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アサダニッキ先生インタビュー 【青春しょんぼりクラブ】

「ざんねん系ラブコメディ」・『青春しょんぼりクラブ』。好きになった男の子が、必ず他の女の子と付き合ってしまうという天性の当て馬気質を持つ主人公、「桃里にま」のままならない恋愛事情を描いた本作は、女性のみならず男性読者も急増中! 今回は作者のアサダニッキ先生を訪ね、秋田書店に突撃取材。先生が長年行なってきた同人活動を含め、幅広くお聞きしてきました

アマチュア時代、そして幻の商業デビュー!?

絵や漫画を描き始めたのはいつ頃ですか?

アサダニッキ先生(以下アサダ):実家がすごいド田舎にありまして、一番近くに住んでいる女の子の家が、3km先にあるようなところでした……。なので必然的に、遊ぶといったらインドア派になっていきましたね(笑)

以前は、某ゲームのイラストサイト(現在は閉鎖)を運営されるなど、ネット上で積極的に活動されていたようです。始められたのはいつ頃なのでしょうか?

アサダ:2000年ぐらいからですね。パソコンを買ったのをきっかけに始めました。その頃は、ゲーム雑誌のイラストコーナーに投稿したりもしていましたね。 最初は中々載らなかったんですが、4コマを描くようになってから載るようになって、サイトでも4コマを載せるようになりました。

昔「デジタル原稿の描き方」として、1コマごとに絵を描きそれを原稿に落とし込むという方法をサイトに上げていたと思うのですが、なぜそのような方法を?

アサダ:それには深刻な田舎事情がありまして、画材店が近くにまったくなくて……、漫画用の画材を買えず、生活範囲内で手に入る画材が、コピー用紙とハイテックだけだったんです。それをあたかも特殊なやり方みたいに、ネットでは気取って書いていただけで(笑) 『青春しょんぼりクラブ』のときも、最初はハイテックで描いていました。その頃は既に東京に出てきていたので、近くに画材店があるはずだったのに……。今漫画で使っているのはGペンです。背景はいまだにハイテックですね。

Gペンにした理由はありますか?

アサダ:漫画家といったらGペンで描くものだと思っていたので(笑) すごくドキドキしながら新宿の世界堂に買いに行ったのを覚えています!

アサダ先生といえば、商業以前には同人作家としての活動が盛んだったと思います。始められたのはいつ頃でしょうか?

アサダ:私よりも、妹のほうが先に同人活動を始めていたんです。そのときに、ページが余っちゃったから何か描いてよと言われ、2ページほどの4コマ漫画を描いたんです。それをたまたま出版社の方が手に取られて、その後トントン拍子に4コマ漫画で商業でのデビューが決まってしまったんです。なので、実はプリンセスは2度目の商業デビューになります。

アサダ先生に4コマ漫画家として、デビュー経験がおありだとは驚きました! 一度商業から離れてしまったのはなぜなのでしょうか。

アサダ:当時は仕事と並行しながら描いていたので、兼ね合いができずに結局お願いして連載をやめさせてもらいました。そのときは、「もう2度と商業で連載することはないだろう」と思っていました(笑)

そこで一旦は商業を離れ、同人活動に足を伸ばしていくことに?

アサダ:趣味でできるし、締切は融通がきくし、落としてもさほどは問題もないし(笑) 緩くやっていくのが、一番性に合っているかなと当時は思っていました。

同人と商業、創作における違い
オリジナルと二次創作での活動とではどのような違いがありますか?

アサダ:オリジナルと二次創作って、人によって意見が別れるとは思うんですけど、自分にとっては明確に別物だと思って描いています。二次創作で描くものは、創作っていうよりもファン活動の一環でして、萌えを消化するために描いている感じです(笑) 何かしないといてもたってもいられないし、逆に萌えがなくなる と描けなくなっちゃいます。こうやって商業でもう一度描かせてもらうことで、その違いは身に染みて感じるようになりました。

アサダ先生といえば、「某野球漫画」の二次創作でも有名です。6年以上に渡って、60冊以上の作品をお描きになられていますよね?

アサダ:仰る通り某野球漫画を描くようになってから本格的にコミケ等に出るようになりました。あの頃は、自分でも頭がおかしかったと思います(苦笑) 何も考えずに1からナンバリングしていたんですけど、40を越えてからはさすがに自分でも引いてしまいました……

ハマったきっかけ等はありますか?

アサダ:それまで熱中するのはゲームばかりで、漫画でハマったのが、その某野球漫画が初めてでした。ゲームの場合だと、発売された直後が一番盛り上がって、一通り自分の中で消化したら、後は描くほどではない、落ち着いた好きになります(笑)
一方で連載作品だと、一定期間で常に萌えが供給されるので(笑)、「これがリアルタイムに踊らされるということか!」と当時は思っていました。毎月の発売日近くでは、今回は休載じゃないかと期待半分、怯え半分で過ごしていました。

二次創作の作者が、もしかしたら一番熱心な読者なのかもしれませんね!
二次創作とオリジナルでは、キャラクターメイキングにもっとも大きな差があると思うのですが。

アサダ:キャラを見る視点というか、キャラとの距離感が違います。キャラクターが自分の中にいるか、外にいるかというのが一番大きいですね。同人のときは、 原作のキャラクターに自分の妄想というかなり歪んだフィルターをかけて(笑)、外にいるキャラクターを楽しく想像するという感じでした。完全に客観でキャ ラを見ている感じです。
オリジナルになると、全員自分の分身とまではいかないですけど、皆自分の中から出て来るものになります。

やはりオリジナルのキャラは、自分に近しい存在なのでしょうか。

アサダ:その辺りの距離感が変化しだしたのが、「しょんぼり」の2巻の終わり頃ですね。それまでは自分で引っ張って動かしていたのが、そのくらいからキャラクターが好き勝手に動くようになって、自分の中から生まれたはずなのに外にいるような感じになってきました。

自分そのものというわけでもなく、完全に他人だというわけでもなく。

アサダ:自分との距離がゼロだと逆に動かせなかったり、ト書きしていてもどう行動するのかが分からないことが多いです。逆に慣れてくると段々距離が離れていって、客観的に見られるようになってくるところがあると感じました。主観と客観の間くらいにキャラクターがいるのが、一番描きやすい状態ですね。動かしにくいキャラは、自分から分離できていないことがほとんどです。

キャラクターの作り方として、非常に興味深いです!

『青春しょんぼりクラブ』誕生秘話!

ここからは、商業で再デビューすることになったきっかけを教えてください。

アサダ:やっぱり、編集の方に拾っていただいたことがきっかけですね。共通の知り合いにあたる方がいて、その人に紹介してもらったのが初めてでした。
(担当S氏):良い表情を描く作家さんだな、と思って読み切りを依頼したのが2008年くらいですね。

もう一度商業でやっていこうと思われたきっかけはあるのでしょうか。

アサダ:見切り発車的に始めてしまったところがありまして……以前の連載でご迷惑をかけたこともあったので、まずは仕事を辞めようと思いました。あとは最初の読み切りが載るか載らないかぐらいの頃に、気づいたら東京に来て漫画を描いていました(笑)

オリジナルのストーリー漫画を商業で描くのは初めての経験だったと思うのですが、読み切りを描く際にはどうやって描いていったのでしょうか?

アサダ:最初の2本ぐらいまでは、自分の中のもやもやとした少女漫画のイメージを手探りで描いていました。こういう風に描いて最後をこういう風に決めれば少女漫画っぽい!みたいな(笑)

『青春しょんぼりクラブ』を思いついたきっかけは?

アサダ:2本読み切りを載せてから、ある程度の長さのものを描いてみないか、というお話をいただきました。そのとき先入観で、「プリンセスならファンタジックな 作品を描かないといけないんじゃないかな」と思っていまして……なので、最初に出した案はファンタジーなできごとが起こる学園モノだったんです。それを担当 さんに見せたら「別にファンタジーじゃなくてもいいので、描きたいものを描いてきてください」と言われて。改めて何が描きたいか考えたときに、「群像劇を 描きたい!」と思いました。
そのときに、以前の読み切りで描いた脇役の女の子が目に留まりました。別に悪い子じゃないのに、なぜか間が悪くて当て馬になっちゃうこの子が、男の子にフラれま くる話を描いたら面白いかなと思って(笑) プロットを立てて見てもらった後に全3話の話をいただいて、ネームを描いていきました。

最初は、その後連載になることを考えていましたか?

アサダ:まったく考えていませんでした。原稿にできるとも思っていなかったので、むしろ「3話もいただけるのか!」と驚いていて。連載になるということ がまったく頭になかったので、一番どうしようと思ったのは隠岐島の髪を切っちゃったことですね(笑)  読み切り2話目の時点で女装キャラにさっさと女装をやめさせてしまったので、まさか連載になってしまい、困った、髪切っちゃったなと(笑)  それで連載にするにあたってもう一度、一から話を考え直しました。

読み切りですと、恋愛よりもむしろ女の子同士の友情がクローズアップされていましたが、連載になってからは恋愛要素が徐々に強まっています。

アサダ:最初の3話は、毎回主人公が失恋しますという流れだったんですけど、連載になって毎回ポッと出の男の子を好きになって、毎回フラれるのはあまりにもかわいそうだなと思いまして(笑) 3話の中で、隠岐島に対してにまの気持ちが動くシーンが少しあったので、連載にしていただくならその部分をもっとじっくり描きたいなと思って描いています。

最初はプロットでしかなかったアイディアが、どんどんと膨らんでいったのですね!

(担当S氏):最初は全10話の2巻完結くらいで考えていたんです。どんどん伸びていったんですよね。次は全3巻構成という話で。アサダ全5巻という話もありました。 今は、「もういいですよ、好きなだけ続けてくれれば」という話になっています(笑)

どんどん話が広がっていき、今に至るわけですね!

変化球?王道?「しょんぼりクラブ」の作り方


ここからは、作品作りについても詳しくお聞きしていきます。まず、ネームはどのように切っているのでしょうか?

アサダ:家では集中できないので、ネーム期間は一日中喫茶店をはしごしながら、今月はどこまでやろうかというのをアイディア書きとして書き出していきます。 それから「これは次に回そう、ここはもうちょっと膨らませられるかな」というのを調整して、ざっと流れを箇条書きにします。そのあと、その月のページ数に合わせて、シーンごとにページの割り振りを決めていきます。

先にページ数を決めておくのは、その方がお話が破綻しにくいのでしょうか。

アサダ:どうしても自分が描きたいところで盛り上がりすぎて、バランスが悪くなりそうな怖さが常にありまして、よりバランスに気をつけるためにまずはページ数を決めています。同人誌でやっていたときも、ある程度のページ数ごとに空白のページを挟んだりして細かく章立てするという作り方をしていたので、その流れで現在も描いているところはあると思います。

その後はどのような流れになるのでしょうか?

アサダ:割り振りに合わせて、同じアイディアノートにセリフを最後まで全部書き出していきます。ページ数を印に付けながら、大体それで箇条書きのページ数と照 らし合わせて、予定では4ページで終わるはずだったのに、6ページになってしまった場合は、全体を見て後で調整するか削ってやり直すか、細かく10ページごとに見直しながら進めていきます。そこまでいけば、紙にコマ割しながらネームを描き出していきます。お話を考えているときが、一番楽しいです!

楽しいとなると、一番時間をかけているのもネーム作業なんでしょうか?

アサダ:それはちょっと別の話になりますね。ネームに時間をかけすぎると、逆に散漫になってしまうところがありまして……ある程度時間を区切って、この期間までにネームを出すと決めた方が、頭がその作業に慣れつつあるので、アイディアがひねり出しやすくなります。時間があると、やりたいことばかりが膨らんだ結果、一番描きたいものがぼやけてしまいがちです。時間をかければいいものができるってわけではないんだと感じるようになりましたね。

締切があるからこそ、漫画家さんはアイディアを出すことができるのですね。

お話作りといえば、コメディシーンが毎回秀逸だと思っています!

アサダ:一番影響を受けているのは、三谷幸喜さんの脚本作品かもしれません。作品の舞台が完結していて、細かいセリフにツッコミがちょこちょこ入ってくるところと か。いちいちセリフ回しが面白いんです、「俺足引っ張ってる?」「ぐいぐい」とか(笑) わっと笑わせるわけではないけどニヤニヤしながら観ていられる感じです。
「王様のレストラン」という作品が、自分の中ではあらゆるジャンルの中でベスト・オブ・ベストなんです。あれが群像劇に憧れるようになったそもそもの始まりだったと思います。

また先生の作品では眼鏡のギャグキャラが多数登場していますが、彼らは使いやすいのでしょうか?

アサダ:あの辺の眼鏡キャラが、作中では一番しょんぼりですよね(笑) あの辺りが一番自分に近いというか、一番楽しく描けるキャラです。あと眼鏡っていう のは、インテリアイテムじゃないですか。それをあえてダメなキャラにかけさせることで、ギャップを出せたらなと思っています。別に眼鏡の人に恨みがあるわけではないので(笑) あと眼鏡キャラは目の中を描かないでいいので、ギャグのシーンで使い勝手がいいというのはありますね。

ストーリー的にいうと『しょんぼり』は少女漫画というジャンルに捕らわれない、自由な展開が面白いです。例えば2巻のにまとカナのエピソードは、まさに少年漫画の王道パターン「喧嘩したらマブダチ」じゃないかと思い、読んでいてアツい気持ちになりました!

アサダ:ずっと憧れだったんです、「川原での殴り合い」が! 青春もので友情といったら、川原で殴り合いだろうという夢が、ずっと自分の頭の中にモヤモヤとあ りました(笑) そのエピソードも、最初は口で言い合って和解するだけだったんです。ただそれだとシーンとして弱いというか、相手がややこしい問題を抱えている女の子だったので、これじゃ読者さんが納得してくれないんじゃないかと思いまして……じゃあ、今こそあれをやるか!と……(笑) あそこは夢が詰 まっている2ページになっています。

ちなみに、少女漫画を意識して作品を描かれていますか?

アサダ:ないですね……後ろに点描トーンを貼っているときに、「あっ、今すごく少女漫画っぽい!」と思うぐらいです。

読み切りのときには少女漫画っぽくということを意識して描かれているとおっしゃっていましたが、今では意識が変わったのでしょうか?

アサダ:描いているものは、少女漫画以外の何物でもないとは思っているので、最終的に少女漫画という形にはなります。ただ少女漫画のイメージというよりは、自分の描きたいものを描かせていただいているので、「自分の漫画が少女漫画かどうか?」というのは考えずに描くようになりました。

先生の作品では、ただ悪いだけの人が出てこないというか、悪そうにみえた人でものちにフォローする回があったりします。そのあたりに、先生の優しさが表れているように感じるのですが。

アサダ:それも、三谷幸喜さんに影響を受けた部分ですね。全員、そんなにいい人というか、わりとどこかどうしようもない人達が集まっているのに、最終的に前向きに終わるところが大好きなんです。ダメな人はダメなままで成長しないのが、かえって結果的に誰かの助けになったりするような展開も素晴らしいと思っていま す。
それに学園ものですから、そんな悪に染まりきった人が出てきてもと……(笑) 相性の良し悪しがあって憎まれ役になった子も、どこか1コマでもフォローできたらなと思って描いています。

そして何より、青年心理研究会のみんながお互いのことを温かく見守っている感じが、たまらなく愛らしいです!

アサダ:上手くいかない人ほど、目が離せないというのはありますよね(笑) 高校生くらいのときって、いっそのことうっとうしいくらいに協力し合ったりするじゃないですか。それこそ、クラスまでみんなで団子になってついていってあげたりとか。
そういった、学生の頃の楽しかった気持ちを懐かしんだり思い出したりしながら、『しょんぼり』という作品を描いています。

現在、アルティマエースで連載されていた『名探偵部このあとすぐ!』、BELOVEの『ナビガトリア』、アニメディアで連載中の花澤香菜さんを描いた『かながたり』など、様々な媒体でご活躍中です。それぞれ連載を持つようになった経緯を教えてください。

アサダ:すべて、『しょんぼり』を読んでもらってお声をかけていただきました。『かながたり』の場合は、同じアルティマエースと同じ出版社だったのと、花澤さんのマネージャーさんがたまたま『しょんぼり』を読んでいたということでお声をかけていただきました。

それぞれジャンルがまったく違いますが、頭の切り替えは大変ではないですか?

アサダ:かえって、それぞれが気分転換になっています。全部が少女漫画だったら大変だったと思いますね(笑) 少女漫画で思いついたネタは、全部『しょんぼり』に使いたいと思っていますし。

『ナビガトリア』はご出身である島根県が舞台であり、島根のご当地ネタが物語と結びついていく展開が素晴らしいです。ストーリーを作ってからご当地ネタをからめるのか、それともネタが先にあってストーリーを作っていくのでしょうか?

アサダ:ストーリーが先ですね。観光地がいっぱい出てくるわけでも、島根ならではの話というわけでもないので。それに方言を変えれば、全国どこの地方でも差し替えられるような話にしたかったので、ご当地ネタはアクセントくらいの気持ちで使っています。
ただ、単行本の最後の話では、さすがに島根漫画としてこのまま小ネタだけで終わったらあれかなと思いまして、島根で一番有名な「あそこ」に行くことにしました(笑)

『かながたり』の作業行程はどうなっていますか?

アサダ:まず花澤さんから直接お話を聞いて、テープとメモに起こしてもらったものをもとに、漫画を描かせていただいております。その中で分からなかったものは、マネージャーさんを通して確認しています。

原作や「ここを描いて欲しい」という指定があるわけではなく、先生の判断で?

アサダ:そうですね、お話の中で特にここを描きたいと思ったところを漫画にしています。プロの方なので話がどれも面白いので、毎回どうやって1ページにまとめるか悩んでいます。あと、花澤さんがかわいすぎるので、見とれていたらメモを取るのを忘れてしまったりして(笑) 本当に素敵な方なので、花澤さんの良さを「より」伝えたいなと思いながら描いております!

最後にファンの方にメッセージを!

アサダ:いつも読んでくださって、本当にありがとうございます! 楽しく描いたものを、楽しく読んでいただくのが一番だと思って描いております。それと、4月に 『青春しょんぼりクラブ』の5巻、『名探偵部このあとすぐ!』、『ナビガトリア』の3冊の同時発売を予定しておりますので、そちらの方もどうぞよろしくお願いいたします!