平尾アウリ先生インタビュー【まんがの作り方/センセイと僕etc……】
漫画家と漫画家の百合?「comicリュウ」にて連載の『まんがの作り方』は、少女漫画を思わせるような繊細なタッチで女の子達の細やかな心情を描きつつ、読んでいて脱力してしまうとぼけたギャグが頻繁に挟み込まれる、独特の空気感を持った作品です。近年は少女向け雑誌にも足を伸ばしつつある作者の平尾アウリ先生をお招きし、デビュー以前から現在に至るまで幅広くお聞きしました!
『まんがの作り方』は「再々」デビュー作品?
漫画を描き始めたのはいつ頃ですか?
平尾アウリ先生(以下アウリ):小学4年か5年生くらいの頃です。付けペンを使い始めたのは小学6年生の頃。近所の年上の友達に描き方を教えてもらいながら描いていました。そのときに描いていたものはぜんぶ友達にあげてしまったので、今は家に1つも残っていません。
1番最初に持ち込みや投稿をされたのはいつ頃ですか?またはじめて賞をとったのはいつ頃ですか?
アウリ:中学2年のときです。持ち込みには行ったことがなくて、投稿していました。浅野りん先生の作品が大好きで、小中の頃はほとんど『少年ガンガン』しか読んでいなかったので、そのまま「ガンガン」に投稿していました。賞を取ったのは投稿をし始めてから1年ぐらい後です。
短編集『4月1日』にガンガン時代の作品が掲載されていますが、あれはいつごろ描いたのでしょうか?
アウリ:19歳の頃です。実は、あれは「ガンガン」での2回目のデビューなんです。賞をとったあとネームがなかなか通らなくて、だんだん担当さんに連絡しなくなっていったので、向こうが自分のことなんて忘れているだろうなと思ったんです。なので1回賞を取ったというのを隠して投稿し直していました。
投稿作以外に絵や漫画は描かれていたんでしょうか?
アウリ:趣味で描いていたのと、同人誌を中1からずっとやっていました。実は同人誌がすごく好きで、その頃はだいたい2ヶ月に1冊ペースで新刊を出していました。
「ガンガン」時代から『comicリュウ』での再デビューまでも期間が空いていますが、その間はどんなことをされていたのでしょうか?
アウリ:アルバイトがすごく楽しくて、ずっとアルバイトをしていました。ところが親に「23歳までには就職しろ」って言われたんです。就活するのはメンドくさいなと思って、じゃあまた漫画を描いてみようかなと思い、それから初めて描いたのが『まんがの作り方(以下まんつく)』です。
リュウに投稿された理由は?
アウリ:ネットで「漫画 新人賞」で検索して、1番最初に出てきたのがリュウの龍神賞だったんです。リュウの執筆陣があんなに豪華だとは、そのときは知りませんでした。すぐに通るとは思っていなかったので、『まんつく』を出したらすぐ次のを描いて、検索して出てくる賞を上から順番に投稿しようと思っていたぐらいです。そうしたらいきなり通ってしまったので驚きました。今ではリュウさんに拾ってもらって良かったと思っています。
アウリ先生の「漫画の作り方」
ネームを切るときの手順を教えてください。
アウリ:まずは登場人物に言わせたい台詞をA5くらいのノートに文字で羅列していきます。台詞を1話分全部描いてから、それを並べ替えてページに収めるようにしています。ノートは常に携帯していて、思いついたらすぐに描きこみます。以前は携帯電話に台詞を保存していたこともあったんですけど、手で書いたほうが早いので今はノートに切り替えています。
シーンはバラバラに思いつかれるんですね。ページ数に収まるかどうかは感覚で分かるのですか?
アウリ:ノート1ページ分が、漫画だと大体4ページぐらいになります。ノートに4ページ描けば、16ページの漫画が描ける計算になっています。
そのノートをネームにしていくときに注意していることがあれば教えてください。
アウリ:台詞を描いているときはコマで思い浮かべているので、それをネームに起こしているだけですね。自分はA4用紙を8等分に折ってからネームを描いています。小さい紙のほうが描きやすいし楽だからなんですけど、文字が潰れてしまって読みにくいのが難点です。
ときおり物語の流れに関係なく風景が挟み込まれるなど、コマ割のテンポが特徴的です。意識されているようなことはありますか?
アウリ:できるだけ8分休符や句点みたいな「拍」を置きたいんです。単館映画で上映される作品のような、いきなり背景が入ってくる感じに近づけたくて。コマに割っているときも映像が頭に思い浮かんでいるので、絵というよりも映像として見てもらいたい気持ちもあります。
映画など映像作品を参考にされることが多いのでしょうか?
アウリ:漫画を読む時間よりも、映画とかを観ている時間が長いので参考にすることは多いのかもしれません。映画は邦画しか観ないです。単館系が特に好きです。
あと映画だと、場面転換をいきなり切り替えることができたりするじゃないですか。本当はそれがやりたいんですけど、漫画の場合って状況説明のためのコマが必要だったりするので、担当さんによく直されています。そういうときはやっぱり映画と漫画は違うんだな、と感じます。
そういえば、擬音とか効果線が使われていないことからも、映像作品のような印象を受けます。
アウリ:本当は、集中線を描くのは大好きなんです。集中線が1番得意なので、本当は集中線ばっかり描いていたいくらいです(笑)
ただ、私の場合擬音を描くのがものすごく下手なので使わないようにしているんです。擬音がないなら集中線もないほうがいいかなと思って、「それはもう個性ということにしよう」ということで、両方とも描かないようにしています。
そのような理由だったとは驚きです(笑) それでは、ペン入れするときの行程は?
アウリ:下絵では顔だけしっかり描いておいて、体とかはラフにとっておくだけでペン入れのときに描きこんでいきます。あと下絵のときにキャラクターに着せる服を決めておくんですけど、優柔不断なせいで全然決められなくて、下絵がまったく進まないこともよくあります(笑)
漫画だとずっと同じ髪型服装のこともありますが、『まんつく』では毎回変えていますよね。
アウリ:実際にいそうな女の子を描きたくて。同じ服を違う組み合わせで出すこともあります。その子の好きな系統というのは決めてあるので。
今ペン入れに使っている道具はなんですか?またその理由は?
アウリ:ペン入れには丸ペンを使っています。使ってみたなかで、1番強弱がつけやすかったからです。今はどのペンでも気にならないんですけど、ずっと丸ペンを使っていたので手に馴染んじゃったんだと思います。たぶん、丸ペンの細い形が好きなんだと思います。自分の場合だと、スクールペンとかは太くなっている部分が指に食い込んでしまって使いづらいんです。
毎回繊細な画面が素晴らしいのですが、綺麗に仕上げるコツはありますか?
アウリ:全然コツはないです……コツは知りたいぐらいです。自分の原画ってめちゃくちゃ汚いんです。めちゃくちゃ汚いのを、印刷では綺麗になるよう頑張って修正しているだけで。原画を見せると「ホワイトでいっぱいだね」ってよく言われます。
漫画家と漫画家の「百合」?『まんがの作り方』
「若いときに一度デビューし、その後再デビューを果たす」というアウリ先生の境遇は『まんつく』の「川口さん」とそっくりですね。
アウリ:あれが連載になるとは思っていなくて、すごく軽い気持ちで描いちゃったんです。だからあれを「自己投影」みたいに言われるのは、そのつもりがまったくなかったので本当はちょっと嫌なんです……
龍神賞の受賞作がそのまま連載になっていますが、他に連載案を出されたりしたのでしょうか?
アウリ:なかったです。「あの作品で連載を」という話でした。設定も何も決めていなかったので、全部描きながら決めていきました。
『まんつく』で百合を描いてみようと思った理由は?
アウリ:思いついたのがたまたま百合っぽくなっただけで、「百合」という意識も特になかったです。それまで百合作品を読んだこともありませんでしたし、今でもほかの百合作品って読んだことがほとんどないんです。
『ひらり、』などに載せている他の読み切りではシリアスな百合モノも描いていらっしゃいますが、『まんつく』はコメディがベースになっていますよね。
アウリ:リュウで描きづらいものは百合雑誌のほうで描いています。『まんつく』は親が読んでいるので、ベタベタな恋愛ものは恥ずかしくて描けないんです(笑)
ただ描きたい気持ちはあるので、それはもう親が読まなさそうな雑誌で描かないといけないんです。それにシリアスすぎても『まんつく』っぽくないかなと。あの方向がけっこう楽になってきて、最近はここをコメディにしておけばとりあえず16ページに収まってオチがつくかなと思うようになりました。
実際、飄々とした感じでかましてくるギャグが好きです。特に「味のりしか~」のくだりとかすごく面白かったです。
アウリ:あれは、妹に原稿を手伝ってもらうことがあるんですけど、妹はトーンを貼る作業がとにかく嫌いなようで、「もう海苔でも貼ってろよ!」って言われたのが元です(笑)
そんなコメディタッチの中、ストーリー的なターニングポイントになるのは3巻だと思います。2人が気持ちを再確認しあうという展開は、これぞ恋愛漫画という流れでした。
アウリ:あれは「百合漫画っぽくしよう」と思って描いてみました。百合が好きという読者の方が増えてきていたので、ひょっとしたら百合漫画っぽくしたほうがいいのかなと思ったんです。1回やってみたら「やっぱり恥ずかしい!」と思って戻してしまいました。あの頃を読み返してみると、「頑張って描いていたんだな」というのが自分でもわかってしまって恥ずかしくなってしまいます。
実際その次の4巻でいきなり二人を東京と静岡に割いてしまっていますよね(笑)
アウリ:あれはこのままだとマンネリになりそうだったのと、ほっとくと2人でイチャイチャし始めてしまうので……森下さんの同居人を武田さんにしたのは、1人よりも2人のほうが話を動かしやすいのかなと思ったからです。武田はビジュアル的に描きやすいので、描いていて楽ですね。
「起伏のない恋愛漫画はオチをつけるのが……」→「そうですね!」→(沈黙)……というギャグシーンも作中でありましたが、実際の作品の方では着地点のようなものはみえているのでしょうか?
アウリ:あれは自分に対する皮肉です(笑)
読者の人が思っているだろうと思って、先回りして描いたんです。終わり方は、まだ全然考えていません。いいのが思いついたらその方向で行こうと思っているので、思いつくのを待っている状態です。
女性誌にも広がるアウリ先生の作品世界
近年は『comicスピカ』や『FEEL YOUNG』など女性向け雑誌で描かれることが多くなってきています。女性誌から依頼がきたときはどんな気持ちでしたか?
アウリ:いろんなところでやりたかったので、とても嬉しかったです。「フィーヤン」では読み切りがたまればいいなと思っていたので、まさか連載させて頂けるとは思っていなかったのですごく驚いています。
現在連載中の『今日も渋谷のはじっこで』ですね。「スピカ」の『OとKのあいだ』が秋葉原が舞台で、今作は渋谷が舞台と街を舞台にした作品が多いのですが、街を題材にされるのはなぜでしょうか?
アウリ:自分の場合連載より読み切りのほうが描きやすいのと、いろんなキャラクターが描きたいので群像劇が好きなんです。読み切りの連作にしようとすると、なにか共通点がないと単行本にしづらいじゃないですか。大きなくくりで出すものとしたら「街」が1番分かりやすいかなって思ったからです。
『センセイと僕』や新連載の1話目もそうですが、「成長することを嫌がりつつも、大人になるのは避けられない」という話が繰り返し登場しています。
アウリ:そもそも自分がそういう風に考えているので。昔からずっと年を取りたくなくて、みんなそうなのかなってずっと思っていました。漫画を描いていると1日がすごく早くて、人よりずっと早く年を取ってしまいそうだと毎日悩んでいます(笑)
それでは最後に、漫画家を目指す学生の方にメッセージを。
アウリ:漫画家になかなかなれないという人達の話をよく聞くんですけど、そういう人はたいてい編集さんの話をちゃんと聞いていないことが多くて、反発しちゃうみたいです。どうしても「いいものを描こう」と考えてしまうと思いがちですが、そういった気持ちがないほうが多分早くデビューはできると思います。格好つけるよりも、編集さんが「こういうのが向いているよ」といってくれたのを素直に描いていったほうがデビューは早いと思います。
今日はありがとうございました。今後の作品の刊行も楽しみにしております。