ヒステリックな女教師の思い出⑥

※ 作者の自己紹介等:自己紹介とnoteの主な記事
※ 最初から読みたい方は、ヒステリックな女教師の思い出①から読むことをおすすめします。 
※ ひとつ前の話→ヒステリックな女教師の思い出⑤

 「まともな対話が成立しそうになると怒鳴りあげてぶち壊すところが田上ティーチャーと似ている」と思った。
「…田上さんのどういうところが不満だったか聞いているんだ」
「うーん、本当はどんどん別の話に移っていかないで、ちゃんとそれぞれの話題について対話が成り立つように話し合いたいのですが、そういうわけにもいかないのでしょうか。不満という言葉が適当かどうかはわからないのですが、田上さんに関しては、結局、真面目にこちらの意見を言い始めるとヒステリックに怒り出すんですよ。だからいつもいつもバカにして『ハイハイ』言っていうことを聞いてないといけない。それじゃあ、自分も嫌だし、本人にとってもよくないでしょう。こちらの見方なり考えなりを伝えることによって田上さんだって、自分が他人からどう見られているかわかって、なんらかの意味で参考になるんじゃないですか」
「田上さんは悪気があってやってたわけじゃないんだぞ」
 元校長は、また怒鳴りあげた。
 怖かったが、ここが非常に興味深いところなので質問を続けることにした。
「悪気がないということはどうしてわかるんですか」
「田上さんは、そんな悪気がある人じゃない」
「今お聞きしたのは、『どうして田上先生が悪気がない人だとわかるのか』という質問なのですが」
「そりゃーわかっている」
「よほど現実離れした善人や悪人でなければ、どんな人にも悪気がある時もあれば悪気がない場合もあるので、そんなに極度に属人的に考えないで、落ち着いて事例ごとにケースバイケースで考えた方がいいと思いませんか」「ケースバイケースも場合によりけりだ。田上さんがそんなに悪気があるわけがない」
「悪気はないかもしれないけど、田上先生の場合、普通の人と違って心の醜さ・あくどさを周りの人に露骨に見せびらかし、ぶちまけるようにしてしゃべる面があるのでしょう。そこを隠すようになると、周りの人も接しやすくなるし、本人も生きやすくなると思うんです。そのためには、周りから見てどう見えたか教えてあげるのは、いいことじゃないですか」
「そんなことはない」
「どうして『そんなことはない』ということがわかるんですか」
「とにかく田上さんに悪気はないんだ」
「うーん、悪気がないんだったら、時間がたってから教えてあげれば、なにか気づくところもあるんじゃないですか。少なくとも考える材料ができていいんじゃないですか」
「とにかく、こんなものが管理主事レベルに知れたら取り返しのつかないことになるぞ」
 元校長は、ハガキを指さして芝居じみた大声を出し叱りつけるような強い口調で言った。
 管理主事というのは、民間企業で言えば人事課長か人事課長補佐のような立場の人である。 
 ところで、これまで書いてきたやりとりをこうして文字にして読むと、確かにこれらのやりとりは、内容的にはお互いに自分の演説をやっているだけで対話とはいえない面が多々あるが、形式的には一応交互に話をしていたようにもとれる。でも、実際には、軽部元校長が話す時間が圧倒的に長く、たまにぼくがチャンスを見つけて話すというふうだった。
 軽部先生の様子・言動は基本的に、「目の前にいる人がどういう考えを持っている人かを知るためには、どういう質問をしたらいいのだろうか」という問題意識が乏しいように思えた。
 こちらが話すと、それを理解しようと次の質問をすることはなく、それに対してすぐに自分の考えを述べる場合が圧倒的に多い。また、こちらが質問してもそれとは関係のないことを言う場合も多かった。
 上記は、多少はやりとりらしくなっていたところを無理やりつなぎ合わせたものである。軽部校長が言っていることは、同じ話の重複が圧倒的に多かったので大幅に省略した。
 こんな調子で話はかなり続いたが、最後は、いくら聞いていても果てしない感じだったので「それでは、これについてはちゃんと真面目に考えます」などということを言って帰らせてもらった。

※ 次の話→ヒステリックな女教師の思い出⑦

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