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[猫とふたりの鎌倉手帖/アニマル部!〜葉桜中学アニマル部〜etc……]吉川景都先生インタビュー

ミステリー、歴史、コメディ、聞き描き、猫……様々なジャンルを描く多才な漫画家、吉川景都先生にインタビューしました!漫画家デビューは2回目?!「未だに漫画家になりたいと思っている」など、驚きの漫画家人生についてお話してくださいました!

2回目のデビュー

漫画家を目指したのはいつ頃ですか?

吉川景都先生(以下吉川):私が9歳の時に、『りぼん』(集英社)で13か14歳でデビューした人がいたんです。それで1ケタの年齢でデビューしたらすごいよなと思って、母親に漫画を描いて見せたりしました。漫画家と言う職業を意識し始めたのはその頃ですかね……。

漫画の描き方はどうやって知りましたか?部活等で学んだのでしょうか。

吉川:中学は吹奏楽部、高校は演劇部、大学はギター部だったので、漫画を部活でやったことはありません。小学5年生ぐらいの時に、遊ぶチームみたいなのがあって、皆で漫画の描き方が載っている本を読んだり、漫画の描き合いっこ見せ合いっこをしたりしていました。デビュー後には、アシスタント先の藤栄道彦先生のもとで、背景の描き方など基本的なことを教わりました。本を見るより、アシスタントをやったほうが絶対漫画の描き方を学べます。今はアシスタントさんに手伝ってもらっている側ですが、アシスタントさんから学ぶことも多いです。一緒に学びながら頑張りましょうという感じですね。

吉川先生のもとで、アシスタントさんはどう活躍していますか?

吉川:私の場合は、ネームが半分ぐらいできた段階で、アシスタントさんに来ていただいていることが多いです。背景を先にどんどん描いてもらっちゃいます。だいたい、2人くらい来ていただいていますね。多い時は3人、少ない時は1人とか。『片桐くん家に猫がいる』(以下『片桐くん〜』)始めたときは、知り合いの方などに来ていただいていたんですが、もっと来てほしいなと思って、アシスタント募集サイトで募集をかけました。結構いろんな方がメールをくれましたよ。そしたら、成人漫画のアシスタントをやっている方が、作画見本を送ってくれたんですね。それがすごくエッチで(笑)。今はその方いませんが、成人漫画を描く方って、女の子の体にトーンを貼るのがとてもきれいなんですね。お願いしたいなという気持ちはあるんですが、ウチはそんなにトーン貼らないので。

初めての持ち込みはいつでしたか?

吉川:大学2年生の時、『月刊Asuka』(角川書店)に初持ち込みをしました。その後は、白泉社さんにしぼって『花とゆめ』『LaLa』に持ち込みをしていました。2、3作目くらいに賞にまわした漫画がひっかかって、『LaLa』の担当さんがつきました。同人活動と平行で、持ち込みを続けて、1年後くらいにデビューが決まったんです。でも、翌月くらいに、やっぱりギャグ漫画のほうが向いているんじゃないかって思って自らやめたんです。「すみませんが、別のジャンルを描いてみたくなったんで」と手紙を担当さんに渡して……。

その後はどうされていましたか?

吉川:本屋でバイトしていました。自分のサイトを作って、私の自画像のうさぎがドラクエ風の冒険に出る漫画とかをちょくちょくあげていました。それを見てくださった芳文社の方が4コマを描きませんか、と言ってくださったんです。

それが『24時間サンシャイン!』なんですね。初連載はどうでしたか?

吉川:そうですね、楽しく描けたと思います。ひと月に6枚だったんで、いきなり大変ではなかったです。でも、単行本にできなかった話があるので、それがかわいそうでした…。1巻がもうちょっと売れたら2巻が出たんですけど。

この連載で学んだことはありましたか?

吉川:起承転結はもちろん、キャラクターの作り方を学びました。この漫画の登場人物が一番基礎になっていますね。変な店長がいて、ツッコミ役のかわいい女の子がいて、ヤンキーのお母さんがいて、眼鏡君がいて。この4人の形が変わったものが他の連載でも形を変えて出てきているみたいな感じですね。ひとり変わっている人がいて、それにツッコむっていうのが好きなんですよね。あと、主人公があまり冴えなくて、かっこいい友達がいるという設定も好きです。

別ジャンルへの挑戦

それでは次に、吉川先生の漫画制作についてお聞きします。ストーリーは具体的にどう考えていますか?

吉川:まず、起承転結4分割して考えて、それに沿ったキャラクターを考えます。あと、私の場合は、いきなり描き始めずに、頭の中にふわふわした状態のストーリーを置いといて、雑誌に載っている自分の漫画をイメージできるくらいまで置いておきます。そうすると、描き始めると描けることがあるという……。イメージした通りの漫画が描けた時はとても楽しいです!文章にしちゃうとそれだけしか思い出せなくなっちゃうので、ネタ帳とかはあんまり作らないです。

記憶力がいいですね!猫のネタを逐一メモしているのかと思っていました。

吉川:猫を4匹も飼っているので、猫漫画のネタは周りにあふれかえっています(笑)。取材先でお話いただいたことはメモするんですが、最終的には自分の記憶頼りです。メモをとるのに集中してしまうと面白いことを聞きそびれてしまう気がして……。読者のオタク事情を描いた『オタリーナのオタ的恋愛事情 恋だか萌だかわからない。』(以下『オタ的恋愛事情』)でも、ネタを書き留めたりとか、最初から全部の出来事に向き合ったりしたら、おもしろかった部分が分からなくなってしまったのではないかと思います。ストーリーだけでなく、絵の面でも、『アニマル部!〜葉桜中学アニマル部〜』(以下『ア部!』)では、描く動物のスケッチをしてから、何も見ないで原稿を描いています。スケッチして覚えた動物の一番かわいい部分が描けていたらいいなと。でも、背景は資料を参考にして描いていますよ。

では、プロットはどのように作っていますか?

吉川:B4の紙を8等分にして描いています。久保ミツロウ先生の『3.3.7ビョーシ!!』の1巻か2巻にあった、おまけページにこの方法が描いてあって、それを見て以来ずっとです。そしてここら辺で、担当さんと打ち合わせをします。ここが一番の山場ですね!後ろ半分ごっそり直しとかあります。

厳しいですね……!

吉川:でも、最初にプロットやネームを見てくれる人が楽しんでくれないと先に進めないですからね。的確な指示をいただける担当さんは、大切な存在です。私の場合は、出版社ごとに担当さんが違うんですが、いろんな人と話ができるほうが、多くの見方が勉強できていいですね。ひとりで描いていると、視点がひとつですよね。だから、担当さんに見てもらうと「あれ?ここ、こうじゃない?」と指摘されて「ああ!ここつじつまが合わない!」となったりします。

背景はどう描いていますか?

吉川:登場人物がどこにいるかわかるようには最低限していますが、最近は、背景を描くのが楽しくなってきたので、増やそうと思っています。その時々で違いますね。『踊る産科女医』では、掲載雑誌が『女性セブン』(小学館)だったこともあって、華やかでかわいい感じにしたかったので、背景は柄トーンを増やしました。『子どもと十字架天正遣欧少年使節』(以下『子どもと十字架』)『葬式探偵モズ』の時は、逆に背景を描きこんだり、ベタ塗ったり。そのお話に合わせた仕上げ方をするのが好きです。

コマ割りはどう決めていますか?

吉川:コマ割りは苦手なので、3段に別けるベーシックなコマ割りが多いですね。少女漫画で表情がよくわかるようなコマ割りしていたり、少年漫画のアクションシーンで迫力が出るようにコマ割りしたりしているのを見ると、すごいなあと感心します。私は、担当さんに毎回「このページの見せコマをもっと意識して描きましょう」とか言われ続けているので……。そう言われる度に「ああ、なるほど。」と納得するのですが、なかなかひとりではできないです。

タイトルはどう決めていますか?

吉川:毎回いっぱい案を出します。担当さんと、あれでもないこれでもないと言っているうちに「あ!これだ!」となるのが1個あるんですね。それを探す旅みたいになります。どんな漫画なのかタイトルを見てわかるように決めなければいけないのはわかっているんですが、時間がかかりますね。

現在、吉川先生は複数連載を抱えていますが、どうスケジュールを組んでいるのでしょうか?

吉川:両手に荷物を抱えてのハードル走みたいなものですね。荷物が平行して行っている作業で、締め切りがハードルみたいな……。バタバタとハードルを倒してしまうのですが(笑)。

事実に基づいた話を漫画化するにあたって気をつけていることはありますか?

吉川:もともとファンが多い歴史を元にした『子どもと十字架』は、大きくイメージを壊さないように気をつけて描きました。エッセイ漫画では、ツッコミの台詞がきつい言葉遣いにならないように気をつけています。

吉川先生の漫画には聞き描き漫画という珍しいスタイルをとっている漫画がありますよね。この経験は今どういきていますか?

吉川:人に会って話を聞き、それを漫画にするという経験は、他の漫画にはない楽しさがありました。キャラクターが自分の子どもみたいだ、という漫画家さんがよくいらっしゃいますが、私の場合は、インタビュー相手みたいな感覚です。『片桐くん〜』の登場人物はどこかで生活していて、インタビューをさせてもらって漫画化しいている、というぐらいの距離感です。それは、聞き描き漫画を描いていたからだと思います。

なぜ、様々なジャンルの漫画を描こうと思いましたか?

吉川:私、飽きっぽいんですよ。いろいろ描いてみたくて。だから「作者買い」できないってよく言われます。私の漫画を読んで面白いと思ってくださって、私の他の漫画を買っていただいても、全く別のジャンルになっちゃうんですよね……。

漫画家になりたいから描き続ける
様々なジャンルに挑戦し、多くの漫画を描いてきた吉川先生に、連載をどうとってきたのかお伺いします。『わたし、オタリーナですが。』(以下『オタリーナ』)の連載はどう決まりましたか?

吉川:『24時間サンシャイン!』が出版された時もまだ、本屋でアルバイトをしていたんですね。それで、店長さんが店頭にいっぱい置いてくれたんです。そしたら、マガジンハウス編集者の方が偶然手に取ってくれたんですよ。その頃は『となりの801ちゃん』『ぼく、オタリーマン。』『腐女子彼女。』等のオタク文化の本が売れていた時期でした。で、私のことをオタクだと見抜いてくださって(笑)。それで「オタクっぽい漫画描きませんか」と。マガジンハウスはオシャレ系の雑誌ばかり出している出版社だったので、オシャレ系のお仕事がきた!と思ったら違いました(笑)。

『オタ的恋愛事情』の連載はどう決まりましたか?

吉川:『オタリーナ』を読んでくださったガンホーの編集さんが「やりましょう。」と言ってくださったんです。『オタリーナ』で自分のことは話し尽くしてしまったので、投稿を募集するスタイルにしました。

『フラ男子!』の連載はどう決まりましたか?

吉川:『片桐くん〜』を見てくださった編集さんが、ウェブスピカで連載しませんか、と声をかけてくださいました。ジャンル指定はなかったので、マイブームだったフラダンスにしました。女の子がやるイメージのダンスを、男の子が踊るのをテレビかなんかでちらっと見たんですね。それがすごくかっこよかったんです。でも、実際踊っているところを漫画で描く事って、すごく難しくて四苦八苦しました。

『踊る産科女医』の連載はどう決まりましたか?

吉川:「宋先生の本を元に漫画描いてほしいんですけど」と出版社の方からお話をいただきました。やります!やります!って(笑)。企画ありきでしたね。

原案の『産科女医からの大切なお願い―妊娠・出産の心得11か条』(無双舎)をどう漫画化していきましたか?

吉川:本を見ながら、案を描いて、宋先生と担当さんに見せてから描いていました。けっこう自由に描かせていただきましたね。漫画にすると伝わりにくいシーンはいろいろ足したりしました。例えば、女の子が妊娠してしまった話があったら、その文に男の子の描写がなくても、描いたりしました。宋先生の言いたいことを伝えるために漫画を描く、というスタンスがありました。自分の漫画という意識はなかったです。

読者の反響はどうでしたか?

吉川:「自分の子供にも読ませたい」「知らないことがいっぱいあった」と言ってくれました。宋先生のやっている啓蒙活動のお手伝いができてよかったですね。今度、朝日新聞の夕刊で宋先生が連載を始めるんですが、それに挿絵漫画を描かせていただくことになりました。宋先生との仕事は、勉強になりますし楽しいです。

『子どもと十字架』の連載はどう決まりましたか?

吉川:コミティアで出したオリジナルの同人誌を見てくださった角川書店の方が「今度歴史漫画雑誌が出るんですが、どうですか。」と声をかけてくださいました。それまでに出ていた漫画は、ショートコメディが多かったので、そのお話がきた事が奇跡でした。おお〜きたぞ〜って(笑)。

今まで描いてきた漫画と違って1話あたりのページ数が多いですよね。

吉川:私の漫画の中で最長ですね。50ページの時は本当に死ぬと思いました(笑)。月刊の漫画家さんは40ページ描かれるじゃないですか。ほんとすごいなと思いました。描いても描いてもあるので(笑)話を考える事にも描く事にも時間がかかりましたが、編集さんがとても経験豊富な方で、いろいろ教えていただきながら描きました……

具体的にどのようなことを教えてもらいましたか?

吉川:山のようにありました!それで1冊本ができるのではないかというくらいです。例えば、主人公が初登場するシーンとかでも、「こう出した方が読者さんにささるからこうしましょう」と提案してくれたり……。あと、とにかくキャラ同士名前を呼べと言われました。普通の会話の中では名前を呼び合ったりはしないですが、読者さんに自然に覚えてもらえるように名前を呼び合うような台詞を意識しながら決めたりとか。

たくさんある天正遣欧少年使節についての資料をどう漫画として使っていくか悩みませんでしたか?

吉川:歴史漫画を描くのは初めてだったので、ひねりすぎないように……。皆が知っている歴史上の事実を外さないようにして、あとは自分が描きたいものを描きました。でも、学習用の歴史漫画とは違うので、ある程度アレンジを加えました。ビジュアル面では華やかにしたかったので、ほんとは皆坊主だったんですが髪型を変えました。

『葬式探偵モズ』の連載はどう決まりましたか?

吉川:『子どもと十字架』の連載のお話をいただいてから、それを掲載する『サムライエース』(角川書店)の創刊が遅れたんですね。それで、その間何も描かないのはなんなので、同じ角川書店から出版されている『コミック怪』(現在休刊)で読み切りをやりませんかと言ってくださって……。あとから連載になりました。ちょうど、『ア部!』の担当さんが、葬式がおもしろいと言っていて、私も民俗学など興味があったので、いろいろ調べていたんです。最初は葬儀屋の話とか考えていましたが、葬式探偵にしたら、事件が始まった時点で人が死んでいて、どうしようもないところから始まる手遅れ感がおもしろいかなと。

初めてのジャンルであるミステリーストーリーを考えるのは難しかったですか?

吉川:例えばですが、ギャグ漫画で、1コマ前で背負っていたはずのカゴを背負っていなかったとしても、まあギリギリなんとかなるかと思うんですが、ミステリー漫画では、お話が成り立たなくなるので、そうはいかない。昔から大好きだったミステリーを描くチャンスをもらったので、頑張ろうとは本当に思っています……。

『片桐くん〜』の連載はどう決まりましたか?

吉川:出版社の方から、猫漫画描きませんかと依頼を受けました。

猫中心の漫画でしたが、話が進むにつれて人間中心になってきましたよね。

吉川:担当さんと話し合って人間中心にしていったわけではないんです。だんだんそういうふうになっていきました。加藤さんは、片桐くんの結婚相手を想定してではなく、単なる職場の女の子として登場させていました。最初はとにかく猫のかわいさが描ければよかった。

『片桐くん〜』は、『月刊コミック@バンチ』3月号から『猫とふたりの鎌倉手帖』としてスタートしました。なぜタイトルを変えたのでしょうか?

吉川:担当さんに「新装開店しましょうか」と提案していただいたのがきっかけです。『週刊コミックバンチ』から『月刊コミック@バンチ』に掲載移動して、ページ数が増えたあたりで、ちょうど、片桐くんの私生活に変化が出てくるだろうなという時だったんですね。そろそろ、片桐くんが加藤さんにプロポーズするんじゃないかなーって(笑)。ちょうどいいタイミングでリニューアルできたので編集さんには感謝しています。

なぜ、片桐夫婦が引っ越すことにしたのでしょうか?

吉川:新婚さんなので、家を引っ越したほうがいいかなというのと、それなら知っている土地の話にしたほうが描きやすいと思って、出身地である鎌倉にしました。いいスポットが多いので、描いていて楽しいです。資料写真を撮るという口実で、小旅行できたりします(笑)。

恋愛漫画ではなく夫婦漫画にした理由はありますか?

吉川:本当は恋愛漫画を描きたいんですが、照れちゃって描けないんです。でも、漫画家さんが照れながら描いてくれたであろう少女漫画は大好きです!!『猫とふたりの鎌倉手帖』では、パートナーのいる生活の良さを伝えることができたらいいですね。

漫画家という仕事のやりがいは何だと思いますか?

吉川:自分の好きなことをやっている充実感がやりがいですね。この前、コミティアの出張編集部へ持ち込みしに行ったんですが、いろいろな批評をいただいて、勉強になりました。私、未だに漫画家になりたいと思ってるんです。ゴールはまだ全然していません。小さいときからの憧れの職業である漫画家になりたくて、今も頑張っている自分がいつまでもいるんです。今でも、漫画雑誌の新人賞結果発表のページを見るとすごく羨ましい気持ちになります。

最後に、漫画家を目指している人にメッセージをお願いします。

吉川:月並みな話ですが、漫画を描くには、漫画を描く以外の経験が大事かなと……。出来るだけ、漫画一本にならずに、遊びに行ったりスポーツをしたりするといいと思います。そして、自分の長所を自分で決めず、人が言ってくれる長所を伸ばすように意識するとか。あと、自分が向いていないと思うお仕事の依頼がきても、まずやってみると意外と向いているかもしれません。とはいっても、私もまだまだ自分探しの最中なので、ぜひ一緒に頑張りましょう!