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伊吹亜門×羽生飛鳥×戸田義長 交換日記「歴史本格ミステリ探訪」第2回:羽生飛鳥(その1)

東京創元社出身の時代ミステリ作家3名による交換日記(リレーエッセイ)です。毎月1回、月末に更新されます。第2回は2024年4月26日に公開されたものです。【編集部】



4月 羽生飛鳥(その1)

最近、個人的に快挙だったことがある。
本格ミステリに関して詳しくない姉に、『十角館の殺人』綾辻あやつじ行人ゆきと/講談社文庫)を読ませることに成功したのだ。読後、しばらく彼女は目を見開いたままだった。その表情を見たかった。イエーイ。

次なる目標として、『ジェリーフィッシュは凍らない』市川いちかわ憂人ゆうと/創元推理文庫)を勧めようと企んでいた折、東京創元社から難しい依頼が来た。
創元出身の時代ミステリ作家3人を集めて交換日記をしてみないかというのだ。私の他は伊吹亜門先生と戸田義長先生だ。私が作家から一ファンに堕するための人選としか思えない。理性が揺らぎますぞ、これ。

そういうわけで、作家としての己を取り戻す前に、まずは思う存分一ファンによる思いのたけを叫んでおくことにした。
伊吹先生と戸田先生の作品には、以下の共通する魅力がある。

・ミステリ、時代小説の双方が本格。
・その時代ならではの事件と動機。
・時代小説の登場人物が、本格ミステリの登場人物らしい名推理をしたり行動をとったりしても、世界観が破綻(はたん)しない、巧みな人物造形。
さらに付け加えれば、
・歴史上の男性登場人物達が、すこぶるかっこいい。

例えば、薩長同盟前夜を舞台にした伊吹先生の『雨と短銃』(5月に創元推理文庫で文庫化)で、ちょろっと出てきただけなのに、やたらかっこよかった土方ひじかた歳三としぞう。知名度の高い人物なだけに、下手を打てば多くのファンを敵に回すため、扱いが難しい彼を本格ミステリの世界の住民としても違和感のない立ち位置と見せ場を設けて、魅力的に描き出した伊吹先生の手腕に痺れる。

幕末の水戸藩天狗党の乱を題材にした、戸田先生の『虹のはて(東京創元社)の主人公兼探偵役である藤田ふじた小四郎こしろうは、知名度の低い歴史人物だ。知名度が低いと読者に親しまれない恐れがあるが、そんな不安を払拭ふっしょくするように、文武両道で硬派、なおかつ上質なツンデレを披露という魅力を放つ。ここまで知名度の低い歴史人物を、魅力的な主役に描いた戸田先生の手腕に憧れる。
拝読中、かように魅力的に描き出された彼らに、どれほど心がたぎったことか。

ふぅ……。
ファンとしての思いを叫んですっきりしたおかげで、一作家としての己を取り戻せた。
さて、前回の伊吹先生の交換日記に、どのように作品創りをしているのかといった主旨の一文があった。私の場合、以下の通りだ。

①【論文型】自分が好きな時代の研究書や古典などを読んでいるうちに、「従来○○と考えられている史実は、実は××だったかもしれない」と、仮説が思い浮かぶ。そこから、他の研究書を読み、自分の仮説と重なるものがないので盗用にならないと確認して安心してから、仮説が事件の真相となるように物語を構築していく。
②【置換型】海外や現代を舞台にした本格ミステリを読んでいる時、「もしかしたら日本の中世にトリックや動機を置き換えても可能かもしれない」と思いつき、検討して書く。
③【探索型】主人公がすでに決まっている場合は、その主人公が活躍した時代を紹介した研究書や、古典の中から事件に使えそうなネタ探しをする。決まっていない場合は、研究書や古典の中で見つけたネタにふさわしい探偵役探しをする。
④【本格型】「多重解決」「推理合戦」などの自分が書きたい本格ミステリのテーマを、日本の中世で書いても無理はないか、時代考証して大丈夫そうだったら書く。
⑤【職業型】研究書や古典を読んでいて、興味深い職業を見つけたら調べ上げ、その職業の探偵役にふさわしい事件を考えて物語にする。
⑥【直感型】日常生活や会話でミステリのインスピレーションを受け、自分が知っている歴史的出来事に組み合わせて事件を作る。
⑦【転生型】謎解きメインの推理小説を読んでいる時、自分の推理がはずれたら、それを自著では真相としてアレンジする。

心なしか、⑥以降になると参考になる度合いが下がっている気もするが、この①から⑦までのどれか一つや、いくつかを複合して自分流のミステリを書いている。
なぜパターンが複数あるのかと言えば、いまだに私の創作技法が定まっていないからだ。
最近では、事件と探偵役を別々に考え、組み合わせてうまく書けなかったら、他の探偵役の物語に事件を組み合わせてリサイクルするという、⑧【循環型】と呼べそうな技法を編み出しつつある。

我ながら、定まっていないにもほどがある。
果たして、戸田先生はどのような作品創りをされているのか。
この場をお借りして教えをこいねがいます。


【連載バックナンバー】

3月 伊吹亜門(その1)


■伊吹亜門(いぶき・あもん)
1991年愛知県生まれ。同志社大学卒。2015年「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ!新人賞を受賞、18年に同作を連作化した『刀と傘』でデビュー。翌年、同書で第19回本格ミステリ大賞を受賞。他の著書に『雨と短銃』『幻月と探偵』『京都陰陽寮謎解き滅妖帖』『焔と雪 京都探偵物語』『帝国妖人伝』がある。

■戸田義長(とだ・よしなが)
1963年東京都生まれ。早稲田大学卒。2017年、第27回鮎川哲也賞に投じた『恋牡丹』が最終候補作となる。同回は、今村昌弘『屍人荘の殺人』が受賞作、一本木透『だから殺せなかった』が優秀賞となり、『恋牡丹』は第三席であった。『恋牡丹』を大幅に改稿し、2018年デビュー。同じ同心親子を描いたシリーズ第2弾『雪旅籠』も好評を博す。その他の著作に『虹のはて』がある。江戸文化歴史検定1級。

■羽生飛鳥(はにゅう・あすか)
1982年神奈川県生まれ。上智大学卒。2018年「屍実盛」で第15回ミステリーズ!新人賞を受賞。2021年同作を収録した『蝶として死す 平家物語推理抄』でデビュー。同年、同作は第4回細谷正充賞を受賞した。他の著作に『揺籃の都 平家物語推理抄』『『吾妻鏡』にみる ここがヘンだよ!鎌倉武士』『歌人探偵定家 百人一首推理抄』がある。また、児童文学作家としても活躍している(齊藤飛鳥名義)。


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