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速水螺旋人先生インタビュー【靴ずれ戦線/大砲とスタンプ】

物資の輸送や補給などの後方支援が主な任務という架空の軍隊「兵站軍」を舞台に、戦闘だけではない兵士たちの日常を丁寧に描く『大砲とスタンプ』。作者の速水螺旋人先生は、ミリタリーやソ連邦(!?)に対する溢れんばかりの知識と熱量を駆使した細やかな描写に定評のある漫画家である。今回はそんな速水先生に直撃し、『大砲とスタンプ』の制作話や、先生の創作活動のルーツをお聞きしてきた!

さっそく『大砲とスタンプ』についてお聞きしていきたいと思います。まず、「兵站軍」というアイディアを使って、補給や輸送といった軍隊における目立たない仕事をクローズアップしているのが本作の特徴です。

速水螺旋人先生(以下速水):まず『大砲とスタンプ』は、ミリタリー関係の趣味を持っていない人でも分かりやすい話にしようと思ったんです。なので、ミリタリーに馴染みのない人に一から細かく兵站の仕組みを解説するよりも、兵站軍という組織がある世界というぐらいに漫画的なデフォルメを強くした方が伝わりやすいだろうなと。描く方としても、それぐらいざっくりした設定の方が描きやすいところもありますね。

主人公である「マルチナ・M・マヤコフスカヤ」はどのようにして生まれたのでしょうか。

速水:メールゲームという、郵便やEメールを使った多人数参加型のTRPGのようなゲームがあるんですが、実はマルチナは『パラダイス・トリガー』というメールゲーム用に作ったキャラクターが原型なんですよ。その時のキャラクターが結構お気に入りだったのでまたどこかで使いたいなと前から思っていて、ちょうど『大砲とスタンプ』向きのキャラだったので使うことにしました。

以前出された画集(『螺旋人リアリズム』イカロス出版)にマルチナのプロトタイプ案が出されていますが、そこでは190cmという設定でしたよね。

速水:そうなんですよ。ゲームの時には超長身の女の子で、しかも巨乳(笑)。

今の「背が低くて貧乳を気にしている」というキャラ付けとは真反対ですよね(笑)。

速水:前のめりな官僚主義者で、眼鏡でベリーショートな髪形で、高身長で巨乳……これではちょっと要素を盛りすぎだろうと感じまして(笑)。それに「体が大きくて気が強い」というキャラ付けも普通すぎるなと思いました。背が低くて一見大人しい感じの娘が実は気が強い、という方が、それも定番と言えば定番ですけどキャラとしては立っているなと思って。あとは「官僚主義者」という変化球な性格付けがある分、読者にも馴染みやすい要素が少しはないとさすがに厳しいだろう、というのもありました。

官僚主義者といえば、先生は常々「官僚主義萌え」を主張されていますよね?

速水:これぞお役所仕事という出来事に遭遇すると楽しくなりますね。組織的な不条理を垣間見るのが大好きなんです。世の中の人は楽しくならないんですかね?(笑)。

一体どういうところに惹かれるのでしょう?

速水:その不条理さに、すごく人間社会的なものを感じるんですね。「これが世界だ!」というか(笑)。世の中、人間はもっと合理的に動くんじゃないかと考えている人が沢山いますが、自分はそんなことはないだろうと思っているんですよね。

『大砲とスタンプ』でも、様々な「お役所仕事」がコミカルに描かれていますよね。

速水:直接的に元ネタにしている話はないんですけど、似たような話は戦史を読んでいるといっぱい出てくるんですよ。世の中は想像以上にアホらしくできているんだなというのがよく分かります(笑)。たとえば第二次大戦でソ連軍が奇襲された時に、前線部隊が「攻撃されている、どうすれば良いか」と司令部に連絡したら、「なぜ暗号を使わないんだ馬鹿者!」という返事が来たとか(笑)。人間合理的に動くばかりじゃなく、もっとどうしようもないことでも動いていたりするんだよということとか、当人たちは合理的に動いてるんだけれども全体として見たら不条理きわまりなくなっていたりとか、そういうのは『大砲とスタンプ』で描いていきたい所ではありますね。

戦場という極限状態だからこそ、人間の駄目な部分も浮き彫りになってしまうということでしょうか。

では次に、主人公マルチナの上司キリール・K・キリュシキン大尉について教えてください。

速水:キリールは最初からこういうキャラにしようという確固としたイメージがあった訳ではないですね。とにかくマルチナがとんがっていてギスギスしたタイプのキャラクターなので、バランスを取るためにものんびりしている奴の方が良いだろうなと。あとマルチナの上役が要るなというのはあったんですけど、その人が自分で何でもかんでもやっちゃう有能な人だとマルチナに出番がなくなっちゃって良くないので(笑)、そこは怠け者にしないといけないだろうと。色んな意味でマルチナと逆なんですよね。軍人になりたくてなった人でもないし。そういう意味では、マルチナが読者に感情移入しにくいタイプだなと思うんで、馴染みやすいキャラにしようという感じで決めていきました。

キリールは陰に隠れて(?)SF小説を書いているという設定が加えられています。

速水:キリールはオタク的なものの最先端にいる人というキャラ付けをしたかったんですね。それと世界観のイメージとして30~50年代辺りの年代を意識して作っているので、当時のオタク的なものとして最先端なのはSFかなと。もっと現代に近い舞台だったらライトノベルを書いていたかもしれません(笑)。

それはそれで読んでみたい気も(笑)。頼れるベテランボイコ兵長と、兵站軍にいながら読み書きが出来ないというアーネチカはどうやって誕生したのでしょう?

速水:マルチナは常にピントがズレているし、キリールは怠け者だしとなったら、勤勉な軍人も一人ぐらい置いておかないと話が回らないのでボイコを置きました。
そして、官僚主義萌えと並んで世間で公言しにくい僕の趣味として「文盲萌え」というのがあるんですよ。日の目は見ませんでしたが、主人公の女の子が文盲キャラという漫画の企画を考えたことがあったぐらいで。世の中の人はもっと文盲のことを知るべきだ!という思いで描いてみたいのがアーネチカですね。それに兵站軍のマルチナがいる部署は頭脳労働のところなので、頭脳労働らしくない人をとりあえず放り込んだら話が転がるだろうという狙いもありましたね。

なるほど。しかし、文盲萌えとはまたエッジが立った嗜好ですね(笑)。

速水:お断りしておきますが、現実に文盲が増えれば良いとかはまったく思ってませんよ(笑)。ただ文盲の子が、字を書けるようになって喜ぶというのは定番で良いシーンだなと思います。それと日本だと、自分達が字を読めることがあまりにも当たり前なので、字が読めない人がいる社会を考えてみるのは意味のあることかもしれません。アーネチカが好きだと言ってくれる読者の方も結構多いので、嬉しい限りです。

それでは次に、作品の世界観をどのように作られていったのかお聞きしたいです。

速水:一般的な読者の方が具体的にイメージできる戦争といったら第二次世界大戦ぐらいまでだと思ったので、先ほど言った通り年代は30~50年代を意識して作りました。それに、現代の戦争だとゲリラ対正規軍といった、非対称戦争が多くなっちゃうんですね。大きな国同士がガチンコで殴り合うというと、それぐらいの年代が一番しっくりくるだろうなと。
あと編集さんとは、もっと具体的な国名を出した方が良いかと相談していたんですが、そこにロシアやポーランドといった名前を出すとかえって世界観的にしっくりこないなということで、「大公国」や「帝国」といったようにぼやかした名称になりました。

あくまで、自分達がいる世界とよく似てはいるものの、全く別の世界であると。

速水:特に、マルチナのペットとして出てくるスタンプが大きなエクスキューズなんです。あんな八本足の生き物がいるんだから、この世界は現実とは別物なんだよという。スタンプは編集さんから「マスコット的なキャラクターを出しましょうよ」というアイディアを提案されて出したのですが、僕の中からは出てこなかったアイディアなのですごく有難かったですね。

マスコットキャラでありながら、世界観を支える重要な役割がスタンプにはあるのですね。世界観といえば、作中世界で一番の強国である「帝国」が、地図上では現実のポーランドの位置にありますよね。

速水:あの世界で一番強いのがポーランドっぽい国なのは、僕の趣味などがモロに出ていますね(笑)。それにドイツ風の強大な帝国というのはありがちな設定だと思うので、それだけでは読者に引っかからないと思うんですよ。あとこれは話の作り方とも関係してくるんですけど、ポイントポイントで具体的に顔が浮かぶ友達や知り合いなど、特定の人が喜びそうなネタを入れるようにしているんです。そうやって特定の誰かにウケたら、その背後にはおおよそ千人ぐらいは同じような趣味嗜好を持つ人がいると思っていますし、それを積み重ねれば全体としてもっと多くの人に届きますよね。それに具体的な焦点があった方が描く側として話も作りやすいですし。

ここまでお話や設定作りについてお聞きしてきました。今度は、作画のこだわりポイントなども教えてください。

速水:架空の世界でも、その人達がその場で生きているんだという生活感みたいなものは常に出したいと思っています。あと僕の絵ってかなりデフォルメが効いているほうなので人によっては全然感じられないかもしれないですけど、靴底を通した地面の感じとか、触覚に訴えかけられるような絵を描きたいとも思っています。
これは仕上げの話ですけれでも、もう十年以上前に内藤泰弘先生が「コミッカーズ」という雑誌で「ベタかトーンか迷ったらベタにしろ」ということをおっしゃっていて、かなり印象的だったので今でも意識しながら描いています。確かにベタが多い絵は、ページ全体が映えてくるんですよね。

先生の絵柄はデフォルメが効いた可愛らしいものですが、そんなキャラがバタバタと戦争で死んでいくのが衝撃的です。

速水:戦争ものを描いている以上、人死にが出ないのは嘘だろうと思います。なので『大砲とスタンプ』のメインキャラでも誰かを死なすことはできないものかと、それもドラスティックにではなく、ドライに死なせないものかといつも思いながら描いています(笑)。

そのお話を聞いてしまうと、今後の展開も油断ならない感じがしますね……また、『大砲とスタンプ』には、一ページ大の登場メカ紹介が各話に一回必ず登場します。

速水:あれは編集さんの要望ですね。それまで一ページのメカコラムというのをよくやっていたので、「あれが速水さんの売りですので是非こちらでも書いてください」と。あのページを描くのは毎回大変です。メカのネタ切れというか、人が空想で考えるメカよりも現実のメカの方がよっぽどヘンテコだったりするので(笑)。

なぜ速水先生は「ヘンテコ」なメカをよくお描きになるのでしょうか?

速水:僕は駄目な兵器や弱い兵器が好きなんですね。これには明確な理由があって、自分がもし軍隊に引っ張られたとして、強くてピカピカの兵器が使える精鋭部隊に行くとはとても思えない(笑)。きっとどうしようもない部隊にあてがわれるに違いないし、そうするとダメな兵器に親近感を覚えてしまうんだと思います。

ここから先は、速水先生の作品作りのルーツを、時系列順に探っていきたいと思います。まずは、先生がミリタリーに興味を持つようになったきっかけについて。

速水:禁止というわけではなかったんですが、両親があんまり漫画を買ってくれなくて、小さい頃は家に元からある漫画ぐらいしか読めなかったんですが、そこにあったのが恐ろしいことに復刻版の『のらくろ』で(笑)。『のらくろ』は日本軍がモチーフなので階級章の読み方などが全部載っており、そこで軍事関係の基礎知識を得た感じですね。それと自分の父が軍事関係が好きな人だったのと、戦記ものなど当時はまだ子ども向けのミリタリー本なんかも一杯あって、その辺も一緒に読んでいました。あとは、親戚の家に置いてあった松本零士先生を読んだのが大きいですね。

松本先生の著作ではどのようなものを?

速水:これはもう、『戦場まんがシリーズ』です。今は『ザ・コクピット』っていう名前の方が通りが良いのでしょうか。サンデーコミックスから出ていた戦争ものの読切漫画を集めたシリーズが全部で九巻まで出ています。僕の小学生の頃は松本零士全盛時代というか、テレビでは『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』が放映されていましたから、自然と漫画も読んでいた感じです。それに松本キャラの美形じゃない方、デブで短足タイプのキャラクターは小学生にも描きやすかったので、よくマネして描いていましたね。

ほかに、幼い頃印象に残っている作家さんはいますでしょうか。

速水:影響が強い人といえば、小学校五、六年生ぐらいの時に当時のくもん出版社が「コペル21」という子供向け科学雑誌を出していまして、そこで『ワンダートレック』という漫画を連載していたかがみあきら先生のことを知ったんです。かがみ先生は80年代頭でオタク業界の最先端に居た人で、いわゆるメカと美少女という組み合わせの一番最初の先駆けみたいな人だったんですね。その人の漫画の新しさに衝撃を受けました。なので僕の場合、魂のラインには松本零士先生の絵があるんですけれども、意識的に自分の絵に取り入れようと、それこそ模写みたいなことを始めたのはかがみ先生が最初です。僕の世代でかがみさんの影響を受けた漫画家さんは、多分すごく多いと思いますね。ただ、今の僕の絵を見ただけでかがみ先生の影響を受けていると分かる人は100%いないと思うんですけど(笑)。

中学校に上がってからは、どのようなことがありましたか?

速水:中学生の頃に大きかったイベントが二つあって、しかもそれが同じ日だというのが驚きなんですが(笑)。中学校の漫研に入っていたんですけど、その時の先輩が「地元の同人誌即売会に参加するからお前も手伝いに来い」と言われて初めて同人イベントというものに参加しました。そこで同人誌も生まれて初めて買ったんですが、中学生なのでお金なんてほとんど持っていないのでめちゃくちゃ吟味して買いましたね。そこで買った同人誌が、同人では「MASH」というペンネームで描かれていた西川伸司先生―後に『YAT安心!宇宙旅行』などを作られたのですが―が描いた『ゴジラ伝説』という特撮もののパロディ漫画でした。大学の学漫で描いた作品を集めた同人誌だったんですけど、それが本当にクオリティの高い同人誌で「アマチュアでもこんなことが出来るんだ」とびっくりしましたね。
そして、イベントの帰り道に書店に寄ったら士郎正宗先生の『アップルシード』を見つけたんです。本当にもう表紙買いで一、二巻まとめて買ったんですが、中学二年という一番影響を受けやすい時期に読んでしまったせいで「かぶれ方」は、それはもう酷かったですね(笑)。

多感な中二男子には、士郎先生の作品は強烈すぎますね(笑)。それでは高校時代は?

速水:高校生になってからはTRPGを始めました。ゲーム雑誌を買っていたんで、TRPGというのがあるらしいというのは知っていたもののなんとなく縁遠かったんですが、高校生の時に『アップルシード』のTRPGが発売されたんです。士郎正宗先生にドはまりしていた頃なので、これは遊ばなきゃと周りの友達に声を掛けて回りましたね。
その辺りから始めたこととしてもう一つ、雑誌にイラスト投稿をするようになりました。「ゲームグラフィックス」と「コンプティーク」には常連になるぐらい投稿していましたね。その二誌の当時の常連さんとは、今でも付き合いがあります。

20年以上経っても関係が続いているのはすごいですね

速水:絵を描くのでいうと、浪人したのが大きかったです。本来は机向かっていないといけないんですけども、勉強しているように見せかけながら出来ることといったら、絵は最たるものじゃないですか(笑)。雑誌投稿用のイラストも、その時に沢山描きましたね。
あと僕は浪人時代に京都市内の河合塾に行ってたんですけど、塾の隣に「京都文化博物館」という建物があったんです。そこに映画のビデオライブラリーがあったんですが、博物館だからタダで映画が観られるんですよ(笑)。しかもそのライブラリーが変なところで、古典的な名作の他にアニメも結構置いてありまして、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』はそこで初めて観たぐらいで。あれは後から考えると良い経験だったと思います。

タダで映画が観放題とはなんとも羨ましい環境です!その後は大学に入られたんですよね。どういった活動をされていましたか?

速水:僕のキャリアの中ですごい断絶がありまして。大学入ってすぐの一回生の時、コミケで東京へ行くついでに持込みに行ったんです。その時は、すごく小賢しい考えなんですけれども競争率がそれほど高くないだろうと思って(笑)、エロ漫画雑誌に載っているエロくない漫画のラインを狙おうとしていました。それで八ページくらいの漫画を描いて、編集プロダクションの「コミックハウス」に持ち込みに行ったんですが、そうしたらちょうどその頃創刊された『コミックパピポ』という雑誌でなぜか漫画を描かせて貰えるようになったんです。そこで二、三回ぐらい読切を描いたんですが、これは今でも弱点なんですけど怠け者なので途中で放り出してしまう癖が出てしまって段々描かなくなってしまって……そこが漫画家デビューとはいえるんですけどその後しばらく間が空いてしまうので、あくまでかっこ付きのデビューですね。

その後はどうされたのでしょうか?

速水:結局大学は中退してしまって、辞めたあとにあちこち就職先を探していた中で、18禁ゲームの会社も受けましたね。アリスソフトやLeafも受けていました。どこも書類で落ちたんですけれども、あそこで受かっていたら人生が大分変わっていただろうなと思います(笑)。
その後に小さいデザイン事務所に入ったんですけど、給料の遅配が当たり前みたいな所だったので、これはやっとれんと思って。その頃から今でもずっと付き合いのある河嶋陶一朗というゲームデザイナーがいるんですけど、彼が勤めていた会社に来ないかと言われて、そこに企画担当として入りました。
そこも一年ぐらい勤めたんですけど、当然ですけど下っ端の仕事しかさせてもらえず段々とストレスが溜まっていき、これは自分の作品を自分でやるためにも、出来るか分からないけど漫画を描いていくしかないんじゃないかという事を漠然と思い始めていましたね。子供の頃から絵を描くのは好きだった訳で、本気でやってみない内から諦めちゃうのは良くないだろうと思って。
それで相棒の河嶋君と一緒に、とりあえず東京行くか!みたいな感じで仕事のあてもないまま上京してしまいました。今考えると恐ろしいことなんですけど(笑)。

上京してからはどうされていましたか。

速水:初めの頃は本当に仕事がなかったですね。本当に手当り次第、漫画の持ち込み等もしながら、ライター仕事とかもしていたぐらいなんで。同人誌は個人でずっと続けていましたし、当時はネットも普及してきた頃だったので、そこでお仕事のお声が掛かったりもしましたね。とにかく細々とした活動が多かったんですが、そのおかげで知り合いが沢山増えたのは良かったのかもしれません。

人脈が広がることで、色々お声が掛かる機会も増えたと。

速水:あと僕の仕事の上で結構大きいのが、「コミックガム!」で『マンションズ&ドラコンズ』という作品を連載されていた佐々木亮先生のところにかなり長い間アシスタントへ行ったことです。
当時から仕上げはすでにデジタルだったんでそのテクニックとか、あと自分は八ページくらいの短い漫画しか仕事で描いていなかったので、もっと長い漫画を描く時のペース配分や呼吸みたいなところを肌で感じることが出来ました。

当時のイラストコラムなどのお仕事は二冊の画集などに収められています。しかし、2010年から漫画のお仕事が中心になっていきますよね。

速水:まず『靴ずれ戦線』の方は担当さんが、それこそ上京してすぐの時からお世話になっているぐらい古い付き合いの人で、その人のコネで「COMICリュウ」にずっとメカコラムを書いていたんです。ただ一月に一ページだといつまで経っても本にならないんで、そろそろ漫画を描いてみませんか?と言われて描き始めたのが『靴ずれ戦線』です。
『大砲とスタンプ』の方は、これがまた経緯がイレギュラーなんですね。ネットでTAGRO先生のファンだということを公言したらなんとご本人から声をかけて頂いて、先生の『宇宙賃貸サルガッ荘』という漫画の衣装デザインや、出てくるメカのデザインをちょっとばかりやらせてもらったんです。その繋がりでTAGRO先生の担当編集さんに誘って頂きまして、「モーニング・ツー」で『大砲とスタンプ』を描くことになるんです。

現在のお仕事も、やはり色々な人との繋がりのおかげで成り立っているんですね。

速水:持込み自体も、ちゃんとやっていたのは東京に来たばっかりの頃で、声を掛けて仕事を頂くことが圧倒的に多かったです。僕はそういう裏口的な路線が多くて、どこかでちゃんとした賞を受賞したことがいっぺんもないんです(笑)。それでもこの世界に居続けることができて、自分は本当に幸せ者だと思いますよ。

それでは最後に、漫画家を目指す学生の方にメッセージを!

速水:学生の間でしか出来ないことが沢山あると思うんですよ。沢山映画を観るとか、芝居を観るとか旅行をするとか。漫画描く時には、そういう経験をストックしておくことが、自分のネタの引き出しとして後々非常に役に立ちます。逆に一度仕事を始めてしまうと、急激にインプットが出来なくなるので、学生の内は何でも良いのでとにかくネタの引き出しをたくさんため込んでおくべきだと思います。