読書ノート 『1兆ドルコーチ』と『コーチングマネジメント』

 『1兆ドルコーチ』という本が昨年11月に発行され今だにかなり売れていて、自分も買って読んでみた。
 以前『コーチングマネジメント』という本を読んだことがあり、コーチという言葉が題名についている本を読むのは、たぶんこれが2冊目。
 この2冊は、題名に「コーチ」という言葉がついていて自分がたまたま読んだことがあるということ以外だと、一般的にはあまり並べて論じられたりすることもなく、発行部数は『1兆ドルコーチ』の方がたぶん一桁くらい多くて知名度も全然違う。それに書いた人の立場が全然違い日本人とアメリカ人という違いもある。でも、書いてある内容が微妙に似ているところが面白いのだが、もちろん違いもいろいろある。
 『コーチングマネジメント』は、企業向けのコーチング・プログラムの提供を手掛けている伊藤守という人が書いた本で、『1兆ドルコーチ』はシリコンバレーのレジェンド、ビル・キャンベルの教えを受けたエリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグルの共著である。この3人はいずれもグーグルで活躍した実業家だ。

 『コーチングマネジメント』の方が言っていることがわかりやすく、いわゆる「読みやすい本」で『1兆ドルコーチ』は、「ビルはこう言った」「ビルはこんな人だった」みたいな感じの記述が多く、全体として何が一番言いたいのかあんまりよくわからない掟破りの本で、なんでこんな本がベストセラーになるのか不思議なのだが、粗削りで奇妙でわけのわからないよさがあり、それなりにリアリティーがあるとも言える。

 2つの本の共通点は、質問することや聞くことを重視しているところだろう。
 『コーチングマネジメント』は4章の表題が「クリエイティブクエスチョン コーチは行動を起こす質問を作り出す」となっていて、まるまる1章近くが質問をするということについてさかれ、どうすれば効果的な質問ができるかということについて、かなり詳しく書いてある。
 一方『1兆ドルコーチ』の方は、『コーチングマネジメント』みたいにたくさんかいてあるわけではないが、「ビルのリスニングはたいてい山のような質問を伴った」「誰かの話に耳を傾けると、相手は大事にされていると感じる」といったことが書いてある。ただし、どのような質問をしたのか、どのようにしてよい質問を考えたのか、というところは書いていない。
 『コーチングマネジメント』はコーチングのための具体的な技法、という感じなのに対して、『1兆ドルコーチ』は愛とか信頼といった心のあり方を重視していて、わりあい抽象的で理念重視と言うこともできるが精神論的だとも言える。

 一番の違いは、『1兆ドルコーチ』の方がビル・キャンベルという人物のキャラクターとか武勇伝などがかなりの分量書いてあって再現性が低く、『コーチングマネジメント』は、別に「だれだれについて書いた」という本ではなく一般論的なコーチングがうまくいくための方法が書いてあるところだ。
 『1兆ドルコーチ』を読んで印象に残ったフレーズは、「メンバーのことを知り、気にかけると、チームを導くことはずっと楽しくなり、チームは実力を遺憾なく発揮できる」「ビルが示したような「慈愛」(思いやりと慈しみ)に満ちた企業は、従業員満足度とチームワークが高く、欠勤率が低く、チームの成績が高いことが示されている」といったところで、おそらくこういったところが著者とか編集者が一番言いたかったことだと思う。方法論よりも心のあり方を重視している。
 『コーチングマネジメント』で印象に残ったのは、「教えるのではない。複数の視点をもたらす。広い視野を持ち込む」「教えるのではない。引き出し、考えさせる」「教えるのではない。聞く。質問する」といった方法論を簡潔に示したフレーズで、コーチングとティーチングの比較を通して、コーチングの利点を説いている。
 知名度や著者の肩書・名声等はかなり違うし、それぞれ一長一短あるが、両方いい本だと思った。

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