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「囀る鳥は羽ばたかない」 第49話 感想

第49話

 立場は変わっても気持ちは…変わらない。

 6か月間、私たち読者はこの時を楽しみに待っていた。
 物語の続きを読むことができる喜びを噛みしめながら、ページを捲った。
 発売前のチラ見せで、百目鬼が矢代の部屋に上がることはわかっていたので、そこまでは安心して読んでいられた。
 前半2/3はヤクザパート、後半は待ち望んだ矢代と百目鬼の二人きりのシーンだったが、今回は私が期待していたところまでは進まなかった。


 矢代を護衛するはずだった神谷が戻って来たので、連は怒っている。

連「何でお前が戻ってんだ神谷。百目鬼はどうした」

 問い詰められた神谷は「矢代さんの希望です」と素直に答える。(そう。矢代が百目鬼がいいって言ったのだ…!)
 

神谷「元部下の方がよかったんじゃないでしょうかね」
(元部下ってだけじゃないけどね。過去にいろいろあって…)

「客人に何勝手させてんだてめえ」と連に怒られて、神谷は「どっちか言うたやーん」と心の中でつぶやく。

 前回第48話で「この二人のどっちか側に置いてください」と矢代に選ばせたのは連だったのだが、あの時神谷に決めたのに矢代が勝手に百目鬼に変えたことが気に入らないのか、それとも矢代は因縁のある百目鬼を選ばないだろうと連は思っていたのだろうか。

「百目鬼には共生会の残党探しをさせる。お前が矢代を見張れ」と綱川に命じられて、神谷は何も言えなくなる。

 予想通り、矢代と綱川の間で百目鬼の取り合いが始まったようだ。

 綱川は使える部下として百目鬼を側に置いておきたい。
 矢代は…言うまでもないだろう。

 私は、矢代・百目鬼・三角も似たような関係だと思っている。

 三角の矢代に対する執着の方がより強いと思うが、三角は矢代を、綱川は百目鬼を、恋愛感情ではなく、自分のものにしておきたいと思っている。

 以前から、ヨネダ先生は恋愛の中では三角関係を描かないな、と思っていたが(影山や竜崎は、矢代と百目鬼の間に割り込む関係にはならない)、抜き差しならないしがらみ、と言う意味では、矢代・百目鬼・三角と矢代・百目鬼・綱川の間には二重の三角関係が構築されていて、物語を一層複雑かつ面白くしている。


 矢代に追い出された神谷は、マンションの入り口で座り込んでいる。
 そこに百目鬼が戻ってきて、道具(銃などの武器)を預かる。

 神谷は百目鬼に

「俺はいいけど、アンタはどうなんだ? あいつとは随分因縁があるんだろ?」

と試すようなことを言う。

 百目鬼は神谷の質問には答えず、

「そっちこそ、組長への報告は?」

と問い返す。

 神谷が百目鬼と組んでいるのは、百目鬼を監視し、行動を逐一綱川に報告するためだと、百目鬼は気づいていたようだ。

 百目鬼にカマをかけられて、神谷はつい秘密をばらしてしまう。

 綱川は百目鬼を気に入っているからこそ、本当に信用できる相手かどうか見極めるために神谷を利用している。

 聡い矢代はすぐにそのことに気づいて、綱川について「…なるほどな、ああいうの(=神谷)を(百目鬼の)お目付け役に。見る目あるなぁ」と言っていた。(第44話)

 百目鬼は

「共生会残党探しも、こっち(矢代の護衛)も両方やります。仕事ですから」

 と神谷に言い残して矢代の元に戻るが、共生会の背後に竜頭や奥山組がいることを考えると、両方やるのはかなり大変な気がする。

綱川「残党探して来いってのが、どういうことか分かってんのか?」
神谷「誰が絵図描いたのかハッキリさせて、ぶっ潰すってことですよね」

 つまり、ヤクザ同士の全面対決ということだ。
 血が流れるのは間違いない。
 百目鬼は矢代を守りながら、竜頭や奥山組と戦えるのだろうか。

綱川「極道にしか極道の道理は通らねぇ」

 仁姫の誘拐を企てたのが奥山なら、報復するだけのことだと綱川は言う。

 少しずつ、組同士の対立を含めた人間関係がわかってきたので整理しておく。

① 桜一家(綱川、連、神谷、百目鬼) ⇔ 奥山組極星会に所属)+奥山組がケツ持ちしている半グレ集団「竜頭」(竜頭に共生会の残党が所属している)

② 道心会の枝(=直系の組) ⇔ 竜頭 (シマの外の新宿でトラブルがあった・第48話) 

③ 山川はクラブや闇カジノを経営し、竜頭に金を収めている。
  城戸山川の闇カジノの客で、城戸のバックには竜頭がいる。
  城戸は矢代の闇カジノの客でもあり、矢代は城戸の借金を回収したい。
(矢代はわざわざ府中まで行って竜崎から城戸の情報を得ているが、まだその内容は明らかになっていない)

④    道心会 ⇔ 極星会  もともと対立している。

 普通に考えると極星会・奥山組・竜頭は、桜一家と道心会にとって共通の敵となるわけだが、ヤクザの面子や金が絡むから、そう簡単にはいかないのだろう。
 ここに、矢代(道心会)と百目鬼(桜一家)の恋愛がもつれ込んでいくことになる。

 今回、城戸と一緒に逃げた共生会の残党(左頬に傷がある男)の上司(第45話で登場した左瞼に縦に傷が入っている男)が、甲斐という名前だと分かった。
 甲斐は、「出所してから面倒事しか起こしてねぇ」「シマの外で好き勝手やりやがって」と言われている。
 新宿で道心会の枝と揉めたのも甲斐のようだ。
 いかにも凶悪そうなこの男が、今後矢代と百目鬼の敵になるのだな…と私は不穏な空気を感じた。

 矢代はエレベーターの前で、百目鬼が戻って来るのを待っていた。
(このマンションではエントランスからエレベーターまで百目鬼が好き勝手に移動できている気がする。オートロックではないのだろうか??)

 予想していたとはいえ、矢代が百目鬼を待っていた…。そのことに驚く。

 第46話で百目鬼が矢代の部屋を憶えていたとしても、結局鍵がなければ中には入れないから、矢代は待っていてあげたのかもしれないが、今までの矢代だったら先に部屋に上がっていてもおかしくない。

「お待たせしました」と言う百目鬼に、矢代は「待った」といつもの調子で答えるけれど、以前の矢代とは違う行動だと思う。

 矢代のもとに七原から電話がかかってくる。
 七原は、山川の行方を捜しているものの、まだ見つからないことを報告する。

矢代「山川は他に渡すなよ。ケツの毛までむしりとって、ツルッツルのパイパンにしてやらないと」
七原「言い方…」(ほんとに)

 甲斐も、城戸は「用無しだからもおええ」と切り捨てていたが、山川については「金の成る木やからなあいつは。大事にしとけよ」と言っていた。(第45話)
 山川はよほどの金を持っているようだ。

 山川を巡って、矢代・道心会 vs     甲斐・竜頭の抗争になるのだろう。
 矢代には右目のことがあるから、甲斐との対決が心配だ…。
 

 矢代の部屋で、矢代と百目鬼が二人きりになる。(ワクワク!)

矢代「もしかしなくても、お前、ここに泊まるつもりか?」
百目鬼「そのつもりです」

 百目鬼が矢代の護衛につくなら泊まってもおかしくないのだが、この二人が何もせずに朝を迎えるとは思えないから、読者の期待は否が応にも高まっていく。

百目鬼「俺も他の仕事があるので、ずっとあなたに張り付いてるわけにもいきません。その時は別の人間寄越します」

 別の人間? 神谷だろうか。
 本当は百目鬼にとって、矢代の側にいること以上に大事な仕事なんてないはずなのに。

 桜一家も山川を探しているのだが、矢代は先に山川を見つけたら桜一家には報告しないのではないかと百目鬼は疑っている。

百目鬼「(約束を)反故にするつもりですか?」
矢代「聞いてただろ? 単なるケツの毛を抜くだけの話だよ」
(山川の持っている金をすべてむしり取るという意味)


 ここで百目鬼が「…毛を…」と戸惑うので、矢代は笑い出す。

矢代「お前、変わってねぇんだな。そういうとこは」

 昔のままの朴訥とした百目鬼を見ることができて、矢代は嬉しそうだ。

 矢代に笑われて、百目鬼の固い表情も少し変化したように見える。

百目鬼「あなたも、そうやって笑うところは変わってません」
矢代「俺は基本変わんねーよ。お前も言ってた通り」

 相変わらず強がってはいるが、矢代は確実に変わっている。

 百目鬼以外の男とやっても勃たなくなったし、「やっぱ、お前で(が)いい」と百目鬼の胸倉をつかんで引っ張るなんて、昔の矢代からは考えられない行動だ。

 矢代は座っていたソファに寝転がる。

百目鬼「ベッドで寝たらどうですか」
矢代「今日はもうここでいい。お前、使えば?」

 そう言われても、百目鬼が矢代のベッドなど使えるわけがない。

 ソファで寝てしまう矢代は、百目鬼を「誘っている」というわけではなく、本当に疲れたからもう動きたくないのだろう。

 百目鬼は、軽々と矢代を抱え上げ(お好きな方にはたまらないお姫様抱っこで)、ベッドに運ぶ。

 矢代は驚いて、「おろせ」と言うが、百目鬼は従わない。

 格子のついた大きな窓の横のベッドに、矢代を横たえる。
 黒いベッド柵は、二人を囲う檻のようだ。

 無言のまま、見つめ合う二人。
 黒い手袋をはめた百目鬼の左手が、矢代のシャツの隙間に忍び込み、素肌に触れる。
 
 嫌がって払いのけようとした矢代の右腕を、百目鬼が上から押さえつける…。

 第49話が8巻巻末になるのなら、正直、もっとエグいラストになるのではと覚悟していた。

 4巻巻末第22話の「せっかくだし、セックスするか」のように。

 もう少し話が進んで、ベッドの上で二人がお互いの本音を探り合うように会話を始めたところで次号に続くではないかと考えていた。

 次回、第50話で二人が何を話すのかが楽しみだ。
 第46話のように、一方的に百目鬼が矢代をイカせて終わるようなことにはならないはずだ。
 絶対に前とは違う展開が待っている。同じ流れになるなら描く意味がない。
 この後百目鬼が矢代を解放して、結局何もしないのかもしれないけれど、もしもセックス方面に進んでいくのなら、私は、矢代に「挿れろよ」と言われた時に百目鬼がどうするのかを見たい。

 百目鬼は矢代の前で、どこまで本音を隠しておけるのだろうか。
 
 今回の展開は想定の範囲内だったが、次回は読者を悶絶させるようなことが起きるのではないかと予想している。

 次号の予告にヨネダ先生のお名前があったので、できれば2か月後に続きが読めることを期待している。

  

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