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ライティングコンテスト(東京報道新聞主催)

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東京報道新聞が開催しているライティングコンテストの募集要項や結果発表、過去の受賞記事をまとめています。 過去の受賞記事は、ライティングコンテストで「優秀賞」「特別賞」「東京報道新…
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#特別賞

AIに負ける気がしない図書館の日常

図書館で働いていると、本当に様々な人がやってくる。老若男女、色とりどりだが、やはりご年配の方が割合に少し多い。 AIが注目され始めたとき、私はまだ学生だった。自動翻訳や画像認識、ある程度の未来予測までできるというのだから、大したものである。そんなAIに対して危惧していることと言えば、やはり人間が奪われてしまう仕事の数々だろう。 当時の国語の担任はこう言った。 「数学の教師というのは将来なくなる可能性があります。ただ、国語はなくならない」 自慢ではなく、単純に現実を教えて

漁業の消え去った街

おじいさんがゴツゴツと日焼けした腕から放り投げた投網は、空中で花火のようにぱっと一瞬にして広がり、公園の芝生の上に広がった。私は子供ながらにその巧みな腕捌きに見惚れていたのを今でも覚えている。 「昔はこうやって魚を取っていたんだよ」 小学生の私に、元漁師のおじいさんはそう教えてくれた。しかし今、私の故郷に漁師は一人もいない。 私の故郷からは漁業が消え去ったのだ。 江戸川の河口に広がる巨大な三角州に私の故郷はある。漁師町として古くからの神社や古民家が残り、下町情緒あふれ

ふるさとを探す

22年も生きていれば、新生活の節目も何度か訪れる。その度に育った地からは離れるもので、新しい場所では今までいた地域の話が盛んだ。「どこの出身ですか?」「地元は?」と聞かれるといつも答える場所には、実際数年しか住んでいなかったりする。 大学の英語の授業では「ホームタウン」についての発表がたびたび行われた。「ふるさと」についてである。自身が出身地としている場所も、事実上ホームタウンではあるが、心からのふるさとかと聞かれれば答えるのは少し躊躇われる。 自身にとってのふるさととは