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#3 パダウの花は咲いたのか?

「雨だーー!」5ヶ月振りに雨が降った!

 昨日(2020年4月27日)、今シーズン初の雨がヤンゴンに降ったようだ。それはヤンゴンの人たちにとっては大ニュース。新型コロナ禍の中、今もヤンゴンに残る日本人の友達がfacebookで、一斉にヤンゴンの初雨を報じていた。一年中雨が降る日本に住む日本人には、「初雨」というのはなかなか馴染みがない言葉かもしれない。しかし、乾期の間は一滴も雨が降らないミャンマーにあってはビッグニュースである。ミャンマー人にとっての「初雨」は、私たち日本人が感じる「初雪」に通じるものがあるといえば、少しはお分かりいただけるかと思う。
 ミャンマーはインドシナ半島の西側にある。その南部、緯度的にはバンコクやベトナムのダナンとほぼ同じに位置するヤンゴンは熱帯性モンスーン気候帯に属する。
 ざっくり説明すると、5月の後半から雨期が始まり、毎日、雨が降る。旅行ガイドブックなどを読むと「雨期といっても日本の梅雨のように一日中、雨が降りしきるのではなく、スコールのような雨が1日のうちに何度か...」という説明があるが大嘘である。確かに、雨期のはじめの5月、6月はそんな日もあるが、それ以降はもう、一日中ずっと雨が降り注ぐ。そして、時折、途轍もない豪雨がズバー、ゴーゴーゴゥ、ドバーッと降ってくる。そういう意味では日本の梅雨とは違う。およそ足下にも及ばない。Big Rainy Seasonなのである。
 そして、だいたい11月の満月の頃に、雨期は終わり。そこからは乾期。ミャンマー流にいえばウインターシーズンが到来する。雨は一切降らない。朝夕は涼しく20度を下回る。空気が乾いているので、肌寒いくらいである。昼間は30度前後になるが乾燥しているので過ごしやすい。絶好の観光シーズンである。今では日本からも大勢の観光客がこの時期、ミャンマーを訪れている。ちなみに、生粋のヤンゴン子に「あなたの好きなシーズンは?」と尋ねると、意外なことにレイニーシーズン(雨期)と答える人が多くて驚く。国民性の違いだろうか?
 ウインターシーズンはだいたい2月の中旬まで。その次に訪れるのは、サマーシーズン。真夏である。昼間はだいたい35度以上。日によっては40度を超えることもしばしば。灼熱である。しかし、日陰に入ると空気が乾燥しているので、暑さは感じず、凌ぎやすい。微風でもあれば、ことの外、過ごしやすいのである。
 例年、4月の中旬ごろ、ちょうど、テンジャン(水掛祭り)休暇の頃に「初雨」が降る。そして、ミャンマーはお正月を迎える。「初雨」それはヤンゴン人たちにとっては、新しい年の幕開けを告げる雨なのである。
 今年のお正月は4月17日だったが、「初雨」は4月27日。例年に比べると、かなり遅い「初雨」となった。

雷鳴に呼応して咲き乱れるミャンマーの国花「パダウ」

 ミャンマーの人たちにとって、「初雨」が特別なものであり、この時期になるとみんなが心待ちにしている理由はそれが新年を告げる雨だからだけではない。彼らが待ち焦がれているのは実は別のものなのである。
 この「初雨」に呼応して、街中に咲き乱れる黄色い小さな花びらの美しい花がある。それが、ミャンマーの国花「パダウ」である。それは日本人にとっての「桜」に匹敵する。「桜」が春の到来、新年度の始まりを告げる花であるように、ミャンマー人は皆、街中に「パダウ」が咲き乱れるのを見て、新年が近いと実感するのである。そして、「パダウ」には、五分咲き、七分咲きとかはない。初雨、それも雷を伴う凄まじい豪雨が降ったあと、一夜にして満開になる。見事なまでに、パッと咲き乱れるのだ。さらには、その花が咲くのはたったの1日だけ。「桜」のことをよく「儚い」と言い、「花の命は短くて」などと和歌や歌謡曲で歌われてきたが、「パダウ」はそれ以上に儚い。いや、むしろ「散り際が見事、潔い、きっぷが良い、あっぱれな花」といったほうがいいかもしれない。一夜にして、咲き乱れ、そして、1日で終わる花。こんな男前・女前な花は世界中探しても、なかなかない。だからこそ、人々に愛される花なのであろう。受粉は大丈夫?なんて心配するのは野暮というものだ。
 「パダウ」の花が咲くと、朝、人々はみんな木に登って、花を手折る(たおる)。街中至る所で、花が売られ、無料で配られたりする。お店のテーブルやオフィスの上司の机などに飾られたり、髪や胸に刺して歩く乙女たちの姿を見ることもできる。
 一昨年、2018年は4月6日。僕はちょうどヤンゴンにいた。冒頭の写真はこの日の朝に咲いた「パダウ」の花をTokyo Tomato Cafeに出勤する途中、タクシーで信号待ちしているときに道路で水を売っていたおじさんにおまけでもらったものである。頭に刺してくれたのはスタッフのAn Ny Say。彼女は昨年、出産し退職。今は22歳の幼いママとして子育てに奮闘中だ。

Tokyo Tomato Cafeは目下、休業中!

 さて、前回、このノートを書いてから、ずいぶんの時間が過ぎてしまった。3月末時点でのミャンマーの新型コロナ患者数は14人だったが、直近の24日の発表でミャンマー国内感染者数は計144名で,うち退院者9名,死亡者5名。
 ヤンゴンでは夜間外出禁止令が発令されており、昼間も買い物などの不要不急の用事以外は外出が厳しく禁じられている。マスク着用も義務付けられ、罰金も30,000ks(約2,200円)。これはミャンマー人にとっては日本人の2万円くらいの金額である。感染者が出た家の周囲は通りのブロックごと封鎖。非常線が張られ、立ち入りは禁止。もちろん、そのブロックの居住者は外出もままならない。
 だから、Tokyo Tomato Cafeが入居するSan Yeik Nyein Ga Mone Pwintショッピングセンターは4月10日からテンジャン休暇の休暇に入った後、、そのまま休館が継続。それに伴い、当店もずっと休業中である。

Hello Yangon. I miss you.

 話は戻るが、そんな中、昨日、例年より約2週間遅れで「初雨」が降った。それは街中から新型コロナウイルスを全て流し去れ!というほどの豪雨だったそうだ。そして、雷も激しく鳴り響いたと聞く。だから、今日はきっと朝から「パダウ」の花が街中で咲き乱れ、自粛生活に疲れ果てた、人々が久しぶりに笑顔を取り戻していることだろう。と、一日中、楽しみにfacebookの投稿を待ちわびていた。
 ところがである。一向に、そんな投稿が上がってこない。「果たして、パダウの花は咲いたのか?」。じれったくて、日本人の友達に何人かメッセンジャーで問い合わせてみたら、「今は外出できないので、わからない」「部屋から見た限りでは咲いてない」と無碍もない答え。それくらいヤンゴンの自粛生活はシビアなようだ。
 「パダウの花の写真が見れなくて残念」と肩を落としていたら、夜になって、キャッシャーのThi Riから「咲いたよ!」との返事が来た。なんか、めちゃくちゃ、嬉しくなった。ちょっと、涙が....。
Hello Yangon. I miss you.
最後に、Thi Riが送ってくれた、今日(2020年4月28日)に咲いた「パダウ」の写真をお届けして、投稿を終える。

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