ZもXYと同様、まぎれもない本格ミステリの傑作である――〈ドルリー・レーン四部作〉第三弾、エラリー・クイーン『Zの悲劇【新訳版】』発売!
エラリー・クイーン/中村有希訳『Zの悲劇【新訳版】』(創元推理文庫)が本日9月19日、公式発売日を迎えました。
本書は本格ミステリの巨匠エラリー・クイーンが、バーナビー・ロスの別名義で書いた四冊の長編ミステリ――〈ドルリー・レーン四部作〉の第三弾に当たる作品で、創元推理文庫が2019年1月から始めた【名作ミステリ新訳プロジェクト】の最新刊となります。
先立つ二作『Xの悲劇』と『Yの悲劇』の知名度が高すぎるゆえに割を食っているきらいはありますが、今回の新訳版で「いやいや、たしかにXとYは傑作だけど、Zも間違いなく本格ミステリの傑作だぞ」と改めて実感しました。ひょっとすると「XとYは読んでいるけど『Zの悲劇』(と『レーン最後の事件』)は読んでいない」というかたもいらっしゃるかもしれませんが、それは正直な話、非常にもったいない。
たしかに〈ドルリー・レーン四部作〉はその内容・構成から前半(XとY)/後半(Zと最後の事件)に二分されます。作中ではYとZのあいだで10年の歳月が流れていますし、何より最大の違いとなるのが本書から登場するペイシェンス・サム……サム警視の娘にして語り手となる女性の存在です。
今回の中村有希先生による新訳は、このペイシェンスの一人称による語り口がとにかく生き生きしているのが特長です。推理の才能に恵まれた、好奇心旺盛で活発な若い女性の人物像がよりくっきり明らかになっていて、こんなに読みやすい話だったのか、と驚きました。
いっぽう、『Zの悲劇』のミステリとしての長所は、解決編の緊迫感にあります。選ばれた場所やタイミングの異様さもさることながら、名探偵ドルリー・レーンが繰り出す推理は、それまでに得た大小さまざまな手がかりを数えあげ、事件関係者の中から消去法で「犯人ではありえない人物」を除いていき、最後にただひとりの真犯人を指摘するという、王道中の王道をいくもの。その迫力と説得力が、本書を傑作たらしめています。
閑話休題、創元推理文庫の新訳版は早川洋貴さんに一括して装画をお願いしています。最初に『Xの悲劇』を依頼したとき、軽い気持ちで「絵の中にXの意匠がはいっていると面白いですね」とお話ししたところ、見事に線路で「X」を表現していただき、以降のカバーでもこの趣向を踏襲することになりました。
残る『レーン最後の事件』もこのパターンで有終の美を飾る予定ですので、どうぞ表紙もお楽しみに。
なお、次回のクイーン新訳版はお久しぶりの〈国名シリーズ〉から長編『シャム双子の謎』をお届けします。クイーン父子が山火事で孤立した山荘の中で殺人事件に巻きこまれ、エラリーが文字どおり決死の推理を余儀なくされる、『Zの悲劇』と同じ1933年に発表された〈国名シリーズ〉中期の傑作。来年2025年の刊行予定です。
■エラリー・クイーン(Ellery Queen)
アメリカの作家。フレデリック・ダネイ(1905‐82)とマンフレッド・B・リー(1905‐71)の、いとこ同士による合同ペンネーム。1929年、出版社のコンテストに投じた長編『ローマ帽子の謎』でデビュー。同書を第一作とする〈国名シリーズ〉と、当初はバーナビー・ロス名義で発表されたドルリー・レーン四部作でミステリ界に不動の地位を得る。その後も作者と同名の名探偵が活躍する傑作をいくつも著し、ダネイは雑誌〈エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン〉で多数の作家を世に送り出したほか、ミステリ研究者、アンソロジストとしても功績を残した。「アメリカの推理小説そのもの」と評された、巨匠中の巨匠である。