイトの帰り道、千紘はバイト仲間の女子高生・小森さんに呼び止められる。
 小森は千紘が好きだから、何とか理由をつけて千紘と一緒に歩きたいのだ。
 以前から小森の好意に気づいていた千紘はあえて

「恋人と同棲してんすけど」と言ってしまう。

「ゲイだってバレたらやばそう」と思っているので、さすがにここではゲイだとは言わない。

 並んで歩く二人の前に怪しげな車が現れ、クラクションを鳴らす。
 車の中からマヤが顔を出し、千紘に声をかける。

「家まで送ってあげる。乗れよ」

 そう言って笑みを浮かべるマヤ。口調は優しいが、千紘は脅されている。
 さあ、千紘はどうするのか……。
 走って逃げるというわけにもいかなさそうだし、やはり車に乗ることになるのだろう。

 緊張感溢れる引きで2巻は終わり、3巻へと続く。
 そして、3巻でこの物語は終わる予定になっている。もっと続いて欲しいけど…。(涙)

 次回は2巻の感想まとめと3巻の予想になります。

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