見出し画像

39歳、妊娠する19 生まれたけど夫は何処?

促進剤!

朝7時には昨日までいた待機室を出て、ガラガラと自身で荷物を運びながらついにやってきたLDR室。パッと見た感じは広めの個室、という感じだけど、分娩もできるように色々な機械も置いてある。天井には色々吊るせるようにフックなども…。ベッドも分娩台になるように足元がセパレートタイプ! 立ち会う人が座っていられるようのソファもあって、昨晩いた待合室よりも快適な感じだ。「荷物など置いて落ち着かれたら、横になってもらいますので5分くらいしたら、戻ってきますね」と言って、看護師さんが部屋から出ていく。その間にハンドタオルや充電器など横になっているときに必要そうなものをバッグから出して、とやりつつもスマホの画面を何度も確認する。夫からの返信がなく、起きているのか心配になりながら、ソファから立ったり座ったりを繰り返す。「準備できましたかー?」と、看護師さんが戻ってくると、テキパキとまたお腹にモニターを装着され、さらに指にも心拍を確認する機械が取り付けられた。「このあと、8時半か9時には促進剤を入れて、お産の準備をしていきますので。ご主人っていらっしゃいましたか?」、「いや、まだ……多分、8時頃には到着予定です」と話ししていたら、「寝坊した、今、家出た」との夫からのメール。とりあえず、予定通り8時には夫も来れそう、というのがわかりホッとした。「では、ご主人が到着したら、促進剤と今日の予定についても説明しますね」そういうと看護師さんが退出、また部屋に一人になった。LDR室のドアが開くたび、少し早足で通り抜ける看護師さんやお医者さんが見え、早朝からこんなにもすでに働いている人たちがいることに驚く。こうして安心してここにいられるのも早朝からこうやって働いている医療関係者の人たちがいるからだよなぁと、改めてこの病院にしてよかったなぁと思った。

お腹にモニターを付け、改めて検温などを終えるとベッドに横になった。うとうととしながら、待っていると、「着いた、何階に行けばいい?」と夫からの連絡。受付でLDR室にいることを伝えて名前を言えば入れてくれる、ということだったのでそれを夫に伝え、程なくして、夫がやってきた。「どこに行けばいいか迷ったわ……」、お願いしていたペットボトルにつけるストローと膝掛けなどを持った夫はまさに寝起き、という感じの顔で現れた。これから、促進剤とか入れる説明するって、と話をしていたら、早速看護師さんと助産師さんがカルテなどを持ってやってきた。「今から促進剤を入れていきますので、それが効いてきて、陣痛などが始まって…そうですね、初産ですので夕方4時頃でしょうかね、赤ちゃんが出てくるのは」と、言われて「えぇそんなにかかるんですね!?」と変な声が出てしまった。「笑 そうですね、初産ですと大体皆さん8時間くらいはかかるので……」と、笑う助産師さんの説明を聞きながら、10何時間、時に20時間を超えるお産でした、という話もあるくらいだから、そりゃそうか、と思っていたら、「ちなみにめちゃくちゃ順調だった場合、どのくらいなんですか?」と私が聞こうとしていたことを夫がすかさず聞く。あんたが聞くんかい、という若干怪訝な顔を看護師さんにされつつ「そうですねぇ……すごく順調に陣痛が来てとすると、本陣痛からそのまま出産となれば、だいたい2時頃だと。超順調なら、ですけどね」と、教科書通りなら、という感じで促進剤の効き目はかなり個人差があるらしい。夕方4時か……9時に促進剤を入れるから、ちょうど8時間。寝不足気味なのが心配になりつつも、夫がその緊張感に耐えられるのか、という方が心配になる。

「じゃあ、点滴の準備していきますので」と言われ、手に色々と装着される。「促進剤が効いてきて、陣痛が始まったら麻酔も準備しますから。ひとまず、9時になったら促進剤を入れますね」そう言って一旦部屋の外へ助産師さんが出ていく。だんだんと慌しくなっていく部屋の外の様子にそわそわしながら、「4時だって」と夫に声をかけた。「大丈夫かね……」「まぁなんとかなるでしょ。目標は2時で」なんて冗談を言いながら、いよいよ促進剤の点滴が始まった。

予想外の展開。

▲毎年恒例のXmasケーキはシェ・リュイ。

促進剤が入って1時間半ほど。鈍い痛みがお腹に走る。重めの生理痛が来るときの予兆みたいな痛み。と、思っていたら、ズンズンズンズンと痛みの波がやってきた。「やばい、結構痛い……」と、呟くとすかさず看護師さんがモニターをチェック。「促進剤効いてきてますね」と言いながら、戻ってきた助産師さんが「促進剤の効きが良いタイプですね、もう少ししたら子宮口も見てもらいましょうか」と、言いながらも流石にでもまだ促進剤入れて1時間なので、ということで、様子見となる。心の中では、いや、結構痛いけど本当大丈夫?と思うが、麻酔は早過ぎるとうまくお産が進まなくなることもある、と本でも読んだので、仕方なく痛みに耐える。が、どんどんどんと痛みが増す。「ちょ、ちょっと、バッグからテニスボール出して……」ウロウロとする夫に指示し、SNSで見た通りお尻のあたりから、腰にかけてテニスボールをグググっと押し込む。あまりの私の痛がり方に、助産師さんたちもちょっと早いけど、と先生を連れてきた。この時点で促進剤を入れて2時間ちょっと経っていたのだが、すでに割と痛みが激しめになっており、うううぅ……と声が出る。内診をしながら先生が「あ、もう開いてきてますね、すごい、優秀ですね、麻酔用意しましょう」と。よかった、という安心したものの、痛みはどんどん激しくなる。「テニスボールで押すよ、貸して」と夫がボールで腰を押してくれるのだが、微妙に位置がずれるのと、強さが分からないらしく押し方が弱い。「そこじゃなくて、もっと上!」と語気が強くなるがもう仕方がない。痛い、とにかく痛い……。うー、と唸っていると「呼吸、止めないで。すって、はいて……」と助産師さん。無痛分娩は無痛であって、無痛ではない、ということを今、超感じています、と思いながら、悶えていると、「麻酔科医の○○です」と颯爽と女性の麻酔科医の先生が現れた。

無痛分娩の麻酔は背中に刺すため、うんうん唸って陣痛に苦しんでいつつも、背中に針を刺してもらわないといけない。「辛いと思いますけど、背中を丸めてもらって……」と局部麻酔をされながら、背中に太めの針を刺され、無事、麻酔の準備が整う。ただ、麻酔薬を注入するにはさすがにまだ早いらしい。ひとまず、麻酔がいつでもできる状態になったので、それだけで少しホッとした。痛みの波が少し落ち着き、助産師さんもモニターを見ながら、背中をさすってくれる。痛みに波があるが相変わらず、痛いのは変わらない。と、思っていたら、さらにキツイ痛みが来る。「イタタタタタ」と、そこへ、内診を再度しにきた産科の女医さんが。内診をするとすぐに「子宮口全開になりそうですね、このまま生みましょうか」と、まさかの宣言。「では、先に麻酔入れますね〜」と、すんなり麻酔が注入された。冷たい液体が背中から入ってくるのがわかったけど、その感覚がしたすぐあと、痛みが……緩和!! すごい、麻酔! 軽い生理痛くらいの痛みに! わーっと問題なく我慢できる痛みまで治ったことで体の力が抜けそうになるが、「じゃあ、いきんでいきましょうね」とすぐ戦闘態勢に。「お腹の、下腹部に力入れる感じで!」と指示される。が、急なことで立ち会う予定のない夫がそのまま部屋にいたため、看護師さんにお願いして、待合いで待ってもらうように促してもらう。「頑張って」手を握って部屋の外に出ていく夫。モニターと睨めっこしつつ、股もしっかり見つつ、医師の先生や助産師さん達と息を合わせていきむ。直前に見た、サンシャイン池崎方式がいきむのにとっても良い!というのを見つけて、お腹の上の蝋燭を”イエーイ”で消すように、という動画を思い出しながら(これ本当にすごいです!本当にこれのおかげでいきみがうまくいった)下腹部に力を入れ、いきむ。「じょうずですよ〜」と褒められながらも、気づけば部屋の中には医師3人、助産師1名、看護師2名と全員女性の医療スタッフの方々が。全身汗だくになりながら、痛みはほぼないものの、とにかく全身全霊で下腹部に力を集中させる。モニターを見ていた医師が「赤ちゃんの心拍がちょっと落ちてきているので、酸素マスク吸ってください」と酸素マスクが装着される。この時点で、私も結構焦っていて、え、大丈夫なの、それ、と思いながら、口に酸素マスクを装着される。「ちょっと上から押しますからね」と、今度はお腹の上から別の医師がぐんぐんと私のいきみに合わせて押し出す。これも麻酔のおかげで痛みなどは全く感じていなかったが、終わってから薄くあざになっていたので、相当な力だったと思われる。「はい、いきんで〜」「吸って、はい、息思いっきり吐いて」というのを何度か繰り返していくうちに、お腹の辺りがより苦しくなってきた感じに。「頭見えてきましたよ」と、先生がいうと、「よし、最後、頑張りましょう」と息を吸い、思いっきり長くいきむように言われ……「もう少し、あと少し、あと少し」と、そのあとに「ふぎゃああ」という赤ちゃんの声。「元気な女の子ですよ、おめでとうございます」と、部屋の中にいたみんな笑顔でおめでとうございます、と言ってくれて温かい気持ちになった。本陣痛がきてからの4時間での出産ということで、スピード出産。促進剤を入れるときに話していた助産師さんは、「2時すぎ。本当にスピード安産でしたね」と、驚いていた。

和やかな雰囲気が一瞬流れたものの、生まれた赤ちゃんが思っていたよりもかなり軽く、低体重だったこともあり、「体温もちょっと低く、心配なのでこのまま先にNICUで様子見ますね」と処置をして連れて行かれることに。「旦那さん、外で待たれてますよね?NICUに行くときに待合を通るので、そのときに見てもらいましょう」と言われたので、私もすぐにスマホでメールをする。「生まれた。でも低体重だからNICUにこのまま連れていくって。その前に待合通るから見て」それだけ送ると、全身の力が抜けた。生まれてすぐ、見せてもらったが、自分が産んだ、という実感があるようなないような不思議な感覚で、感動とはまた違う、なんというか心底ホッとした。「え?大丈夫なん?前を通る?」夫からメールの返信が来るも夫も状況がよくわかっておらず、焦っているのが伝わってくる。

ところが、「通らないんだけど?もう出た?」「どこなんだろう?」「通らなかったよ?」と夫からの連投メール。赤ちゃんを連れた透明のワゴンはもうLDRからも出て行っていたので助産師さんに伝える。「なんだか、夫が会えなかったみたいなんですが……」「えぇ。ちょっと見てきますね」と、部屋を出ていく。私の方は、スピード出産だったものの、出血量がかなり多いということで、下半身の処置はまだ終わっておらず、部屋には夫も子供もいない状態で一人ベッドの上。その上、夫は病院にいたにもかかわらず、赤子と会えていないという。夫よ、何処へ……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?