学校警備員をしていた頃 その28

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その27

 チラシを配る人たちとの会話
 勤め始めて3か月くらい経ったある日、T小学校の校門の前に立哨していたら、紙袋を持った30代くらいの女性(以下「G 教室のお姉さん」と記す)が来た。「G教室という塾の者なのですが、ここで案内を配らしてもらっていいですか」と言うので、「私は確かなことは言えないので、インターホンを押して中の人に聞いてみて下さい」と言った。
 G教室のお姉さんはインターホンを押し、中の人と少しやりとりがあった。
 そして、近田副校長先生が出てきて、「学校側が塾と癒着していると思われると困るので、校門から少し離れたところで配ってください」と言った。G教室のお姉さんは素直に従い、ちょっとだけ離れたところで、配っていた。
 その時は、「自分で判断しないでなるべく学校の人に直接対応してもらった方がいいのかな」と思ったが、慣れてくると、自分で対応するようになっていった。

 ただし、その後この手の人との出会いは、小学校ではなく中学校の方が圧倒的に多かった。
 中学では、特に個別指導塾の業者と会うことが多かった。
 ラインマーカーとかペンなどと入会案内のチラシが、同じビニールに入っているものを配っていることが多く、割合、生徒も抵抗なく受け取っていく。たぶん、ラインマーカーやペンが欲しいのだろう。
 中学の管理職(校長・副校長)も「校門の真ん前だと嫌だけど、少し離れたところならしょうがない」という考えだった。
 校門の前にいる業者に少し離れたところに行ってもらうのが私の役割になった。
 「この学校は、管理職が、校門の真ん前でチラシなど配られるのが嫌いなので、少し離れたところで配ってもらえると助かります。今、二人で来ておられているので、向こうとこっちの十字路のところで配れば、校門の真ん前で配るのと同じように、大多数の生徒に配れると思います」
 というのが定番の言い方で、それでうまくどいてくれていた。やはり、学校側と険悪な感じになると得しない、と塾の方でも思っていたのだろう。

 研修でもチラシ配りの話が出た
 警備士として採用されてすぐの時期に、法律で義務付けられている4日間の新任者研修があった。研修は、ビデオを見たり、講師(内勤者が務める)の話を聞いたり、広報のしゃべりとか三角巾の結び方などの実技をやったり、という内容だった。
 この初任者研修の時にも、「校門の前でチラシを配っている人がいて、学校側からそれを止めて欲しいといわれたという場合にどうするか」という話が出た。
 その時の講師が言っていたのは「しつこくお願いするしかない」ということだった。
 「学校の管理職が持っている施設管理権は、校門の内側にしか及ばないので、学校の前でチラシを配るのを法律的な理由で止めることはできません。ひたすら『お願いですから止めてください』と言うしかありません」
 と言っていた。
 この時は、現実にそういう場面に出合うかどうかもわからなかったので、「そういうものなのか」と聞き流していた。
 それから一年あまりたってからの現任研修(半年に一度の現在警備士をやっている人のための研修。次の半年警備士をやる資格を得るために行われる)でも、この話がでた。
 私が、前の項目に書いたような自分が業者の人に言っている内容について話すと、講師の人(内勤者)は、「そういうふうにやわらかく言ってもらえるといいですね」言っていた。
 この仕事を8年やっているベテランの(と言ってもまだ30歳)本山(仮名)警備士は、違う言い方をしていた。
「校門の前でチラシを配るのには、校長の許可がいるんですよ。そういう人がいたら『校長の許可を得てますか』と聞きます。そして、『得てません』とか答えなかったりとかだったら、『許可を得ていないのだったら、少し離れたところで配ってください』と言います。そうすると、離れたところに行ってくれます」
 本山さんの言い方は、「どうして校長の許可がいるんですか」「校長の許可はいらないんじゃないですか」と言われた時に、「これこれの理由で」と答えられなくて困りそうだが、現実にそんなことを聞いたりする人はいないらしい。
 やはり、業者も、「正面からそういうふうに言って学校側と険悪になったら損だ」と思って言うことを聞くのだろう。本当にチラシを配るのに許可がいると信じたのかどうかは、疑わしい。
 だから、私のような言い方でも、本山さんのような言い方でも、業者が離れたところにいく理由はだいたい同じだと思う。
 最初の初任者研修の時に講師の人が言っていた「お願いするしかない」ということが法律的には正しいのだけど、現実にどういう言い方になるかは、その警備士のキャラクターとか相手の様子などによって、いろいろと考えられるところなのだろう。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その29



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?