森繁拓真先生インタビュー【となりの関くん】
奇妙な惹句を掲げた漫画の話題が、現在沸騰している。『日本一の授業サボリ漫画』……森繁拓真先生が現在、コミックフラッパーにて連載中の『となりの関くん』という作品だ。どこにでもいるような女子学生、横井さんのとなりの席に座る関くんは、授業も聞かずいつも一人遊び。将棋の駒が仲間割れ!ポーンが合体して巨大ポーンに!彼 の遊びは常に予想の斜め上を超え続け、横井さんはひたすらオーバーかつコミカルなリアクションをし続ける……そんな「机上完結型コメディ」が、今やJRの 車内広告に登場する等、普段漫画を読まない人にまで広がりを見せている。
今回は現在4作品を同時執筆中(取材当時)の多忙を縫って頂き、森繁先生へのインタビューを敢行いたしました!
学生時代から初連載作品まで―不遇の(?)10年間―
絵や漫画を描き始めたのはいつ頃ですか?
森繁拓真先生(以下敬称略):小学校ぐらいから鉛筆で描き始めていました。すぐに2ページとか4ページとかの短い漫画を人に見せるようになりましたね。そういうのを中学校ぐらいまで続けていましたね。
以前のインタビューでは、高校生の時にパラパラ漫画を描いていたと仰っていました。「関くん」の3巻のではパラパラ漫画をネタにしていましたが…
森繁:パラパラ漫画をやろうとなると自分が昔やってたものよりスケールアップさせないといけないので、ネタとしては避けていたんです。僕がやっていたのは、辞書にパラパラ漫画を描くこと。教科書はすぐに全部書き終わってしまったので、辞書ならいつまでも描けるなと思ったんです。それで、辞書に描くと友達にも宣言したんですけど、全然 終わらなくて……3日半くらいずっと、授業中も家に帰ってからも描き続けました。見せると言ったからには終わらせないとと思って必死でした(笑) 見せる相手がいなかったら描き終えられなかったと思います。
子供の頃はどんな漫画を読まれていたのですか?
森繁:普通に少年誌、特にサンデーが好きでした。後はウチの姉の影響で、少女漫画をいっぱい読んでいました。姉は姉で、僕の買ってたジャンプ・サンデーを網羅して読んでいました。普通の人の倍は読んでいるのでそこが強みにはなったかなと思います。今でも自然に描くとつい少女漫画っぽくなりますね。好きな漫画家さんは、少女漫画に多いので。
具体的な作家さんを教えて頂けますか?
森繁:今でも買ってるのは『BANANAFISH』の吉田秋生先生とか。今『海街diary』やっていて、毎回急いで買いにいきますね。あとは吉野朔実先生やいくえみ綾先生、よしながふみ先生とかですね。結婚しているので、嫁さんが買ってくる最近の作品も読みますよ。
ペンを使って描くようになったのは大学に入ってからですか?
森繁:大学に入ってかなり経つまでなかったですね。就職活動の変わりに、初めてちゃんとした原稿を描いて投稿するようになりました。それまでは、トーンを使ったこともありませんでした。大学の購買部にいったら、多分建築のイラスト用だと思うんですけど、小さいB5サイズのスクリーントーンが売っていて。ははぁ、これが トーンかって言って貼ってみたんですけど、後々気づいてみたら全部「砂」トーンでした(笑) これが一番細かくて綺麗だな、って思って陰を全部砂で貼って投稿していました。今ではもう当時の作品は見返せないですね(笑)
プロを志すきっかけは、就職するぐらいなら、漫画家になりたかったという……
森繁:成績が悪くて希望するのとは違う学科に進んでしまって、希望の就職先に行けない可能性が出てきて……就職したくなくなったっていうのが、1番強いやる気だったかもしれないですね。
最初に投稿を初めた時から「漫画家になるぞ!」、と強く思っていたのですか?
森繁:どちらかというと無理かなっていう気持ちも強かったです。周りの志望者は、中学高校の頃から描いていたりする。自分は遅めに始めて不安もあったから、一度試すという気持ちで、がっちり取り組んで、1~2年様子を見ようと当時は考えていました。
漫研などには入らなかったのですか?
森繁: 入りませんでした。最初に漫画描く時に、漫研入るのは「負け」な気がして……やるなら自分1人でやるぜみたいな気持ちがあって。仲間内でキャッキャ見せ合うなんて、ナンパなやつがすることだ、って思っていたのかな?漫研の人には大変失礼ですけど。ただ、自分で描き始めた時は、寂しくなって夜中に勝手に漫研の部室に入り込んで部誌を眺めたりしました(笑)
どうやって忍び込んだのかが気になります(笑) 現在確認のとれる受賞された漫画賞は、2000年のちばてつや賞優秀新人賞です。いつ頃受賞したのでしょうか?
森繁:それは東京に来てからですね。その前に、ヤングマガジンの月例賞の、一番下のともう1個上の賞を、4年の時に取りました。小さめとはいえ、2個も賞に引っ掛かって、まあこれなら続けてもいけそうかな、という気持ちにはなりました。
デビュー後は、別冊ヤングマガジンで作品を何本も発表することになりますよね。その時はどんな気持ちでしたか?
森繁: その時は描けば載る状態で、ウハウハでしたね。凄い貯金も貯まってましたよ(笑) あんまり描き込みもしなかったのもあって、1ヶ月に1本、1人で描いていました。全然楽勝だなと思ってましたよ、当時は。ただ、単行本になると言われて、頑張って描いていた連載がならなかったんですよ。その辺からケチが付き始めて……
『学園恋獄ゾンビメイト』でしょうか。
森繁:そうです。単行本2冊分描き溜めていたけど、当時は人気が無かったので単行本が出なかったんですよ。それから編集部では、「載せても意味ないじゃないかコイツ」みたいな感じになってきたらしくて。
作品数はかなりの数載せていましたよね。
森繁:載った作品に加えて、実際にアイディアやネームに起こしたのはその5倍くらいあったかな。月に2~3本はネームを描いてたけど、それを全部ボツにされていました。おかげでアルバイト生活に逆戻りしたりとまあ酷いものでしたね……今や空白の5年間になってしまいました。だから「関くん」が出た時に、「良い新人が現れた」みたいなことを言われて(苦笑)
「脅威の新人デビュー!」みたいな(苦笑)
森繁:ふざけやがって!という気持ちにはなりましたね、こっちは10年漫画家やってるのに!って。
この辺の作品は、初期作品集として是非復刊してもらいたいですね。
森繁:恥ずかしいは恥ずかしいですけどね。でも出てくれたら、読んでいた友達とかも喜んでくれると思うので。
『となりの関くん』に至るまで―「関くん」人気は全くの予想外!―
話は前後するかもしれないですけど、ヤンマガ以外に持ち込みには行ってたんですか?
森繁:最初はヤンマガ1本だったけど、途中からまったく載らなくなって……担当がOK出しても、編集会議で必ず落とされるようになって。雑誌の方針とも合わなくもなっていたんだと思います。担当さんも「サンデーっぽい、ウチには合わない」と他の編集さんに言われてたみたいです。
……それならサンデーに行こうと思って(笑) サンデーに一から投稿したり。一応、賞には引っ掛かったんですけどね、小学館でも。
『かかしとレイディ』ですね。
森繁:少年誌でもいけるかな、って。ヤンマガはヤング誌になるけど、そのくくりの中で浮いていたんですよね。だからこれはちょっと移動しないとマズいかも、という感じになって。その後、知り合いの編集さんがチャンピオンに移動して、そっちにも誘われたのでチャンピオンにも顔を出すことに。
それがチャンピオンで『アイホシモドキ』を載せるきっかけになったのですね?
森繁:他所に持っていこうとしたネームを、チャンピオンの編集者さんにも見せたらそのまま編集会議にかけてくれて、すぐに短期集中連載を描かせて頂くになりました。
週刊誌での連載はどれくらい大変でしたか?
森繁:う~ん……そんなに大変じゃなかったですよ。確かに睡眠時間とかは短かったりするけど、規則的な生活にはなったので……毎週決まった日数、4日間くらいきっちり作画をすれば終わっていた。あと僕があんまり描きこまないので、他の作家さんに比べれば全然楽でしたよ。
『アイホシモドキ』の、「姿形はそっくり、性格は真反対の男女が入れ替わる」というアイディアはどのように思いついたのですか?
森繁:シンプルなアイディアを、と思って何ヶ月かは考えたんですけど……自然に発生したというよりは、自分が好きだったころの少年誌、というかサンデーのノリを再現したかったんですね。
昔サンデーでやっていた、『八神くんの家庭の事情』っていう楠桂先生の漫画が大好きでして……それは、主人公が自分のお母さんが凄く若くて美人で、お母さんと喋ってると凄いドキドキするっていうお話なんです。それで途中からお母さんにそっくりな子が出てくるんですよ、だだし男の子で(笑) 「うわぁ、男なのに ドキドキするぅ~!」みたいな。男の子も、段々ホモっぽくなってきて、主人公に凄いアプローチしてくるんですよ。そんな作品が特に好きでしたね。後は高橋 留美子の『らんま1/2』のノリとかは再現したいなとは思ってましたね。
あとがきにてヒロインの表情を描くのが難しかったと仰っていました。無愛想なキャラはやはり表情の変化を描くのが難しいのでしょうか?
森繁:対比がありますから、このネタだと主人公が表情豊かな分、もう一人は表情を殺した方が良いのでそう描いていたんですけど……やっぱりというか、人気が出なかったんですよね、ヒロインの。ヒロインの感情が分からなくて、読者が好きになれなかったみたいですね。
一部のマニアックな人には凄く喜んでもらったみたいなんですけど。僕も、そういう意味では振り回す、何を考えているんだか分からない女の子が好きっていうのがあったので、自分はマイノリティなんだなぁっていうのが分かりました。「これはウケルぞー!」って思って描いていたんですが、「何を考えているのかわからないから好きになれない」っていう人の方が多かったですね。
もう1人の、一般的なヒロイン像をしていた菜摘ちゃんの方が人気だったのでしょうか?
森繁:そうですねぇ、分かりやすいの女の子の方が……僕個人としては、みんな女の子の考えが分かった方が良いと思っているのかもしれないけど、そんなの不可能だと思ってるんですけどね。僕は、人間関係はなるべく現実に近づけるほうが好きなんです。あからさまに何考えているのかわかる女の子キャラってあんまり楽しめなくて。主役が女の子だったら頭の中の言葉が分かっても良いんだけど、主役でもないキャラも全部気持ちが見えるっていうのは、主観表現というか、主人公がブレてしまいますよね。
それこそ少女漫画の主人公のモノローグで「私あの人が好きなのかもしれない!」っていうのは大丈夫でも……
森繁:それはそっちで感情移入出来るんで。でも例えば、少年誌とかで周りの女の子皆が主人公を好きという設定で、でも主人公だけが鈍感で女の子が照れ照れしてる所で「何赤くなってんだオマエ」「バカ!」みたいなやりとりは、ちょっと自分では気恥ずかしくて出来ないですね(笑) 女の子の追求が足りないのは苦手というか……それはそれでシンプルで良いんですけれど。ただシンプルな女の子って個人的に好きじゃないので自分は描けないですね。
ともあれ「アイホシ」は、人気が無くなって、4巻で終わることになって。その後はまたしても2~3年近くまったく載らなくなってしまいました……自分の理想型の、ボーイッシュな女の子が描けたのにウケなかったので反省しましたね。これでは食っていけない、と。
チャンピオンの色とも合わなくなったという。
森繁:そういう「合う合わない」みたいな言い方をすると自惚れてるのかもしれないですけど。要は何を描いたら良いのかが分からなくなって……少年誌っぽいものを描こうとすると、自分に不向きなことを描き始めるので結局面白くないネームばっかり描いちゃってたんですよね。
これだったら読者に受けるんじゃないか、とかですか?
森繁:そうそう、だんだんネームが複雑になっていって全くネームが通らなくなりました。でもその時からは、色んなところに顔を出すようにはなってましたね。
自分の描きたいものが描ける場所を求めて、色んな所に持ち込みにいったという訳ですか?
森繁:僕あんまり持ち込みはしませんでしたね。持ち込みって怖いですし、運試しみたいなところもあるじゃないですか。投稿だと編集さんが全員で回し読みして貰えるので。投稿で落とされるなら、所詮それまでなので、その雑誌は諦めた方が良いと個人的には思いますけどね。……ただ、次のフラッパーのとこだけは、コミティアの出張編集部に持ち込みにいきました。
どうしてコミティアで持ち込みに行こうと思われたのですか?
森繁:「アイホシ」が終わってから、2年くらいまた無職で、バイト暮らしに戻ってしまい。読み切りはポツポツ載っていたんですけど、もの凄い苦労して増刊に載ったのに、人気投票が最悪だったり……40ページくらい描いたのに、10ページくらいのギャグ漫画よりも下だったこともあります。
その時の編集さんがとても信頼出来る方で、その人に「君はアイディアを考えるのが特技だから、短いのを描いたほうが良い。それにウチではもう君の長い作品は載せられないから、とにかく10ページくらいの短いのを描け」っていう命令を受けました。その時は、凄くヤダなぁって思いました。それで、チャンピオンとかにもまだ持っていっていた傍らに、短い10ページものとして描いたのが、『となりの関くん』なんですよ。1回見てもらったらちょっと修正が必要と言われ、結局僕が面倒くさがって中々持っていかなかったのですが(笑)
その後、友達の作家さんがブースを出していたコミティアに遊びに行った時、出張編集部というのがあるらしいから、時間余ったら持っていこうと思い、「関くん」の1、2話のネームを鞄に入れ、まず最初にとある編集部に持ち込みました。フラッパーのところが空いていたので、それで今の担当さんに見せたところ、すぐに「これはまったくいじる必要がないので、編集会議にかけます」と言われました。その後不定期で載るようになったんですね。それでポツポツ「関くん」を描き始めて、毎月載るようにはなったものの、最初は「連載」とは言われなかったですね。毎回この月は載っていいよみたいな形で続けていました。
いつまで続くか分からないからとりあえず載せとくみたいな。
森繁:一発ネタなところもありますし、どうせネタが続かないだろうって思われていたんだと思います。自分も大したネタでもないし、単行本1冊分くらい載れば十分だろうと思っていました。初期は副業として「関くん」を描きながら、3箇所くらいに持ち込みを続けていたんです。編集さんとあまり喧嘩しないので、行けば行くほど持っていく場所が増えてしまうんです(笑) 凄くきつかったですね。10とか20ページとか短くはなっていたけど、最終的に月に5個くらいネームを出すようになっていました。どこの編集部にも言われたのが、「長ければ長いほど面白くない、40ページよりは30ページ、30よりも20が面白い」という反応を受けていました(笑)
そして最終的に、「関くん」の10ページにまで至る訳ですね!読み切り版を載せてから、読者からの反響はすぐに返ってきたのでしょうか?
森繁:今まで、下から数えた方が早い順位しか取ったことがなかったんですけど、「関くん」は読み切りだったのにトップ3に入るくらい票が集まりました。フラッパーの読者の中で多分誰も『アイホシモドキ』なんて読んでいない、自分のことなんか何も知らないのに人気をくれた。ああハマる作品ってこういう風にハマるものかというのを実感しました。
雑誌で実績が出たので、「しばらくこっちで頑張らないといけない」と本気になりました。短くてもいいから、たくさん描こうという風に気合いは入ったというのはありますね。自分が頑張る方向性が、人気を貰って初めて見えたのだと思います。
『となりの関くん』の作り方
ここからは、実作に関して詳しくお聞きしたいです。まず、10ページに「これでもか」とアイディアを詰め込む発想力と、少ないページでまとめきる構成力に驚きます。そこで、まずはネームの描き方を教えて頂けないでしょうか?
森繁:最初に縦に線を引いて1~10に分け、それで1ページごとに描く内容をすべて決めてから、すぐにネームに起こします。それと『デトロイトメタルシティ』の若杉先生が、ヤングアニマルに載ってる漫画教室の記事の中で、「ギャグ漫画の極意」みたいなものとして言っていたのが、「とにかく開いたページの1コマ目を面白くしろ」と。それだけでも面白漫画っぽくなるはずだとおっしゃっていたんです。
僕も同じように感じていたし、実際それがテンポになるんです。なので開いたページを面白くするために、プロットを描く際には何のアイディアも思いついていない状態でも、偶数ページの一番上に「ここ面白く」ってメモしてから描きだします。最初は大変だなと思いながら描いていたけど、慣れてくるとこまごまと考えなくていいから楽になります。
「関くんは絶対喋らない」等、お話作りに「縛り」が多いですよね。そのような縛りやルールを設定したほうがアイディアを出しやすいのでしょうか?
森繁:出しやすいです。指摘された所で言うと、例えば関くんの会話シーンをもし描いたとしても、この漫画の面白さとあまり関係無いので省く対象になります。ならもう描かないと決めといたほうがいい。考える事が減ってアイディアをまとめるのが楽になります。
毎回の関くんの遊びをどのようにして遊びを決めるのでしょうか?
森繁:基本的に、前回と話の方向や面白さが被らないことですね。横井さんと関くんの絡みが少ない回があったら、今度は増やすとか。前回の話を基準にして、それに合った遊びを見つけ、そこから話を考えますね。
「関くん」を描いていて不思議だったのが、漫画ってもっとキャラを押し出せということを言われ続けてきたんで、見せ場でキャラを描かないといけないのかなと思っていたんですけど、関くんの机の上の将棋とかを描いていたら喜ばれるので、アレ?と。今まで言われてきたことと違うぞと(笑) キャラクターをたくさん描くことが当たり前になってきているから、オモチャを魅せゴマにするということが、人と違っていて目立ったのかな、とは思いますが、とにかく驚きました。
構成といえば、「フリとオチ」が効果的に効いた構成が好きです。話を作る際には、伏線をあらかじめ考えてから描きだすのでしょうか?
森繁:あまり計算している訳ではなくて、オチは大概最後まで残りますね。
計画通りに組み立ててると、ボツ出されて全直しになったら嫌なので……1ページごとに面白くする方が重要であって伏線回収が絶対ではないです。8、9ページまでにネタを集めておいて、最後のページは考えないまま原稿を描き始めることもあります。
基本的に横井さんと関くんの2人で話は進みますが、ときおり別の視点として「後藤さん」が登場するじゃないですか。あのキャラは最初から出す予定だったのでしょうか。
森繁:それは凄く考えていました。お互い話をしないだけで、男女が二人っきりでキャッキャしているのはラブコメの形式じゃないですか。それを作中で、ラブコメって言っちゃうとどんどんエスカレートしなければいけなくなるので、読んでいる人に「ラブコメ感」だけを与えるのは狙っていました。
ちなみに、読者からはどのキャラが1番人気なのでしょうか?
森繁:キャラ的には関くんが人気ですね。中高生より下の年齢では特に関くんの遊びが好きなようで。とにかく遊びを追求するというキャラが一番大事な所だと思います。大人になるにつれ、横井さんが好きな人が多くなります。子供を見守る視点が強いのかもしれませんね。横井さんの魅力に気づくのは、子供にはまだ早い!(笑)
僕も横井さんが大好きです!ここで話を転換し、絵についてもお聞きしていきたいです。なんといってもキャラの感情がハッキリと伝わってくる、表情の描き分けが魅力的です。描き分けのコツや、意識していることがあれば教えて下さい。
森繁:キャラ的には関くんが人気ですね。中高生より下の年齢では特に関くんの遊びが好きなようで。とにかく遊びを追求するというキャラが一番大事な所だと思います。大人になるにつれ、横井さんが好きな人が多くなります。子供を見守る視点が強いのかもしれませんね。横井さんの魅力に気づくのは、子供にはまだ早い!(笑)
僕も横井さんが大好きです!
ここで話を転換し、絵についてもお聞きしていきたいです。なんといってもキャラの感情がハッキリと伝わってくる、表情の描き分けが魅力的です。描き分けのコツや、意識していることがあれば教えて下さい。
森繁:女の子の表情を描くのが楽しくて、熱中しながらガリガリ描いているので、あれこれ頭で考えることはありませんね。
ただアドバイス的に言うのなら、目が小さい方が表情を付けやすいです。三白眼とか良いですよ。僕は漫画で三白眼キャラの女の子が出てくると無条件で好きになります(笑) 美少女キャラ系の、顔に対して眼球が大きいキャラだと表情がつけにくい。綺麗さを優先しすぎないということでしょうか、素朴な絵の方が表情豊かに描けます。
あと最近、びっくりした目を描くときは、皆さん『ハチミツとクローバー』の目になりますよね(笑) 瞼が無くてグルグルに描いたやつ。凄い便利で、定着しすぎて何描いてもあれが1番に思えてしまって……それから顔の外に汗を飛ばす表現は、『ぼのぼの』から取っています。顔に汗描くと邪魔になる時があるので便利です。
表情というのは読者に見てほしいポイントの1つなのでしょうか。
森繁:いや、表情とかは「関くん」の中では主役でないので特に見て欲しい訳ではないです。僕としては1番好きなんですけど、漫画的にはあまり主役にはならないですよね、表情って。重要度は低いです。それに表情は複雑な情報なので、読み取るのに実は高度な漫画読解力も必要になります。だから、表情をメインにした面白さっていうのを期待している読者は、割合としてそんなに多くないと感じます。
とはいえ、コマの隅であろうと必ず横井さんの反応として表情を描いていることは、関くんの遊びを盛り上げることに一役買っていますよね。
森繁:そこに気づいてもらえるのは嬉しいですね。普通の漫画だったら、横井さんの顔でもう1コマ大きめに取るんですけど、10ページでそんなことしている暇がないので、一応表情はあるってことだけ見せておく形にしています。優先順位が低いのでどうしても省略みたいな形にはなりますが、必ず入れるようにしています。
表情もそうなんですが、とにかく先生の描く画面は「分かりやすい」の一言に尽きると思います。
森繁:いらないものはなるべく描かないことを意識しています。まずは、描く必要が無い時には目を描かない。必要なければ口も描かない。口に表情があってもなくても一緒な時とか、顔に寄らない時は全部省いてしまいます。目の中にも、黒があろうがなかろうが同じならば、全部白か黒にしてしまう。
必要な情報を絞ったデフォルメの仕方を意識しているのでしょうか?
森繁:目と口、両方あると読者は気が散るんですよね。目と、口が表現する表情が合ってなかったりすると、情報が多くなり、見づらくて読むスピードにタイムラグが増えてしまうので、伝わり方が悪くなってしまう。表情がすっと入るためには、なるべくパーツを減らす。トーンも貼りすぎると、コンマ何秒か読者の読むスピードがズレてしまうので、それを防ぐためにトーンも貼らないようにしています。
とにかく、読者に負担をかけないことが1番重要なのでしょうか?
森繁:読みにくい作品は「つまらない」って言われることがあるんですよ。漫画を読む人は「面白い/つまらない」という言葉だけで話しがちですが、もう少し本人の言いたいことを明確にすると、「読みにくくて伝わりづらいからつまらなく感じている」という結論に至ったりします。
そのために、できるだけ情報量を絞って描いていくのですね。
森繁:ただ、迷ったり考えたりするのには時間がかかるんですよ。描き込んだ方が良いのか、描かない方が良いのかをしっかり考える時間は十分にとっています。
僕はかなりトーンを貼らないほうなんですけど、選択はしっかりやっています。はたしてこのトーン1枚を貼った方が良いのか貼らない方がいいのか、必ず考えます。アシスタントに来た人に「まだですか」って言われて、一応貼って貰ってから「やっぱ剥がして!」ということもよくあります。
白い部分をどこまで増やすかは、かなり大事にしてます。白い所を見ろっていうのもおかしな話ですけど、いらない情報を削るっていうのはかなり気をつかっているので。これは作者的にも効率が良くなってとてもプラスなんですよ。
あと、僕の絵は特にトーンや描き込みの線に合わなくて……元々は全部のコマに陰を付けていたんですけど、絵に合わないので止めました。下手には下手なりに、合った絵というのがあるので、ここまでっていう描き込みのラインがあって、それより描き込まないように気をつけています。
『あねぐるみ』『いいなりゴハン』について
先生は「関くん」以外にもは多数の連載を抱えております。
まずはまんがタイムにて連載していたの『あねぐるみ』についてからお聞きします。執筆にあたっては、芳文社の編集部から声がかかったのですか?
森繁:そうですね。関くんの単行本が出る前のかなり早い段階で、是非ウチでもと声をかけられました。ただ、本当に4コマ漫画って描くことが多くて本当に大変で、正直苦手意識が拭えないです。
どういった所が難しいのでしょうか?
森繁:6ページなので、ネタを11本出さないといけないのがなにより大変で。毎回慌ててネタを考えるんですけど、慣れてない人間にはとても出来ることではないですね。大学の先輩に「小坂俊史さん」という4コマ漫画の先生がいて、トーン貼りを手伝いに行ってた時期があったので、その苦労を知っていたから最初は結構断ったりもしていました。まあ辛い辛い(笑) 頭が真っ白で、なんのアイディアも出ない状況が凄いストレスになって、しかもそれが1週間ぐらい続いくことがあります。
最近の4コマの傾向だと、キャラの魅力を出すように言われたりしないのでしょうか?
森繁:やっぱりキャラクターは大事にすろのと、あとあまり台詞を多くしないようにとは指示をよく受けますね。
4コマだからといって気軽に描けるものではないのですね……
では次にジャンプ改で連載している『いいなりゴハン』について。(※実姉である東村アキコ先生に指定された場所にグルメリポートに行くという、一風変わったエッセイ漫画。)連載の経緯については本誌1回目に描いているので、読んでいない人はそちらを読んで頂きたいのですが。
森繁:だいたいあの通りなので。僕はなるべく真実しか描かないようにしています。嘘を付くほどの労力も出したく無いので、大体その通りに描いてます。
際どい発言です(笑) グルメ漫画ということで、食べ物を美味しそうに描かなければならないのは大変だと思うのですが。
森繁:チャンピオンで没になったネームが料理モノだったりもして、そんなに苦手だとは思っていないです。ただ、料理を美味しそうに描いてもネタにならないので、それを前フリや繋ぎとして描いてますね。
やはりお姉さまとの関係が、読者としては気になるポイントだと思うのですけど。
森繁:大体「いいなり」の通りですよ。あれだけとやかく言ってくると、母親とそう変わらないです。とはいえウチの姉は凄い喋りが面白いので、僕がずっと話を聞く感じで。取材の時も、姉の話を聞いているだけですよ。
毎回の苦労が伝わってきます(笑)
森繁:取材のときも「知ってる、あの雑誌の発行部数が……」とか漫画で話題に出来ないことばかり話していて……なんでこんな話ばっかりするんだよと。ホント毎回タダの飲み会ですよ、全然協力されてない。
その振り回されっぷりが毎回のポイントだと思うのですが(笑)
森繁:正直に描かざるをえない。漫画でいうと、福満しげゆき先生が描いていらっしゃる面白さが大好きなので参考にしています。嘘をつかず、とにかく思った感情をちゃんと描くようにしています。
コメディの火を絶やさないためには
最後に、コメディ作家としてのこだわりのようなものを聞いていきたいです。ものすごく基本的なことなんですけど、「ギャグ」と「コメディ」の違いってなんでしょうか?
森繁:編集さんでもその辺りの区別がついていない人が多いです。全体的なストーリー仕立てとか舞台の空気みたいなので笑わせるのがコメディで、喋って面白い、突っ込んで面白いみたいな、面白さを並べたものがギャグになると思います。漫画なら、コメディは流れで笑わせるタイプ、ギャグはコマごとに笑わせるってことですかね。だから僕は台詞だけで笑わせるのはできないので、ギャグは苦手になります。
映像作品でいうと、三谷幸喜さんはコメディになります。三谷幸喜さんのものはクスクス笑いの積み重ねなので、あれはすぐにはウケないんです。一方で宮藤官九郎さんの台詞回しはギャグです。どんな年寄りのおばちゃんでも、ツッコミが出来るみたいな世界。
漫画家でコメディ作家として定着している代表を挙げるなら、『それでも町は廻っている』の石黒正数先生ですかね。あんなに天才でも、苦労した時期が長いはずですし、コメディを目指す人は茨の道ですよ。うすた京介先生がちょうど真ん中ですよね。ギャグもコメディも自由自在で。コメディ・ギャグ漫画家は皆影響を受けていて、例えば心の中でのツッコミみたいなのを発明、定着させたしまった人です。僕も横井さんを代表に、ツッコミ台詞はどうしてもそうなっちゃう。
とにかく漫画というジャンルにおいて、現状で純粋なコメディ作品はないに等しいです。唯一の例外が美少女系ですね。『けいおん!』とか、美少女系や萌え4コマに普通のコメディが現れはじめたときは、自分はなんだったのかと頭を抱えました……コメディをこんなに愛してきたのに、「美少女が描けない」というだけで仕事がこないのかという悲しみがありました(笑)
これからもコメディを描いていきたいのか、それとも別のジャンルの作品も描いてみたいですか?
森繁: 基本的には望まれる所で描くだけです、望まれる所に漫画家さんは存在するので。やっぱりコメディとか短いのが評価されたのなら、それをやり通したいですし、やり通すのが義務だと思います。人から良かったよと言ってもらえるのも励みになるし、スタイルを貫くようには目指していきたいですね。ただ、「関くん」だけを続けるのは内容的にも辛いでしょうから、同じような面白さをまた別な作品でも届けられるかが、本当の挑戦な気がしますね。
先ほど言ったとおり、コメディ漫画は今死にかけているので、コメディ好きの新人さんは辛いと思いますよ。僕も随分描きましたけど、結局10ページの、ほとんどギャグ漫画として扱われるようなもので初めて人気が取れたので……
とはいえ自分も、コメディの火を絶やさないようにはしていきたいです。もし今から新人さんがコメディを描きたいと思ったら、ストーリーよりも先に形式から、例えば10ページとか4コマとか、6ページくらいのショートだとかから決めると取り組みやすいかと思います。形から変えないと新しいもの扱いされないので、皆が楽しみやすい漫画を描くために形式や手法から考えていくのが、これからのコメディ作家の試練なんじゃないかと思います。