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【キミにともだちができるまで。】保谷伸先生インタビュー

面倒事が嫌いな高校生の清之助が筆談でしか話せない龍太郎のともだちづくりを手伝う物語『キミにともだちができるまで。』。キャラクター達の人間関係の不安、目標達成の喜び、新しい気づき等々を、感情豊かに描き出し、読者の心へ伝える。その作者、保谷伸先生の漫画制作への心がけ、そして、漫画を趣味から職にしたいと決心したきっかけとは。

趣味の漫画から仕事の漫画へ

初めて漫画を描いたのはいつですか?

保谷伸先生(以下保谷):小学生のとき、自由帳に初めて漫画っぽいものを描きました。普段読んでいた『ちゃお』や『りぼん』の少女漫画を真似て描いたのですが、結局最初の2ページで放棄してしまいました。小学校高学年になってからまんが・イラストクラブ活動をするようになり、進研ゼミのポイントを貯めて入手した漫画家セットで、初めてスクリーントーンを触りました。クラブの課題であった一枚イラストに、ひとりだけトーンを使ってちょっとした優越感に浸っていました。今思うと、とんだ性悪でした。美術部に所属して油絵を描いていた高校生のとき、友達と版権同人誌をコピー本で出していましたが……漫画と言えるものなのか……。漫画の描き方をネットで調べたり本を読んだりして学びましたが、オリジナルの漫画を一本描きあげることはできなくて、いつも歯がゆい思いをしていました。結局一本描きあげたのは専門学校に入ってからでした。8ページのファンタジーショートマンガで、背景を描きたくないという理由で舞台を砂漠にしていました。

漫画家を志したきっかけをおしえてください。

保谷:高校2年生のときから自分がどこへ進学して何をしたいのか悩んでいましたが、高校3年生の進路決定のときに志を固めました。最初は漫画を読むのは好きだけど、大学に行った方がいいんだろうなぁという考えでいましたが、3年生の三者面談が近くなったときに、進路指導室にある大学や専門学校のパンフレットを読みあさり考えを変えました。その日のうちに本当にしたいことを母親に伝えました。怒られるか鼻で笑われると思っていました。でも違いました。最初驚いてはいたものの真剣に話を聞いてくれて一つ助言をくれました。「やりたいなら引き止めはしないけどその仕事をできるのは一握りのヒトだよ。専門学校に行くとしても、その2年間で成果をあげられなかったら諦めて違う職業に就くようにしよう。」その約束をしてから漫画を趣味ではなく職にしたいと決心しました。

初めて投稿や持ち込みをしたのはいつですか?

保谷:専門学校1年生のとき、学校の掲示板にコミックゼノンのマンガオーディションという賞の募集要項が貼られていて、サイレントで短いページ数という内容に興味を引かれたことと、もうすぐ冬休みで時間がとれるので、いい機会と思い、応募を決めました。それまで中々作品を応募できず悶々としていたので、どうにかその状況から抜け出したいという気持ちが大きかったのかなと思います。初めてしっかり仕上げて投稿した漫画は、小さい女の子とおじさんが登場する『おじさんと小さな花』です。小さい女の子とおじさんへ愛を込めました……。そして運良く賞を頂く事ができました……!ほんとに、運がよかったなぁとつくづく思いますね……。

『キミにともだちができるまで。』が連載開始した時のお気持ちをおしえてください。

保谷:「ほんとにこんなんでいいの?!大丈夫ですか?!正気か?!!」と思いました。でも、やっとスタート地点に立つ事ができたのだと胸が高鳴りました。

筆談をする龍太郎くんを描く際のポイントをおしえてください。

保谷:まるっこくて触るとぷにぷにしそうなほっぺたを目指して描いています。また、筆談は普通に喋るよりテンポが遅くなるので、その時間を入れてあげることを意識していますね。いろんな感情を筆談の文字に滲みだせたらいいなぁと思います。

『キミにともだちができるまで。』4巻が2014年7月19日に発売されます。この巻へのお気持ちをお願いします。

保谷:龍太郎のことで悶々としていた清之助がとある決心を固める巻になります。あと、雪ではない女の子の恋のお話もあります。今気づきましたが、雪の影うっすいですね。そして後半にはずっと意味深なアドバイスをしていた高橋君がメインのお話も入っています。舞台は私の大好きな松島水族館です。一冊で色々美味しい4巻です。お楽しみ頂けたら幸いです。

思いを詰めて経験を積む

影響を受けた漫画と、好きな漫画を教えてください。

保谷:影響を受けたのは、こうの史代先生の『この世界の片隅に』と岩岡ヒサエ先生の『土星マンション』と漆原友紀先生の『蟲師』です。好きな漫画は『ギャラリーフェイク』『MASTERキートン』『アオイホノオ』『げんしけん』です。

アシスタント経験はありますか?

保谷:アシスタント経験は少しだけあります。専門学生の夏休みの約一週間だけトーンとベタのお手伝いをさせて頂きました。学校では気づかなかった作業効率化の小さな心がけや指示の出し方など……実際の仕事に触れて、とても勉強になりました。でも、それ一回だけだったので、学生のうちにもっとアシスタントに挑戦して経験を積んでおけば、今の作業をもっと円滑に進められていたのかなと思います。

ネームから清書までの具体的な流れを教えてください。

保谷:まずA4のコピー用紙を8分割してだいたいの流れをババーッと書き込みます。あとから見直すときに、自分で困惑して読めないくらい雑です。それでページ数に収まったらB4のネーム用紙に清書します。ここになってやっと他の人にも読めるような状態になります。でも、たまに文字が汚くて担当さんに怒られます。むしろ「たまに」という域を越える勢いです。そろそろ仏の顔も修羅と化す頃かと思うので電子辞書を片手にネームを丁寧に描くべきなのではと思っています。

何か資料を参考にして描いていますか?

保谷:学校や仙台駅周辺、通学路周辺、水族館の写真を実際に撮って参考にしています。好きな風景を絵におさめられるのが嬉しくてたまりません。それぞれの場所の匂いや空気感を原稿にぎゅぎゅっと詰められていればいいなぁと思いながら描いています。

キャラクターの心情をどう表現しようと心がけていますか?

保谷:キャラの目線や手癖、表情に気をつけるようにしています。コマ割りや構図では、何を一番見せたいか、どうしたら効果的に見せられるかを決めて描いています。まだまだへたくそですが……。

pixivやTwitterに公開した、とても短い漫画でとても印象が残る『消せるボールペンのお話』はどのような経緯で考えついたのでしょうか。

保谷:消せるボールペンでかわいい女の子のイラストを描く動画を見てから考えつきました。最初は水着を着た女の子を描いてドライヤーで熱風を吹きかけたら水着だけが残る釣り動画をつくろうかと思ったのですが、「女の子が消える」という要素だけ抜き出してマンガを描いても面白いなぁという発想にいたり、ああなってしまいました。今思うと、その場のテンションで描いたので字は汚いわ見づらいわで恥ずかしいのですが、思った以上にたくさんの方に楽しんでいただけたのでホクホクです。

ここまで漫画家の道を進み続けられた理由や支えは何だと思いますか?

保谷:周りの応援と支えです。元々悩み事を溜め込みやすい性格ですが、仕事場の近くに学校や画材屋さんがあって相談をしやすい環境にいられたのが幸運でした。また、家族からの支えも重要だったと思います。お母さんのつくる料理は、ほんとに心が回復します……。回復量半端ないです。

最後に、漫画家を目指す学生の方へメッセージをお願いします。

保谷:夜更かしして寝て起きたら夕方だった時の喪失感はすごいので、なるべく生活リズムを昼型にした方が良いです。あと、なるべくストレスが溜まったら寝るよりもお外に出てカラオケに行った方がいいですね。この前、初めてヒトカラしたのですが、今まで恥ずかしくて行けていなかったことを後悔しました。その日のうちに会員カード作りました。何事も初めてのことに羞恥心はつきものです。マンガのための取材もそうでした。元々人と喋る事が苦手な私はいろんな経験が不足していました。持ち込みにも賞を出すにも最初の一歩は辛く感じる事もあるかと思いますが、それを貴重な経験として吸収し、自分のマンガをもう一段階レベルアップすることができると思うので、色々なことに挑戦して頑張ってください。私も頑張ります。私は次に一人旅行に挑戦してみたいです。