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【小説】あの場所へ、、、

僕は電車の中で焦っていた。いや、恐怖しているのかも知れない。いったい何を恐れているのか、そう差し迫った破滅の瞬間だ。破滅は、確実にそして急速に忍び寄り、逃れるすべは「あの場所」にたどり着く他にない。

電車で帰り道を急ぐ人々は、僕の恐怖に気付いていないだろう。悟られたくはない、僕の恐怖は僕だけものだから。彼らには関係のないことだ。しかし破滅の瞬間が、もしも、もしもだ、電車の中で訪れたとしたら彼らは平穏を保てるだろうか。

出来るなら壊れる瞬間は、誰もいない場所にいたいがそんな願いは叶わなそうだ。「あの場所」にたどり着くか、ここを恐怖に巻き込むか、どちらかしか道はないようだ。

僕は唇をきゅっと噛んだ。もう少しもう少しで「あの場所」に辿り着ける。無意識に自分の左手を右手で握っていた。自分を安心させる為なのか、それとも気を紛らわせる為なのか、自分の手を揉む。

電車は僕の気持ちなど関係なく、たんたんと発車と停止を繰り返している。こんなに一駅の間を永く感じるなんて、いつぶりだろうか。窓に映った僕の顔は、緊張と恐怖にまみれた表情をしている。出来たら知り合いに会いたくないな、そんなコトを考える余裕は残っているみたいだ。

「次は----」「次は----」車掌の声が響く。もうすぐだ、もう少しで破滅を免れることが出来る。電車のブレーキで車内が揺れる。その揺れが僕の身体を刺激する。この位ならまだ耐えられる。

ドアが開くのと同時に僕は歩き出した。一直線に「あの場所」に歩みを進める。少しでも早く「あの場所」へ。急ぐ気持ちと刺激を拒否する身体の二律背反がもどかしい。

「あの場所」の位置は完璧に頭に入っている。階段を降りた右手奥、そこが僕の求めていた「あの場所」だ。階段を踏みしめながら降りていく。「あの場所」の赤と青の印が目に飛び込んでくる。青色の部屋の中に僕は吸い込まれるように入っていく。ついに僕はたどり着いたのだ。

僕は、、、、、僕は、、、、、

小便器の前で放尿の快楽に酔いしれていた。

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