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「囀る鳥は羽ばたかない」 6巻 第30話&31話

 BLパートとヤクザパートが複雑に絡み合って物語が進んでいくのが「囀る」の魅力だが、第30話と第31話ではBL要素はなく、ヤクザパート全開となっている。

 私の考察、感想は矢代の心理、矢代と百目鬼の関係に主眼を置いているので、実は今回の2話については取り立てて強い主張がない。

 物語の展開において要所となる部分を記載して、次の大きな山場である第32話に進もうと思う。

第30話


 第30話の冒頭には、三和会系五代目桜一家組長の綱川が登場する

 天羽と綱川は大学の頃からの知り合いだ。天羽は綱川に「厄介者(平田とその部下)を三和会で拾うな」と根回しする。
 
 天羽は、跡目争いの只中にいる三角が表立って動けないので、平田と組んだ仲本 VS 矢代の問題が、三和会・豪多組と道心会・真誠会の大きな戦争にならないように裏で動いている。
 豪多組(組長仲本)の直参入りに反対している綱川は、天羽の頼みを聞き入れる。

 この時は、綱川が7巻以降であれほど重要な人物になるとは予想もしていなかった。

 三角の命令で矢代の護衛をしていた鮫・鯨は、矢代が七原たちと合流した後、離れていく。鮫・鯨の動きの裏には何か別の理由があることに矢代は勘付いているが、深く追求しない。
 鮫・鯨の正体について、「あいつらは下手な情では動かねえ」プロの殺し屋だと矢代はちゃんとわかっていた。
 矢代のこういう賢いところが魅力だなと思う。

 豪多組組長の仲本は、上位組織である三和会幹部から、平田と手を切るよう命じられる。

 仲本は、せっかく仕入れたヤクが竜崎と一緒に警察にパクられ、アガリ(シャブを売って得た金)が手に入らないことに苛立ち、平田から金だけでも取ろうと企む。

第31話


 仲本の事務所に呼び出された平田は、竜崎に刺された傷がまだ治りきっていない。
 本家の盃を貰うために金が欲しい仲本と、親(三角)を見限って逃げ場を失くし新しい代紋が必要な平田の腹の探り合いが始まる。
「この世界、一度代紋捨てたら死んだも同然」(第30話)と綱川が言った通り、平田の立場は決して強いものではない。
 仲本が「金を搾るだけ搾ったら約束保護にする」だろうとわかった上で、平田はその場では金を払うことを約束する。
 仲本の要求は「5…いや7だ」なのだが、これは700万だろうか。(あ
るいは7千万?? となると、すぐに用意できる額ではないような気もする)

 事務所を出た平田は部下から、三和会直系に道心会の内輪揉めに関わるなという命令が出ていること、綱川が情報を流したことで仲本が本家の盃を貰う話はなくなりかけていること、綱川と天羽がつながっていることを知る。
 そして、三角が自分の裏切りをわかっていながら、自分を泳がせていることに気づく。
 八方塞がりの平田は、三和会・豪多組との戦争を始める決意を固め、部下に仲本たちを襲わせる。


 豪多組の組長と幹部が殺されたこと、犯人は矢代だという噂が道心会組内で流れていることを杉本が七原に報告する。
 それを聞いた矢代は「ほら、やっぱり―」と動じない。

 三角が矢代に電話をかけてくる。

三角「分かってんだろうが、豪多を殺ったのは平田だ。奴は三和と戦争仕掛けてでもお前潰して生き残る気だ」

 豪多の残党がお前の命を狙ってくるから気をつけろ、と三角は矢代に忠告する。

 そんな三角の親心を知ってか知らずか

「三角さん、俺を切っちゃってくださいよ。平田みたいに」
「あんたが俺を溺愛する程、事態がややこしくなるんですー」

 矢代は淡々としている。三角が矢代を「切った」ら、ますます自分の命が危なくなるのに。
 平田との対決を覚悟した矢代が、ちっとも自分を大事にしないので私は心配になる。(たぶん七原も同じ気持ちだろう) 

 天羽はこの矢代の反応を「子離れ」と評しているが、7巻以降の展開を含めても、三角が矢代に抱いている感情は父親が(放蕩?)息子に対するものに近いのではないかと思う。
 三角は矢代が可愛い、なかなか言うことを聞かないところも含めて。なんだかんだ言って矢代を大事にしていて、自分の跡を継がせたい。

 そんな中、道心会の幹部会で三角は平田と対面する。
 平田は「矢代自身が竜崎使って、豪多とヤクの取引をしていた」と報告するが、それが事実でないことを三角は既に知っている。

そんなに矢代を殺したいか、平田…

 三角は平田の本当の狙いに気づく。

 平田の言うことを信じず、矢代を庇おうとする三角に、柳が意見する。

 柳「警察までが矢代だっていうもんで」

 警察、とは豪多の薬を追っていた組対の井波のことだ。井波は矢代の血の付いたシャツをホテルのゴミ箱から回収し、矢代が仲本とその部下を殺った証拠の品としてでっち上げた。百目鬼に殴られたことを恨んでいるのだろう。(3巻第16話)
 この時は井波の出番はここで終わったと思っていたのだが、7巻以降も繰り返し登場する。今のところ読者からは嫌われる要素しかないが、井波が悪役として物語で果たす役割は大きい。

 三角と敵対する柳は平田と通じ、三角を揺さぶることが狙いだ。
 平田がすでに「裏切るものもねぇ、ドン詰まりだ」と見抜いた柳は、平田を利用して三角を跡目争いから追落とそうとしている。

 真誠会の事務所に寄った杉本は何者か(おそらく豪多の残党)に撃たれ、影山医院に飛び込んでくる。
 豪多と真誠会の戦争が始まったのだ。
 それを見た矢代は誰かに電話する。矢代の電話の相手は馴染みの刑事で、「警察にある証拠品(矢代の血の付いたシャツ)」を金と引き換えに処分するよう頼んだのだった。(6巻第34話)
 平田との対決に向け、矢代は先を読んで動いている。

 矢代がこの先一人で行動することを予感した七原は、矢代についていこうとするが矢代に蹴りを入れられて動けなくなってしまう。
 七原を置き去りにし、矢代は影山医院を出る。

 矢代の前にレクサスが停まる。甘栗に車を持ってくるよう命令していたのだった。

「おっせーよ」
「さっさと運転替われ…(矢代は運転しない方がいいと思うが)」

 と言いかけた矢代だったが、運転席に予想もしなかった百目鬼の姿を見、驚きを隠せない。

 そこにフルフェイスのヘルメットをかぶったバイクの男が現れ、矢代に向かって発砲する。
 百目鬼が矢代に覆いかぶさって庇う。
 男が放った銃弾はレクサスのドアを掠めただけだった。
 身を離す二人の間には微妙な空気が流れる。
 百目鬼が有無を言わせず矢代を助手席に放り込む。
 レクサスの車内で二人きりになって、矢代は運転する百目鬼の横顔を気まずそうに見つめる。

 セックスした後、矢代が寝ている百目鬼を置いて出て行って以来初めて再会した二人の間には、緊張感が漂う…。

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