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わたしのまちから、みんなのまちへ。〜「とうきょうご近所みちあそび」が目指すこと〜

みなさん、こんにちは。
一般社団法人TOKYO PLAY代表理事の嶋村です。
初回の今回は、私たちが「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」を始めた経緯を記しておこうと思います。

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そもそも、「ご近所みちあそび」とは

「ご近所みちあそび」とは、家の近くの交通量の少ない道路や、すでに歩行者天国になっている道路を数時間だけ利用して、子どもはもちろん、大人も集い、出会い、交流するという取り組みです。海外では、「Street Play」「Playing Out」とも呼ばれています。

初めて私がこの取り組みを目にしたのは、私の友人がいるイギリス北東部にあるHull(ハル)という町でした。そこでは、時々、家の前の通りを通行止めにして、住民の企画運営でストリート・パーティと呼ばれる住民交流のイベントが開催されていました。住民の発案で、(人工ではなく)生の芝生が道路一面に敷かれ、ふだんは駐車された車だらけの道が、遊びの場や交流の場に変身するのです。

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そこには、その通り沿いに住む子どもや大人が顔を出し、知り合い同士はもちろん、近くに住んでいながら、出会ったことがなかった人たちが世代を超えて顔見知りになっていく光景がありました。たった一日でしたが、そこで生まれる、同じご近所に住む人たちへの「漠然とした信頼感」とでも呼べる感覚が、とてもうらやましかったのを覚えています。

生まれたときから住んでいるわけでもない場所で、日常的に一緒に何かをするわけではないけれど、単なるあいさつ以上の一言二言を交わすことができそうな人が近くにいる。そして、そんな人が増えていく気がする。そういう感覚を持つことができるくらしというのは、単純にうれしいだけでなく、実はくらしの質としてとても重要なのではないかと思うのです。その後、イギリスではこうした道路でのご近所コミュニティの交流が、小規模な形で日常的に行われ、全国的な地域力の向上に成果を上げているのを知ることになりました。

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子どもの遊び場の変化

私たちが「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」を始めたのは、2016年のことです。それ以前から、東日本大震災後の宮城県石巻市の復興イベント(2012)や、東京都三鷹市で1か月間にわたって駅前の商店街で開催される「まるごと絵本市」内のイベント(2014)などで、歩行者天国になった道路の一角を使い、みちあそびを実践してきました。その中でも、たくさんの方、特にふだん子どもと接する機会のない方から「このまちには、まだこんなに子どもがいたんだね」「こういうのは、もっとやった方がいいよ」「昔は、よく遊んだなあ」という声を聞きました。

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たくさんの方から、「昔から、道路は子どもの遊び場であり、ご近所の集いの場所だった」という話を聞くことがあります。ただ、私たちの「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」では、今の時代があまりにも昔とは状況がちがうことから、単に「昔のように道路を使えるようにしたい」とは考えていません。

よく「子どもの遊ぶ場所がない」と言われることはあります。けれども、1960年(昭和35年)に4,511カ所(14,388ヘクタール)だった全国の都市公園数は、2015年(平成27年)には106,849カ所(124,125ヘクタール)となり、数で言えば25倍、面積でも8.5倍にも増えているのです。(出典:国土交通省)

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(出典:国土交通省)

そして、まちの中には車の量も増えました。1970年(昭和45年)に2,025,150台だった東京都の自動車保有台数は、2017年(平成29年)には4,419,010台と、ほぼ倍になっています。乗用車にだけに限定していえば、1,079,301台から3,159,455台へと、ほぼ3倍にも増えています。

このように、「道路で自由に子どもが遊んでいた」時代と今とでは、遊び場も道路も大きく変化してきています。

なくなりゆく「ご近所づきあい」

一方で、子どもと子ども、大人と大人、そして子どもと大人といった、世代を超えた「ご近所づきあい」はどうなったでしょうか。

1970年には子ども(0~17歳)一人当たり約1.3人だった大人の数は、2010年には約5.2人となりました。1986年には46.2%いた18歳未満の子どもがいる世帯は、2016年には23.6%と半減しています。

内閣府国民生活局「国民生活選好度調査」では、ご近所づきあいの程度について、「あまり行き来しない」「ほとんど行き来しない」の割合が41.5%(平成12年)から50.3%(平成19年)と大きく増えています。
そして、子どもに対する地域の教育力が自分の子ども時代と比較して「低下している」と考える人は55.6%にのぼります。(「地域の教育力に関する実態調査」文部科学省・平成18年)
また、CAF(Charities Aid Foundation)の2018年の調査では、「見知らぬ他人を助けたい」と考える人の割合の国際比較で、日本は143位(23%)という低い数字になっています。

増加する深夜業従事者

夜勤で仕事をする人も時代を追うごとに増えています。公衆衛生学を専門とする久保達彦氏による、厚生労働省による労働安全衛生特別調査(労働者健康状況調査)と総務省が実施する労働力調査を基にした我が国の深夜交替制勤務者数の推計では、深夜交代制勤務者数が13.3%(平成9年)から21.8%(平成24年)に増加し、1,200万人もの人が深夜業に従事していることになります。そうすると、子どもの声がする日中は家で就寝しているわけで、子どもの声は騒音でしかない可能性もあります。

道路では交通量は増え、ご近所には高齢の方も夜勤の方も増え、子どもがご近所の人とあいさつ以上の関わりをする関係が激減し、日本という国全体で、見知らぬ人に手を差し伸べたいという割合も低くなっている。当然、昔よりも、子どもの声や行為が迷惑と感じる人が増えていても不思議ではありません。このような状況では、「古き良き昭和」の道路の風景を今のくらしに求めること自体が、そもそも難しいと言ってもよいでしょう。

ただ、そうしたくらしの多様化を背景に、お互いが迷惑な存在としてしか考えられないまま分断が進む以外に、私たちのくらしの選択肢はないでしょうか。くらしの多様化が「分断」ではなく、お互いへの配慮と共に、譲り合いが実現する「つながり」の関係に向かっていくきっかけづくりの方法を探りたい。それが、「とうきょうご近所みちあそび」の背景になります。

「とうきょうご近所みちあそび」が目指すこと

私たち「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」が創り出したいと考えているのは、世代を超えた「関係の貧困」を、ご近所の、誰もが通る道路を通して解消していけないかということです。なぜ、道路なのかというと、「道路が様々な世代の、様々な人が日常の中で行き交う、地域の中の出会いの場所」として、公園よりも優れた機能を持ち合わせていると考えるからです。

このプロジェクトがスタートして4年がたちますが、実施をした人たちや参加者から世代を超えて聞こえてきたのは「あいさつをできる知り合いがまちの中に増えた」「自分の近所に愛着を持てるようになった」ということでした。特に主催した人たちは、「自分たちのまちは、自分たちでおもしろくできる」という手応えも感じられています。

私自身も、この「ご近所みちあそび」を実際に自分の近所で実践してきましたが、今までには考えもしなかったご近所の人たちとの出会いがありました。その中でも、目の前の団地の自治会代表のおばあちゃんとの出会いは、とても大きいものでした。

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ある日、次回の実施のごあいさつに伺った際、「あんただけ来てどうすんのよ。下の子に会うのが楽しみだったのに」と言ってもらえる関係が、とてもうれしかったのを思い出します。そして、「こういうこと(みちあそび)をできる人のつながりは貴重なんだから、大事にしなさいよ」と、厳しくもやさしく教えていただきました。そのおばあちゃんは昨年に亡くなられてしまいましたが、今でもこのまちでの私のくらしの財産になっています。

まずは関係があることが大事

「地域の教育力の低下」ということが言われていますが、私はこの「ご近所みちあそび」が、主催する大人が時には子どもに注意し、子育てを始めたばかりの保護者にもロールモデルとしての姿を見せる機会にもなると期待しています。そうした関わりの中で、子どもも大人も、楽しみながら、このまちの一員としての公共性を育てていくことができるのではないかと考えています。

ふだんはただすれ違うだけで、会話をすることなんて考えもしなかった人との会話は、世代を超えてうれしいものです。生活の中でそうした機会があることは、人としてとてもうれしいことで、暮らしの豊かさとつながっています。まずは関係があること。そうした関係があれば、時に注意されることがあっても、聴くことができるでしょう。人は、お互いに自分の方を向いてくれているという実感があるからこそ、お互いの話を聴くことができるのだと思います。

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一方で、こうした取り組みが難しい場所も多くあるでしょう。それは、交通量の問題や様々な事情で、人の声が響くことが苦痛と感じる人が暮らしているということかもしれません。ご近所みちあそびは、人と人とがつながっていくための取り組みです。だとすれば、ご近所みちあそびに取り組むことで分断が生まれ、広がるような場所での実践は望んでいません。それは、これからやってみたいという方にも、ぜひ考えてもらいたいと思います。

わたしのまちから、みんなのまちへ。

子どもたちには、家のすぐそばが楽しい場所であることを感じてほしい。信頼できる大人や楽しい大人が家の周りにいることを感じてほしい。その中で、自分も近所にくらす一員であることを感じてほしい。時に注意されたりすることがあっても、教わったり、謝ったりすることで関係は修復されていくことも学んでほしい。

大人の人たちには、まちでの新しい出会いを楽しんでほしい。自分の知らなかったことを知っている人や、いろんなことを深く考えている人に出会ってほしい。年齢に関係なく地域への意識を高く持っている人や、世代を超えて誰かと知り合いたいと思っている人がいるということを感じてほしい。何気ない温かな声かけに心にしみる人がいることを感じてほしい。大人がつながることで、子どもたちの心に安心が生まれることを感じてほしい。

「ご近所みちあそび」ができることは、ほんのわずかかもしれません。けれども、小さくても、できることをできる人たちから。その輪が、少しずつでも、広く、点としてでも広がっていったら。
そうすれば、私たちのふだんのくらしは、もっとうれしいものになると考えています。

とうきょうご近所みちあそび。たくさんの人にトライしてもらいたいと考えています。ぜひ、あなたも。

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